プロローグ
あれは確か雪が降っていた日だった。父に連れられ、常世神社を訪れた。
当時俺は15歳。本殿に入ると、たくさんの大人がいて妙に緊張したのを今でも覚えている。
『朧』
父が俺の名前を呼んだ。
『はい』
『挨拶するだけでいい。決してそれ以外は喋るんじゃないぞ』
『分かりました』
素直に頷いて案内された部屋に入る。四人の男性が既に座布団に座っていて、その前に一人の少女が座っていた。
『どうぞお座りになってください』
座布団に座ると、顔合わせが始まった。
左から順番に挨拶が始まり、最後に俺の番になった。
『十六夜朧。15歳です。よろしくお願い致します』
全員が簡単な挨拶を終え、ずっと俯いていた少女が、ふと顔を上げた。
ビー玉のような目だった。光を閉じ込めたみたいに、何の感情も映していない。こけた頬。白すぎる肌。
その存在だけが、この場から浮いている。
その姿を見た瞬間、言葉にならない感覚が胸を刺した。
怖いのか、美しいのか、それすら分からない。
ただ、視線を外せなかった。
『■■■■。9歳です。よろしくお願いします』
彼女はか細い声でそう言って、とても律儀に頭を下げた。
─9歳。
幼なさに驚く。まだ子供じゃないか。
こんな場所にいるべき年齢じゃない、と直感的に思う。
けれど、部屋の誰もそれを問題にしている様子はなかった。
静けさが戻り、間に座っていた男性が次の話題に移らせる。父の言う通りにしてそれ以上は一言も喋らず、顔合わせが終わった。
『何も言わなかっただろうな』
帰り際父に聞かれ、俺は頷いた。
『ならいい。選ばれることはないだろう』
『選ばれるって何ですか?』
『お前は知らなくていい。災いになんか仕える必要はない』
その時の俺は、連れてこられただけで何も分かっていなかった。この顔合わせは、巫様に仕える次の鎮守人を決める会合だったらしい。そして、彼女が壮絶な人生を送っていることも知りはしなかった。
今でも思い出す。あの雪の日の静けさと、ビー玉のような目を。
そして、変わりもしないことを毎回考えるのだ。
─あの時、俺が選ばれていたら彼女を救えていたんじゃないか、と。




