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月夜海は、誰が為に想ふ。  作者: 朝霧唯凪
第二章:月は失せ、夜は来たらず
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43、花散らし

【お知らせ】

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!


『月夜海は、誰が為に想ふ。』の更新は、今回の43話「花散らし」をもって一旦お休みします!


大学受験が終わるまで、しばらくお待ちくださいm(_ _)m

受験が終わったら、また更新を再開いたします!


来春、またお会いしましょー!

─小夜様、無事でいてください……。


バイクとヘルメットを投げ捨てると、すぐに神社に向かって走り出した。参道で誰か倒れているのが目に入る。


「桐生さん!!」


誰かすぐに分かると、側に駆け寄った。大きな怪我はなさそうだが、意識はなく、呼びかけに反応しない。


「……すぐ助けが来ます」


治安統制局に救急隊を要請すると、朧は石段を駆け上がった。


─何でこんなに静かなんだ……。


いつもなら聞こえるはずの声も、足音もない。 嫌な静けさだけが、境内を支配していた。


石段を登り切った朧は、そこで足を止めた。

護衛陣と黒づくめの男たちが無惨に倒れている。アスファルトの黒い染み。荒らされた境内。

そこに残っていたのは、戦いの跡だけだった。


─やはり、本当の目的は……。


「……っ」


─小夜様……。


胸の奥がざわつく。

朧は震えそうになる手を強く握りしめ、巫殿へ向かった。


「小夜様!」


巫殿の中は乱れていた。漂っていたはずの穏やかな空気が、跡形もなく消えていた。


「小夜様っ!!」


部屋を見ても物置を見ても、巫殿を走り回ってもどこにもいない。


─嘘だろ……。


朧が呆然と立ち尽くした時、


「朧さん……」


背後から声が聞こえる。振り返ると、ボロボロになった篠原が立っていた。泣きそうな顔をしている。


「すみません……俺の……咎です」


朧は荒い息をつきながら、篠原を見る。


「……何が、あったんですか……」


篠原はすぐには答えなかった。

視線が揺れる。

その表情だけで、朧の胸の奥に冷たいものが広がっていく。


「篠原さん……」


呼びかけても、篠原は顔を上げない。

静まり返った巫殿の中で、時間だけが残酷に過ぎていく。

その様子に、朧の脳裏に数週間前の小夜の姿が浮かんだ。


あの喧嘩した日から、二人の間には距離ができていた。

何度も声をかけようと思った。 話をしようと思った。けれど、時間が解決してくれる。いつかまた、以前のように戻れる。

そう思っていた。


もっと話せばよかった。 もっと彼女の気持ちに向き合えばよかった。


守るべきものは、ただ命だけではなかったのだ。


花枝が、ポキリ、ポキリと音を立てて折れていく。


「小夜様が……」


─やめてくれ……。


聞きたくない。その先の言葉だけは、聞いてはいけない気がした。


けれど、願いなど届かない。


篠原がポツリと呟いた。


「小夜様が……夜狗に……拐かされました」


朧の頭が真っ白になった。


当たり前のように交わした言葉。

当たり前のように過ぎていった時間。


その全てが、かけがえのないものだったのだと。



──失ってから気付くには、あまりにも遅すぎた。

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