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第56話 偽りの優等生と真のライバル

いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。

今回は演習を舞台に、ノヴァとセレスティアの真剣勝負が描かれます。

衝突する二人の魔術、その奥に潜む本当の想いとは――。

ライバルであり、仲間でもある二人の関係の変化を、どうぞお楽しみください。

 王立魔術学院のグラディエーター闘技場。巨大な魔法陣が描かれたアリーナは、大規模魔術演習の熱気に満ちていた。学生たちの歓声が響く中、ノヴァ・ヴァルシュタインはどこか浮かない顔でチームメンバーを見渡す。


「カイル、足のアンクレット、ちょっと緩くないか? 走る時に外れたら大変だぞ」


「ああ、大丈夫だよノヴァ。しっかり結んだから」


 カイルは微笑みながら答える。ユーリは『魔力感知の眼鏡』をかけ、周囲の魔力の流れが色鮮やかに見えるのに興奮していた。セシリアは「支援魔法のペンダント」を胸元で握りしめ、セレスティアは「精神干渉を軽減するお守り」を首からぶら下げていた。


 ノヴァは皆が身につけた付与魔法具を満足げに眺め、小さく頷いた。


「よし、これで準備万端だな!」


「――待て」


 低く響いた声に、空気がピンと張り詰めた。レオンハルトだ。額に汗を浮かべ、険しい表情でノヴァを見据えている。


「ノヴァ、その付与魔法具……まさか演習で使うつもりじゃないだろうな?」


「え? ああ、もちろんだよ。せっかくだし実戦で試してみたいだろ?」


 ノヴァの無邪気な返答に、レオンハルトは深くため息をついた。


「……学園長に言われただろう。これは試作品で、危険性があると」


「危険って何だよ? 安全性は確認してある。問題なんて――」


 ノヴァが反論しかけると、レオンハルトは彼の肩を掴み、真剣な眼差しで言った。


「ノヴァ。君は“天才”だ。だからこそ危うい。君が作るものは便利で人を助けるが、同時に――使い方を誤れば、人を傷つける刃にもなる」


 レオンハルトはノヴァが作った付与魔法具を1つずつ手に取って確認する。


「魔力感知力を高める眼鏡……優れた道具だが、悪用すれば魔術師の秘匿された魔力回路を暴くこともできる。精神干渉を防ぐお守り……逆に言えば、精神干渉を操る術にも応用できる。君は気付かぬうちに“両刃の剣”を作っているんだ」

 

 ノヴァは言葉を詰まらせる。レオンハルトはさらに声を低めた。

 

「貴族も、商人も、役人も、欲に溺れれば平気で人を踏みにじる。私は幼い頃からそんな連中を見てきた。功績を妬み、罪をでっち上げ、裏で人を潰すような奴らだ。……君は純粋すぎて、そういう人間に利用されやすい」


 レオンハルトの言葉はまるでノヴァの心臓に冷たい水を浴びせかけたかのようだった。ノヴァは言葉を失い、自分の作った道具をただ見つめることしかできなかった。


「……わかったよ、レオンハルト。使用するのは控えるよ。確かに僕は利用されやすい人間だと思う。でもレオンハルト、僕は君がそんな人間ではないってことだけはわかるよ」


 ノヴァからの純粋な言葉に思わずレオンハルトはたじろぐ。


「……とにかく、自重するんだな!」

 

 顔を赤くしながら吐き捨てると、彼は足早に立ち去った。


「フン。偽りの優等生が、少しは反省したかしら?」


「セレスティア……お前、今なんて……」


 ユーリが怒りを露わにするが、セレスティアは気にする素振りも見せない。


「違うかしら? いつも“僕が作った、僕が考えた”って偉そうにしてるのに、レオンハルト様に叱られた途端しゅんとするなんて――まるで悪いことをした子供ね」


 ノヴァは戸惑いを隠せなかった。レオンハルトの言葉は胸に深く突き刺さったままだ。


「まあいいわ。本当のあなたの実力、この演習で見せてもらうわよ」

 

 セレスティアはそう言ってニヤリと笑った。その顔には侮蔑ではなく、期待の光が宿っていた。


 演習が始まりノヴァはセレスティアの言葉を疑問に思いながら、自らの魔術で演習に挑むことにした。チームメンバーも各自の魔術を駆使して演習を進めていく。


 多くの学生が魔術を競い合う中、チームのメンバーは順調に勝ち進んでいく。そして演習の目玉となる模擬戦闘で、ノヴァとセレスティアが直接対決することになった。


 アリーナの中央に立つ二人。会場の熱気は最高潮に達していた。その中観覧席にいた学院長がおもむろに立ち上がると何かを唱えアリーナを覆っている防御結界の輝きが増し始める。どうやら防御魔法の結界を強化したようだった。


「ノヴァ・ヴァルシュタイン。私の真の力しかと目に焼き付けておきなさい」


 セレスティアは、そう言って掌に魔力を集中させ始める。その魔力は、アリーナの空気を震わせるほど強力だった。しかしノヴァは静かに、落ち着いた表情でセレスティアを見つめていた。


 模擬戦闘が始まると、セレスティアは圧倒的な火力でノヴァを攻め立てる。巨大な炎の壁が彼を取り囲み、炎の槍が雨のように降り注ぐ。ノヴァはただ回避するのではなく、風の魔法で槍の軌道を逸らし、水の魔法で炎の勢いを削いでいった。


