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盾を持つ者、持たぬ者

昼前、風が変わった。

 湿った匂いが、血を運んでくる。

 隊は二手に分かれた。

 新兵は、前に出る側にいた。

 盾兵が並ぶ。

 肩と肩。

 隙間はない。

 新兵は、列の外にいた。

 槍を持ち、

 盾はない。

 「入れ」

 誰かが言う。

 新兵は、首を振った。

 敵が来る。

 数は多くない。

 だが、一直線だ。

 矢。

 盾が受ける。

 音が鳴る。

 安心した瞬間。

 側面が、崩れた。

 盾の端。

 重なりが、遅れた。

 敵が割り込む。

 短剣。

 盾兵が倒れる。

 前に。

 列が詰まる。

 逃げ場がない。

 新兵は、走った。

 横から。

 投げ槍。

 一本。

 当たる。

 倒れない。

 だが、止まる。

 新兵は、追わない。

 その間に、別の敵が来る。

 槍を構える。

 突く。

 浅い。

 十分。

 倒れた盾兵を、引きずる。

 盾が、重い。

 捨てる。

 転がる。

 盾兵は、息をしている。

 新兵は戻らない。

 列にも入らない。

 横を走る。

 敵の外。

 味方が動く。

 遅れて。

 戦いは、短く終わった。

 静寂。

 盾兵が座り込む。

 血が滲む。

 「助かった……」

 新兵は、何も言わない。

 ただ、

 盾を見る。

 壊れてはいない。

 だが、役目は終わっていた。

 古参兵が近づく。

 「お前、盾兵やないな」

 新兵は、首を振る。

 「まだ、分かりません」

 古参兵は、少し笑った。

 「もう分かっとる顔や」

 新兵は、槍を見る。

 手は、震えていなかった。

 その日、

 盾を持つ者が倒れ、

 盾を持たぬ者が生きた。

 それだけのこと。

 だが、

 戻れない線は、

 越えていた。

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