盾の置き場
朝靄が、低く地面を這っていた。
戦場の匂いが、まだ消えていない。
新兵は、盾を背にして立っていた。
抱えてはいない。
構えてもいない。
ただ、そばにある。
槍を持つ。
両手で。
昨日より、少しだけ自然に。
隊は再編成されていた。
人数は減り、声も少ない。
盾兵の列は、間隔を広げて前に出る。
「盾、前だ」
号令が飛ぶ。
新兵は、一瞬だけ動きを止めた。
前に出れば、昨日と同じ。
後ろに残れば、臆病者。
盾を見る。
重さは変わらない。
だが、意味が変わってしまった。
新兵は、盾を拾い上げた。
腕に通す。
構えない。
背負った。
周囲が、一瞬ざわつく。
誰かが何か言いかけたが、止まった。
「……好きにしろ」
古参兵の声だった。
それ以上、何も言わない。
進軍。
足音。
土を踏む感触。
敵影が見える。
距離はまだある。
投げ槍が飛ぶ。
一本。
二本。
新兵は、盾を使わない。
だが、捨ててもいない。
槍で間合いを測り、
足を止めず、
横に流れる。
矢が来た。
新兵は反射的に肩をひねる。
盾が、背で音を立てた。
助かった。
だが、視界は塞がれていない。
「……そういう使い方か」
誰かが、低く呟いた。
新兵は、答えない。
答えは、まだ出ていない。
ただ、分かったことが一つある。
盾は、
握るものじゃない。
守られるための場所でもない。
――置き場を、選ぶものだ。
戦いは、まだ続く。




