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第57話 師匠の過去と、侯爵家の秘密

この物語を読んでいただき、ありがとうございます。

今回はノヴァの師匠アルスの過去が明かされ、学院の裏に潜む「闇」の存在が浮かび上がります。

そして調査の中で訪れた侯爵家で、思わぬ交流や発見が――。

物語はさらに広がり、真実への道が動き始めます。

 王立魔術学院、研究室。演習から数か月たった今、部屋の中には静かな緊張感が漂っていた。レオンハルトは前回の演習でノヴァが使った「ルーメン」の応用技、そして学園長から聞いた不穏な闇の勢力について考えを巡らせていた。


「ノヴァ君のあの光の魔法は……本当に驚かされたよ」


 レオンハルトの言葉に、ノヴァはふっと笑う。


「ありがとう、レオンハルト。でもあれは小手先の技術だよ。原理を理解すればだれでもできることさ」


「そうか。しかし君のその発想力には、いつも感心させられる。ただ……」


 レオンハルトは言葉を濁し、ノヴァの顔をじっと見つめた。その瞳にはノヴァの才能への信頼と、それを超えるほどの深い懸念が宿っていた。


 演習後ノヴァの頭の中は1つの疑問で満たされていた。学園長が言っていた「闇の勢力」と「闇の魔力」の存在。自分の師匠であるアルスから、一度たりともその手の話を聞いたことがなかったことに引っ掛かりを覚えていた。


(アルスさんは僕に基本魔法の五系統、そして応用魔術については徹底的に教えてくれた。でも闇魔法については一切口にしなかった。一体なぜだ?)


 疑問を解くため、ノヴァは再び学園長室の重厚な扉を叩いた。


「学園長、お忙しいところ申し訳ありません。お伺いしたいことがありまして」


 ノヴァを迎え入れたのは、穏やかな笑みを浮かべた妙齢の女性だった。


「あら、ノヴァ君。まさかまたとんでもない付与魔法具の相談ではないでしょうね? レオンハルト君からあなたがおかしな道具を量産していると聞いて、もう胃が痛いのよ」


 学園長は冗談めかして言うが、その瞳の奥は真剣だった。ノヴァは真剣な表情で首を振る。


「いえ、そうではありません。闇の魔力についてです。アルス先生がなぜ闇魔法について教えてくれなかったのか、その理由をお伺いしたいのです」


 学園長は、ノヴァの言葉に静かに頷いた。


「ああ、その話ね。アルスがあなたに闇魔法のことを教えなかったことは聞いているわ。」


 学園長は静かに語り始めた。


「アルスはかつて魔術塔の主任研究官を務めていたの、稀代の天才魔術師。そして……特殊な研究にも深く関わっていた。その研究の過程で、ある1つの事件を引き起こしたわ」


「事件?」


「『魔塔大崩壊事件』。研究の過程で闇の魔力が発生し、大規模な魔力暴走が起こったのです。多くの研究員が巻き込まれ犠牲になった。アルスは心に深い傷を負い、その責任を負って魔術塔を去りました。それ以来、研究を一切やめたと聞いているわ」


 学園長の言葉にノヴァは息をのんだ。自分に魔術の素晴らしさを教えてくれた師匠が、そんな壮絶な過去を背負っていたとは。


「あなたに闇魔法のことを教えなかったのは、きっとあなたを巻き込みたくないという、あの愚弟なりの愛情だったのでしょう。全く、困ったものだわ」


 学園長はそう言って、ノヴァの肩を優しく叩いた。


「ノヴァ君。あなたはアルスにそっくりだわ。危なっかしいほどに純粋で周りのことが全く見えていない。その才能は確かに素晴らしいけれど、世の中はあなたの想像以上に汚くて醜いものよ。……アルスもそうだった。」


 研究室に戻ったノヴァは、茫然


 闇魔法という未知の領域に踏み込むことへの恐怖、そして師匠への裏切りに繋がりかねない行為にノヴァは深く悩んだ。


 しかしその時、部屋の扉が開いた。ユーリ、カイル、セシリア、そしてセレスティアが、それぞれの付与魔法具を手に、ノヴァの元へ集まってきていた。


「ノヴァ、どうした? 難しい顔をして」


 ユーリが心配そうに声をかける。ノヴァは学園長から聞いた話を、ありのまま皆に話した。


「……だから、僕はこのまま調査を続けるべきか、迷っているんだ」


 ノヴァの言葉に、セレスティアはフン、と鼻を鳴らした。


「馬鹿ね、ノヴァ。私たちがいるじゃない」


「え?」


「あなたは一人じゃないわ。それにあなたの才能は危険な付与魔法具を生み出すだけじゃない。私たちを導く力も持っている。その才能をそんなことで閉ざすなんて、許さないわ」


