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第58話 潜入作戦、闇の奥底へ

ご覧いただきありがとうございます!

今回はいよいよ学院旧校舎の封鎖区画へと潜入します。仲間たちがアイデアを持ち寄って作り上げた付与魔法具が、その力を発揮する場面も。

闇に覆われた地下施設で待ち受けるものとは――。

 王立魔術学院、ノヴァたちに与えられた研究室。深夜にもかかわらず、部屋の奥からは激しい議論が交わされていた。テーブルの上には、侯爵家から持ち帰った古文書と、禁書庫の非公開資料が山と積まれている。

 

 その中心でノヴァは古文書に描かれた魔術式を指差しながら、興奮気味に説明していた。


「この魔術式はかつて魔術塔で使われていた大規模な魔力循環システムらしい。そしてこっちの記録によればそのシステムは学院の旧校舎の真下に作られた地下施設と繋がっていたとされている!」


 ユーリは大きくあくびをしながら、テーブルに突っ伏す。


「ふぁ~、ノヴァ。もういい加減にしてくれよ。俺の眠気が臨界点を超えそうなんだ。その魔法陣とやらが俺たちの探しているものだってどうして言い切れるんだ?」


 ノヴァはユーリの頭を指で弾き、ニヤリと笑う。


「『魔力枯渇の魔法陣』の初期実験記録にはこの循環システムを利用した研究が行われていたと記されている。そしてその研究に関わっていたのが、師匠……アルスさんだ。そしてこの学院の学院長はその姉のセレナ=フィルマーレさん、偶然の一致にしては出来すぎているだろう?」


 カイルが驚いてノヴァに問いかける。


「え、じゃあその『魔力枯渇の魔法陣』の資料が旧校舎の地下にあるってこと?」


 ノヴァは、深く頷いた。


「おそらく。そしてその施設は現在では『封鎖区画』として立ち入りが厳しく制限されている」


 レオンハルトは腕を組み、真剣な表情で言った。


「学院長に相談するわけにはいかない。侯爵家の密偵からの情報によると裏にヴァルター男爵という貴族が絡んでいるらしい。」


 ノヴァとユーリはその話を聞くと、顔をゆがめて固まった。ノヴァのつぶやきにレオンハルトが反応する。


「ヴァルター男爵……」


「ノヴァ、ヴァルター男爵を知っているのか?」


 ユーリとノヴァはしばらく見つめ合った後、ノヴァが口を開き、過去の出来事を語り始めた。


「ヴァルター男爵は、僕たちの故郷の領主だったんだ。直接手を下したわけじゃないけど、彼の臆病さが原因で村の悲劇に繋がったんだ」


 ノヴァは過去に村で起きたことをみんなに説明していく。剣聖と呼ばれる養祖父、その不在時に傭兵のような組織だった集団から村を襲われ自身の父親が凄腕の傭兵に討たれたこと……。語るうちにうっすら涙を浮かべていた。その瞳には遠い日の情景が浮かび上がっていた。


「ヴァルター男爵は、辺境伯から魔物討伐の招集があったにもかかわらず、自身の臆病さから養祖父を身代わりに送ったんだ。その隙を狙って、傭兵たちが村を襲撃した。僕の父さんは村の自警団団長をしていたけど村を襲われた際にその傭兵団の幹部の一人に殺されたんだ……」


 ノヴァの言葉に部屋の空気が一気に重くなった。ユーリは唇を噛みしめ、カイルとセシリアは悲痛な表情を浮かべる。セレスティアとレオンハルトも、静かにノヴァの言葉を聞いていた。


「ヴァルター男爵は学園の後援者の一人だ。我々の行動が漏れる危険がある。……潜入するしかないだろう」


 レオンハルトの言葉にユーリは唇を噛みしめ、静かに怒りを滲ませた。


「あの男が……。まさか、あの臆病な領主様がこの地下室にある『禁忌の魔法』と関係しているのか……?関係しているなら好都合だ!あの事件で殺された村の人間の恨みを……。」