「どうしたの? ノヴァ。そんな魔法で私に勝てると思っているの?」


 セレスティアは挑発するように言うが、ノヴァは動じない。彼はセレスティアの攻撃のパターンを読み解き、わずかな隙間を見つけ出しては、そこに基礎的な魔法を打ち込んでいく。


「くっ……!」


 セレスティアはノヴァの威力の高くない魔法が、まるで精密な刃物のように、自分の魔術の核心を削り取っていくことに驚きを隠せない。


「炎の勢いは水の魔法で弱められる。炎の槍は風魔法でそらすことができる。君の魔術は確かに強力だ。でも弱点がないわけじゃない」


 ノヴァは淡々とセレスティアの魔術の弱点を指摘する。セレスティアは悔しげに唇を噛み締めると魔力をさらに集中させる。


「ならば弱点のない炎の魔法を見せてあげるわ!」


 セレスティアが放ったのは、凝縮した炎の魔力を圧縮し指向性を持たせた閃光のような炎だ。ノヴァがこれまで使ってきた基礎的な魔法では相殺できない。


「……うん。」


 ノヴァは回避を試みるが、閃光は彼の体をかすめノヴァは地面に倒れ込む。


「フン。偽りの優等生もう終わりかしら?」


 セレスティアが勝利を確信したその時だった。ノヴァは地面に倒れたまま、静かに呟いた。


「ルーメン」


 唱えた魔法は多くの人間が知っている生活魔法の一種――直径5センチほどの光球が彼の指先から生まれ、空中で安定して浮遊した。光は青白いながらも、セレスティアの放った炎の魔法を包み込むように広がり、揺らぎを持ってそのエネルギーを拡散し始めた。


「な、なんですって!?」


 セレスティアは驚愕の表情でノヴァを見つめる。彼女の放った炎の魔法は、次第に輝きを失いやがて消滅した。


 ノヴァは立ち上がり、静かに言った。


「君の魔法は確かに強力だ。だが光の基本魔法は、光の屈折や波長を理解していれば閃光の方向性を拡散できる。僕はただ君の魔法の『本質』を理解し、その力の方向を拡散させただけだよ」


 二人の戦いはまるで高度なチェスのように、戦略と技巧がぶつかり合っていた。結局、決着はつかず時間切れで試合は終了した。しかし会場の熱気は二人の戦いの素晴らしさを物語っていた。


 二人は観客の反応を気にも留めていなかった。ノヴァとセレスティアは、互いの魔術が完璧に連携することで、単独では到達し得なかった高みがあることを実感していた。


「ノヴァ……あなたは私の魔術を、完全に理解しているのね」


 セレスティアはノヴァの言葉に、悔しさと同時に深い感動を覚えていた。


「ああ。でもセレスティア。君の魔術の見識と魔力操作は類を見ない完璧には攻めきれなかったよ。」


 二人の間に2つの相反する魔術が共鳴を起こし微かな光の粒子が二人の間を漂う。それは互いの魔術に対する深い理解と尊敬が生み出した、新しい可能性の光だった。


 演習後レオンハルトは学園長室に呼ばれ、前回の騒動の調査結果を伝えられた。


「前回の騒動で私たちは図書館の地下室から、奇妙な魔術痕跡を発見しました」


 学園長はそう言い、一枚の羊皮紙をレオンハルトに差し出した。そこには複雑な魔法陣の残骸が描かれている。


「これは……?」


「『魔力枯渇の魔法陣』です。この魔法陣は特定の魔術師の魔力を吸い取り、それを増幅させ闇の魔力を生み出す。あまり知られていませんがこの世には基本魔法の5系統とは別に闇の系統が存在します。そしてその闇の魔力は幻覚や精神干渉を引き起こす。この魔法陣の痕跡は学院の地下室だけではありません。最近学院のあちこちで、似たような魔術痕跡が発見されています」


 学園長は険しい顔で続けた。


「今回、学園の上層部は王国に事態を報告し、協力を求めることに決めました。私たちはこの謎の勢力の狙いが何であれ、優れた魔術の才能を持つ外部の人間の仕業だと推測しています。彼らは学生たちの魔力を利用し、何らかの邪悪な儀式を企てているのかもしれません。レオンハルト君。ノヴァとチームメンバーには、十分に注意を促してください。彼らはこの学院の中でも、特に狙われやすい存在です」


 研究室に戻りレオンハルトは学院長からの話をみんなに伝える。

 

「フン。私を狙うなんて身の程知らずもいいところね。返り討ちにしてやるわ」


 セレスティアは自信満々に笑う。ノヴァもまた彼女の言葉に頷く。


「ああ。僕たちが力を合わせれば、どんな闇だって打ち破れる」


 二人の間には、以前のようなライバル意識とは違う、深い友情が生まれていた。彼らは互いの才能を認め合い、共に未来を切り開いていくことを誓い合った。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

激しい戦いの末、ノヴァとセレスティアは互いの魔術を理解し、ライバルから信頼へと歩みを進めました。一方、学院の裏では闇の魔術の影が忍び寄っています。光と闇、友情と不安――物語は次なる局面へ。次回も、ぜひご一緒ください。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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