 セレスティアの言葉に、ノヴァは驚きに目を見開いた。


「フフフ……。セレスティアさんの言う通りですね。私はノヴァさんの指導のおかげで、魔法の発現をすることができました。今では特訓も受けて付与魔法具もあり支援魔法の精度が格段に上がりましたし」


 セシリアが微笑みながら言う。カイルもアンクレットを指差しながら頷く。


「僕だってノヴァのおかげで自分の魔力の特性を理解できた。それに魔術師としてだけでなく、人間としても成長できてる気がするんだ」


「だよな! 『魔力感知の眼鏡』もすごいんだぞ! この眼鏡があれば、どんな魔術だって見破れるぜ!」


 ユーリが自慢げに眼鏡をかけてみせる。その瞬間ユーリの視界にノヴァの魔力の流れが鮮明に見えた。


「うわっ! ノヴァの魔力、なんか……めちゃくちゃ複雑だな! まるで迷路みたいだ!」


 ノヴァは苦笑いしながらユーリの頭を叩いた。


「おい、人の魔力も流れを勝手に覗き見るな。プライバシーの侵害だぞ」


 そのやり取りに皆が笑い出した。ノヴァは心の迷いが溶けていくのを感じた。


「みんな……ありがとう。よし、決めたよ。僕は師匠の過去に囚われず、この闇の根源を突き止める。そして付与魔法の力でこの世界に光をもたらすんだ」


 ノヴァの決意にレオンハルトが静かに頷いた。


「……その言葉が聞けてよかった。ノヴァ。君が一人で背負う必要はない。君の背負う荷物の一端は私たちが背負おう。少しくらいなら私たちは君の盾になれる」


 レオンハルトの言葉に、ノヴァは強く頷いた。


「ありがとう、レオンハルト。じゃあ、まずは情報収集だ。学園長から禁書庫と非公開資料室の閲覧許可をもらった。レオンハルト、君の侯爵家としてのコネクションも使わせてもらえないか?」


「ああ、もちろん。父上も学院の動向には常に気を配っている。きっと力になってくださるだろう」


 こうしてノヴァたちチームは、学院の闇を暴くため本格的な調査に乗り出していく。


 禁書庫での膨大な古文書の山から、闇魔法の記述を探すのは至難だった。しかしノヴァはその中から魔力の波動を感じる本があることに気が付く。


「セレスティア、この魔導書からの魔力の流れを視てくれ」


 ノヴァが差し出したのは古びた魔導書だった。セレスティアは付与魔法具「魔力感知力を高める眼鏡」を掛け集中する。


「……ええと、この魔導書には何か不自然な魔力の痕跡があるわ。まるで何かが隠されているみたいに……」


 セレスティアの言葉に、ノヴァは興奮している。


「やっぱり! この魔導書は闇魔法に関する記述が、付与魔法で隠蔽されているんだ!」


 ノヴァが魔導書に魔力を流し込み魔力を探ってみると、魔導書にルーン文字の符丁が浮かび上がり、魔導書に書いてある内容が闇魔法に関する記述に置き換わった。


「ふむ……。レオンハルトこれを見てくれ。闇魔法は特定の『失われた魔術理論』や『禁忌の魔法薬』と密接に関わっているようだ」


「……この魔術式は、侯爵家が代々集めている書庫にも似たようなものが描かれた書物があったな」


 レオンハルトの言葉にノヴァは目を輝かせた。


「それだ! レオンハルト侯爵家にお邪魔させてもらえないか? その書物を見せてもらいたいんだ」


 レオンハルトは苦笑いしながら頷いた。


「仕方ないな。ただし父上は少しばかり……いや、かなり変わった人だから、覚悟しておいた方がいい」


 侯爵家を訪れたノヴァたちは、レオンハルトの父である侯爵に謁見した。侯爵はノヴァの付与魔法具に興味津々で、目を輝かせながらノヴァに話しかける。


「ほう、君が例の付与魔法具を生み出した天才か! レオンハルトから話は聞いていたが、まさかここまで若いとはな! いやはや、素晴らしい才能だ!」


 侯爵はノヴァの手を握り、興奮気味にまくしたてた。


「そうだ! 聞けば君は『剣聖』ギュンター卿の弟子だとか! ギュンター卿の剣技には私も若い頃、たいそう憧れたものだ! いやまさか君があの剣聖の剣技を習得しているとはな……。剣の道を極めた者が、魔術の道にも精通しているとは驚くべきことだ!」


 侯爵の言葉にレオンハルトは顔をしかめ苦言を口にする。


「父上、失礼ですよ。ノヴァは、ただの……」


「いえ、侯爵様。どうぞお気になさらず。義祖父のことをご存じなのですか?」


 ノヴァは微笑みながら侯爵に言った。侯爵はノヴァの言葉に目を輝かせた。


「もちろんだとも! ともに轡を並べて戦ったこともある。いや、とても懐かしい! 1つ頼みがあるのだが……。剣聖より教えられたその剣技を、少しばかり見せてもらえないだろうか?」