 セレスティアは冷めた目でユーリを一瞥し、ため息をつく。


「ユーリ、あなたは感情的になりやすいから潜入には不向きでしてよ。ましてやあの旧校舎は学院長直属の結界師が管理していのでしょう?並大抵の魔術師じゃ、足を踏み入れることすらできませんわ」


「そうだよユーリ。もう少し落ち着いて行動しようよ」


 セシリアもユーリを諌める。ユーリは唇を尖らせて反論する。


「な、なんだと! オレはもうそんなドジはしないって!……たぶん」


 ノヴァはそんな仲間たちのやり取りを微笑ましく見つめていた。そしてレオンハルトに向き直る。


「レオンハルト。潜入計画は僕に任せてくれないか? こんなこともあろうかと付与魔法具の試作品をいくつか考えておいたんだ」


 ノヴァは、テーブルの上に数個の羊皮紙を広げる。それは多数の怪しげな付与魔法具の構想が描かれたものはだった。


 レオンハルトはノヴァの言葉に一瞬顔を引き攣らせた。前回の騒動でノヴァが何の悪気もなく創り上げた付与魔術具の、その規格外の性能と危険性を思い出したからだ。


 あの眼鏡やお守りはノヴァにとって単なる便利な道具に過ぎないかもしれない。しかしその技術は見方を変えれば、軍事、政治、果ては暗殺にさえ転用できる恐ろしい可能性を秘めていた。


「ノヴァ……お前一人に任せるのは危険すぎる。付与魔法具の製作は、皆でアイデアを出し合って作ろう。そうすればお前の暴走も止められるし安全な道具ができるはずだ!」


 レオンハルトの言葉にノヴァは少し不満げな表情を浮かべたがすぐに頷いた。


「分かったよ。皆でアイデアを出し合おう」


「じゃあ、潜入計画を立てるぞ。まずは付与魔法具の役割分担からだ。ノヴァ探索用を2点、戦闘用を3点考えてくれ」


「はい! オレは『爆風』がいいな! 魔力を込めたらドカーンって爆発するやつ! 名前は……『ボムボム・ボール』だ!」


 ユーリは興奮して両手を広げる。カイルは眉をひそめ真顔で反論した。


「ユーリそれは危険すぎる。潜入なのに爆発音を立てたら意味がないだろ」


「じゃあユーリ君の魔力じゃなくて、もっと安全な魔力を込めればいいんじゃないかな?」


 セシリアの提案に、カイルは深く頷く。


「そうだな。ノヴァ、ユーリの魔力ではなく特定の属性にしか反応しない『属性爆弾』のようなものなら安全かもしれない」


「なるほど! それなら戦闘時に敵の属性に合わせて使えるな!」


 レオンハルトは真面目な顔で頷いた。ユーリは少し不満げだったがノヴァが「すごいアイデアだ!」と褒めるとすぐに上機嫌になった。


「よし、戦闘用は『ボムボム・ボール』、いや、『属性爆弾』に決まったな。次は……」


 セレスティアは冷めた目でユーリを一瞥しため息をつく。


「わたくしは敵の魔術を吸収する、防御用の付与魔法具が欲しいですわ。名前は……『魔力吸収のマナ・イーター・シールド』」


 セレスティアが冷静に提案した。ノヴァは目を輝かせた。


「いいね! 敵の魔法を吸収して自分の魔力に変換するんだね! セレスティアらしいアイデアだ!」


 セシリアが頬を染めながら提案した。


「私は支援魔法を付与する矢、いや攻撃と支援を両立する付与魔道具がいいですわ。名前は……『絶対追尾のホーミング・アロー』」


 カイルがノヴァに尋ねる。


「それはセシリアの支援魔法を付与する矢ということか?敵を支援するのか?」


 ノヴァは、頷きながら説明した。


「カイル、それは違うよ。セシリアの支援魔法を付与した矢は、矢が当たる対象を無力化させる。いわゆるデバフ……弱体化だな。しかもセシリアの魔力を込めることで、一度放たれたら敵を自動で追尾して、確実に命中する。敵を無力化させれば、敵の攻撃意欲を失わせることもできるだろう」


