盾を置く日
朝は、静かだった。
戦いのあとの朝は、いつもそうだ。
隊は止まっていた。
進軍でも、撤退でもない。
ただの、待機。
新兵は、焚き火のそばに立っていた。
槍を手に持つ。
盾は――持っていない。
足元にあった。
昨日、誰かが拾ってきたものだ。
傷だらけ。
割れてはいない。
役目を終えただけの盾。
新兵は、しばらくそれを見ていた。
持とうと思えば、持てる。
腕も、通せる。
誰にも止められない。
だが――
手は伸びなかった。
古参兵が近づいてくる。
槍を肩にかけたまま。
「もう、盾兵には戻らんのか」
問いではなかった。
確認でもない。
新兵は答える。
「必要な時は、使います」
古参兵は、少しだけ笑った。
「置き場が分かった顔やな」
新兵は、盾を持ち上げた。
地面に、立てかける。
通り道の脇。
誰でも取れる場所。
「俺は、ここでええです」
それだけ言った。
号令がかかる。
再び、動く。
新兵は、列の外に出た。
前でも、後ろでもない。
横。
投げ槍が、腰で鳴る。
槍先が、朝日に光る。
誰かが言った。
「おい、そっち」
自然な声だった。
新兵は、振り返らずに歩き出す。
盾は、振り返らなかった。
守られる場所ではなく、
戻る場所でもない。
彼はもう、
自分の距離で、生きる兵だった。
名は、まだない。
だが――
戦場では、
それで十分だった。