 レオンハルトは頭を抱えた。


「父上! 冗談はやめてください! ノヴァは魔術師であって騎士ではありません!」


「いや、いいんだ、レオンハルト。僕も久々に剣の稽古をしたくなってきたからね」


 ノヴァは侯爵家の修練場へと移動した。侯爵は目を輝かせながらノヴァの剣技を期待していた。ノヴァはギュンターから教わった剣術である「王龍剣術 聖光流」の技を披露し始めた。


 侯爵はノヴァの剣技に目を丸くした。


「こ、これは……『聖光流』! しかもこの剣さばきは、ギュンター卿の若かりし頃のそれにそっくりだ! いやそれ以上かもしれない!」


 ノヴァはさらに剣に魔力と気を集中させ、剣聖の奥義「閃光絶命剣」を放った。それは剣に膨大な魔力を集中させ、光が迸るかのように速く放たれる一撃だった。


 侯爵はノヴァの剣技に完全に魅了されていた。


「す、すばらしい! 奇跡だ! これほどの剣技を、あの若さで習得しているとはな! 剣聖は本当に恐ろしい男だ!」


 侯爵はノヴァの剣技を堪能すると、上機嫌で書庫室での閲覧を許可した。


「よろしい。君たちの調査私が全面的に協力しよう! どんどん侯爵家を利用したまえ!」


 侯爵の言葉にノヴァは安堵の表情を浮かべた。


「父上、ありがとうございます!」


 レオンハルトが深々と頭を下げる。侯爵はそんなレオンハルトを優しく見つめ言った。


「レオンハルト。お前も、もっと素直になればいい。君の友人は本当に素晴らしい才能を持っている。その才能をお前は守ってやらねばならない」


 侯爵の言葉にレオンハルトは顔を赤く染め黙り込んだ。


 侯爵家が所有する書庫室の探索は、ノヴァたちの調査を加速させた。ノヴァの知識と皆のそれぞれの系統に関する深い洞察や思い付きが組み合わさることで、闇の根源に関わる古い文献や古い実験の記録が次々と発見されていく。


 セレスティアはノヴァとのやり取りの中で付与魔法の文字を理解し始めていた。


「ノヴァこの古文書に書かれている文言、あなたが描いた『心鎮』と似ているわ。精神干渉を軽減する符丁よ」


「本当か、セレスティア! 付与魔法の文字をもう理解し始めているのか!」


 ノヴァは驚きに目を見開いた。セレスティアはフンと鼻を鳴らした。


「当たり前じゃない。あなたの付与魔法は、私の魔術に革命を起こしたわ。私だってその原理を理解しないと気が済まないもの」


 セレスティアの言葉にノヴァは嬉しそうに笑った。


 ノヴァは侯爵家が保有する書籍の中から、ある実験の記録を発見した。それは学院の創設期、あるいはそれ以前にまで遡る、壮大な陰謀の片鱗を示唆するものだった。


「これは……! 『魔力枯渇の魔法陣』の、初期の実験記録だ! そしてこの実験には闇魔法の源流が関わっている!」


 その実験記録に古代文字で「アルス」という名前が記されていた……。


 ノヴァたちが次々と闇の真相に迫っていく一方で、学園長室には一人の男が訪れていた。


「学園長。例の件進展はありましたか?」


 その男は現ヴァルター男爵、ヴァルター・フォン・アウグストだった。彼は冷たい視線で学園長を見つめていた。


「……ヴァルター君。あなたも随分と焦っていますね。どうやら冷静に待つという言葉を理解していないようですね。」


 学園長は冷ややかな目でヴァルターを見据え毅然と言い放った。ヴァルター男爵は一瞬、たじろいだがすぐに冷酷な笑みを浮かべた。


「優秀な学生たちの才能を、無駄にするわけにはいきませんからな」


 ヴァルターはそう言い残し学園長室を後にした。学園長は男が去った後もその場に静かに佇んでいた。


(ヴァルター・フォン・アウグスト……。彼が狙っているのは、ノヴァ君とチームのメンバーたち。そして彼らが探している『禁忌の魔法』……。この王国に巣食う闇の根は想像以上に深い。しかしノヴァ君あなたならきっと……)


 学園長は、ノヴァたちの才能と、彼らを信じる自らの意志に、静かに力を込めた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

アルスの過去と学院に潜む闇の影、そして侯爵家での出会いによって、ノヴァたちの調査は新たな局面へと進みます。仲間たちとの絆を胸に、ノヴァは師匠の想いを越えて自らの道を選ぼうとしています。

次回もぜひ、ご一緒に見届けていただければ嬉しいです。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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