 レオンハルトがノヴァを褒める。


「それは素晴らしい! 敵を傷つけるのではなく、無力化させるという発想はまさにノヴァらしい」


 ノヴァは少し照れくさそうに笑った。


「戦闘用は決まったな。次は探索用だ。ユーリ何かアイデアは?」


 ユーリは、得意げに胸を張る。


「もちろん! オレは潜入で一番大事なのは、敵に気づかれないことだと思うんだ!だから、絶対に音を立てない靴!名前は……『音殺しのサイレント・ステップ』だ!」


 ユーリのアイデアにカイルは苦笑いしながら言った。


「ユーリ、それは良いアイデアだが君が考えたとは思えないな」


「失礼な! オレだってたまには良いアイデアを出すんだぞ!」


 ノヴァはユーリの提案に頷き、そして最後の探索用魔道具について語り始めた。


「最後は、この『幽霊探知機ゴースト・レーダー』だ。これは『魔力感知の眼鏡』を改良したものだ。魔力を可視化するだけでなく、罠や結界が持つ『不自然な魔力の痕跡』を検知して、光で知らせてくれる。つまり、見えない罠を光で可視化してくれるんだ」


 セシリアは目を輝かせた。


「ええ、それいいじゃない! 幽霊みたいにいつの間にか現れる罠を探知できるなんて!」


 セレスティアはその性能には納得しているようだった。


「よし、全員のアイデアが付与魔法具に反映されたな。後はこれを実戦で試すだけだ。準備を頼むよノヴァ。」


 レオンハルトは自信に満ちた表情で言った。


「わっかった。夜までには人数分用意しておくから、それまでは各人準備を進めておいて。」


 チームのメンバーたちは各々潜入作戦への準備を始めた。


 深夜の旧校舎。ノヴァたちは全員が黒いローブを身につけ、闇に紛れて潜入を開始した。ユーリは『音殺しの靴』を履き、いつもならドタバタと騒がしい足音は、完全に消えていた。セシリアは『幽霊探知機』を手に、周囲の魔力の痕跡を探知していた。


