第65話:激突する魂、鋼鉄のピッチと聖域のマウンド
本日3話目
【パレス・オリンピア 中央サッカースタジアム】
「第一回大会、サッカー開幕戦!
イングランド対フランス!
今、運命のホイッスルが鳴り響きました!」
実況の声が、スタジアムの熱気でかき消される。
ピッチ上に立つ22人の男たちは、パレスが提供した最高級のスポーツウェアに身を包み、旧時代の「国境」という名の重圧を背負って激突した。
「アーサー! 頼むぞ!」
スタンドからアリス王女の叫びが飛ぶ。
イングランドの主将、アーサー・ライトは、まるで戦場を俯瞰しているかのような冷静さでボールを保持した。
フランスのディフェンダーが三人、猛烈なプレッシャーをかける。
しかし、アーサーは微塵も動じない。
彼の脳内では、パレスの教育番組で学んだ幾何学的な「最適解」が描かれていた。
「……そこだ」
ノールックで放たれたスルーパス。
それは針の穴を通すような精度で、ディフェンスラインの裏を突いた。
ボールは美しく芝を滑り、イングランドのフォワードの足元へピタリと収まる。
「なっ……見えていないはずの場所に!?」
絶叫するフランスの選手たち。
アーサーはパレスの技術によって肉体を最適化されていたわけではない。
彼はパレスがもたらした「論理的思考」をサッカーに持ち込み、それまでの「勘」に頼った競技を「科学」へと昇華させた最初の選手だった。
電光掲示板に刻まれる先制点。
スタジアムは、もはや戦争のそれと変わらぬほどの絶叫に揺れた。
【パレス・オリンピア ベースボール・パーク】
同時刻、別会場では「ベースボール」の初戦、アメリカ対日本の試合が始まろうとしていた。
マウンドに立つのは、アメリカの英雄、ジャック・ミラー。
彼はパレスの医療チームによる徹底した栄養管理とトレーニングを受け、人類の限界を突破した肉体を手に入れていた。
「パレスの科学が、俺にこの腕をくれた。ならば、俺はパレスの旗の下、最強を証明するだけだ」
対するバッターボックスには、日本代表の四番、黒鉄大吾。
蝦夷のアイアン・パレス周辺で育ち、パレスの重機に囲まれて育った彼は、丸太のような腕を持つ怪力無双の打者だ。
「アメリカの化け物か……。面白え、叩き潰してやるぜ」
ジャックが振りかぶる。
その右腕が鞭のようにしなり、放たれた白球は、パレス・ビジョンのカメラですら捉えきれないほどの速度で、捕手のミットに吸い込まれた。
「ストライク! 100マイル(160km/h)!」
電光掲示板に表示された信じがたい数字に、十万の観客が総立ちとなった。
メアリーがバルコニーから身を乗り出し、喉を枯らして叫ぶ。
「ジャック! その力で世界をねじ伏せなさい!」
黒鉄は不敵に笑い、バットを構え直した。
「速えな。だが、見えるぜ……。パレスのビルが建つ時の、あの杭打ち機のスピードよりは遅い」
二球目。
ジャックが全身のバネを使い、さらなる剛球を放つ。
対する黒鉄は、パレスの物理学を体現するかのような最短距離のスイングで応じた。
「ガキィィィィィィィン!!」
金属音がスタジアムを貫いた。
打球は夜空を切り裂き、パレスのホログラム花火が舞うバックスクリーンへと消えていった。
「ホームラン! 信じられません! あのサンダー・ミラーが、初打席で被弾しました!」
【アイアン・パレス 特別貴賓席】
二つのスタジアムの熱狂を、ホログラムモニターで同時に眺める魁斗。
その傍らには、勝利の興奮で上気した顔の令嬢たちが、それぞれの思いを胸に座っていた。
「素晴らしいですね。彼らの闘争心は、こうして完全に統制されたルールの中で、世界を繋ぐ最高の娯楽へと変換されました」
魁斗は満足げにワインを口にする。
「戦争で領土を奪い合うよりも、ボール一つを追いかけて一喜一憂する方が、よほど文明的で、そして……管理しやすい」
「マスター、視聴率は全拠点合わせて92%を超えています。全世界の人間が、今この瞬間、あなたの用意したステージに釘付けです」
アテナが恭しく、その成果を報告した。
「ええ。これこそが最適化された人類の祝祭です」
ピッチの上で、マウンドの上で。
男たちが魂をぶつけ合い、令嬢たちが叫び、民衆が狂喜する。
そのすべてを掌の上で転がしながら、九条魁斗は新たな時代の夜明けを祝福するように、静かに微笑んでいた。
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