盾の影にいた夜
夜の戦場は、
昼より静かだった。
音がないぶん、
気配だけが濃い。
新兵は、盾を構えて進んだ。
暗闇では、
盾がある方が正しい。
そう教えられてきた。
だから、
隊列の中に入った。
合図。
前進。
盾と盾がぶつかり、
音が鳴る。
その音で、
敵に気づかれた。
矢が飛ぶ。
盾に当たる。
硬い音。
安心する。
――一瞬だけ。
横で、誰かが倒れた。
盾を構えたまま、
崩れ落ちる。
何が起きたのか、
見えなかった。
見えなかったから、
動けなかった。
隊列が詰まる。
後ろが押す。
前が止まる。
盾が、
逃げ道を塞いだ。
混乱。
闇。
叫び。
新兵は、
盾の裏にいた。
守られているはずの場所。
それなのに――
何も見えなかった。
足元で、
誰かが倒れている。
踏みそうになる。
避けられない。
盾が邪魔だった。
そのとき、
影が横を抜けた。
軽い。
速い。
盾がない。
投げ槍が飛び、
闇の向こうで何かが止まる。
影は、
振り返らない。
新兵は、
盾を少し下げた。
視界が広がる。
次の瞬間、
剣が迫る。
反射的に、盾を上げる。
防げた。
だが――
足が絡み、転ぶ。
地面。
盾が、
上にのしかかる。
重い。
息が詰まる。
誰かに引きずられた。
盾ごと、
後ろへ。
気づいたときには、
戦いは終わっていた。
夜明け前。
焚き火のそば。
新兵は、
盾を抱えて座っていた。
生きている。
だが、
何もしていない。
古参兵が、静かに言った。
「盾の中におったな」
否定できなかった。
新兵は、
盾を見る。
傷は増えている。
自分は――
何を守ったのか。
その夜、
彼は初めて思った。
盾があったから、
生き残ったんじゃない。
盾があったせいで、
何もできなかった。
決断は、
まだ来ない。
だが、
逃げ場は、もうなかった。