「ノヴァ、魔力の痕跡を発見したわ。ここから先は見えない結界が張り巡らされているようです」


 セシリアの言葉に、ノヴァも自身の『幽霊探知機』を覗き込む。そこにはセシリアの言葉通り、無数の赤い光が網目状に張り巡らされていた。


「これすごいな! 本当に罠が見える!」


 ユーリが興奮して声を上げる。レオンハルトはユーリの口を塞ぎ、静かに警告する。


「静かにしろ。我々の存在が結界師に知られたら終わりだ」


 ノヴァは結界を解除しようと試みたが、複雑な術式が絡み合っており時間がかかりそうだった。


「だめだ。この結界は僕の解析では時間がかかりすぎる。……レオンハルト、カイル、この結界を突破できるか?」


「任せてくれ。カイルと僕の多属性防御と君の治癒魔法を組み合わせれば、この結界は突破できるはずだ」


 レオンハルトの言葉にカイルは深く頷く。二人は結界に魔力を流し込み、結界の一部を歪ませた。その隙にノヴァたちは結界を突破することに成功する。


 一行は結界を突破し、旧校舎の地下深くへと続く階段を見つけた。しかし階段を下りるにつれ、周囲の魔力はより重く、そして邪悪なものへと変わっていった。


「うっ……これは、まずいわ。闇の魔力が、私の中に侵食してくる……!」


 セレスティアが苦痛に顔を歪める。セシリアは慌ててセレスティアに支援魔法をかけるが効果は薄かった。


「駄目ですわ! 闇の魔力が私の魔法を打ち消し効果を阻害しています!」


 ノヴァはセレスティアの胸元に『心鎮のお守り』をつけさせる。すると、彼女の苦痛の表情が和らいだ。


「……助かったわ、ノヴァ」


「この魔力は特殊だ僕もこの闇の魔力を中和することはできない。レオンハルト、君の多属性防御で闇の魔力を弾き飛ばしてくれ!」


 レオンハルトは剣を抜き、多属性防御を展開する。闇の魔力はレオンハルトの防御によって弾き飛ばされ、周囲の空気が一気に軽くなった。


「よし! このまま進むぞ!」


 チームはさらに奥へと進んだ。すると目の前に巨大な扉が現れた。扉には不気味な魔術式が描かれており、ノヴァの『幽霊探知機』で見ると、無数の赤い光を発していた。


「これは……『禁忌の魔法』?見たこともない術式だ。扉を開けるには、この魔法陣を解除するしかない」


 ノヴァは魔法陣の解析を開始した。しかしその術式は複雑で解析に時間がかかりそうだった。


「くそっ、時間がかかりすぎる! なんとかしないと……!」


 その時、背後から奇妙な音が聞こえてきた。それは、不気味な笑い声なのか?うなり声なのか?金属を引きずるような音だった。


「きゃあああ! お、お化け!」


 セシリアが恐怖に声を上げる。セレスティアはすぐに闇の中から現れた『虚ろな影』に強力な攻撃魔法を放つが、影は攻撃を無効化しセレスティアの魔力を吸い取っていく。


「なっ……!私の魔力が……!」


 セレスティアは、驚愕に目を見開いた。


「セレスティア!危ない!」


 レオンハルトはセレスティアを庇うように前に飛び出し、多属性防御を展開する。しかし影は防御をすり抜け、レオンハルトの体に吸い付いた。


「ぐっ……これは……!」


 レオンハルトは、影に魔力を吸い取られ顔が青ざめていく。


「ノヴァ! 早く! 早く魔法陣を解除しないとみんなが危ない!」


 ユーリがノヴァに叫ぶ。ノヴァは汗だくになりながらも魔法陣の解析を続けていた。


「カイル、レオンハルトを治癒して! セシリア、セレスティアを支援して!」


 ノヴァは解析を進めながらカイルとセシリアに指示を出す。カイルは治癒魔法でレオンハルトの魔力を回復させ、セシリアは支援魔法でセレスティアの魔力回復を早めた。


 そしてノヴァは、魔法陣の解析を完了させた。


「よし! 魔法陣の解除方法が分かった!ユーリ! セレスティアに光属性の『属性爆弾』を投げろ!」


「え!? なんでだよ!?」


 ユーリは、ノヴァの指示に混乱する。


「いいからやれ! 闇の魔力を光の魔力で中和するんだ!」


 ユーリはセレスティアに向かって『属性爆弾』を投げた。爆弾はセレスティアの胸元で爆発し、光の魔力がセレスティアの体を包み込んだ。すると彼女の体から闇の魔力が弾け飛んだ。


「……ありがとう、ノヴァ」


 セレスティアは、ノヴァに感謝の言葉を述べると、強力な攻撃魔法を放ち影を打ち砕いた。


「よし! 皆、準備はいいか! 扉を開けるぞ!」


 ノヴァは、扉に魔力を流し込み、魔法陣を解除した。扉は重々しい音を立てて開き、その奥からさらに強い闇の魔力が漏れ出してきた。


 扉の向こうには、不気味な魔法陣が描かれた広大な空間が広がっていた。その中心には闇の魔力を放つ、禍々しい石碑が5つつ鎮座している。ノヴァはその石碑を前に息をのんだ。


「これが……闇の根源か」


 ノヴァは石碑の1つに触れようとした。その瞬間すべての石碑から無数の闇の魔力が放出され、ノヴァたちの体に突き刺さった。


「ぐあああああ!」


 ノヴァたちは、その場に倒れ込み、苦痛に顔を歪めた。


「くそっ……!まだだ……!」


 ノヴァは意識を失いかける中、震える手で石碑に触れようとする。その時誰かがノヴァの手を掴んだ。


「ノヴァ! 一人で抱え込むな! 俺たちがいるんだ!」


 ユーリの言葉にノヴァはかすかに笑みを浮かべた。


「そうだな……。僕は……一人じゃない」


 ノヴァと仲間たちは、再び立ち上がり、石碑に向き直る。彼らの瞳には恐怖ではなく強い意志が宿っていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

今回は潜入作戦の始まりと、仲間たちの協力による準備の様子を描きました。ノヴァの過去の因縁が絡み合い、物語はさらに深い闇へと踏み込んでいきます。

次回はついに「巨大な扉」の向こうへ……どうぞご期待ください!

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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