コミカライズ3巻発売記念SS
激しい雨が降りしきる、ある日のことだった。
家で穏やかに過ごしていたところ、突然眩い光に覆われ、真っ白い部屋へ飛ばされたファティアとライオネルは目を瞠った。
「こ、ここは一体!?」
一辺十メートル程度の四角形の、出口のない部屋。
圧迫感はさほどないが、白ばかりの異様な空間に、ファティアは不安そうにライオネルに伺うような視線を移した。
「落ち着いて、ファティア。危険がないか、俺がまず周りを見てみるから」
そんなファティアの頭を、ライオネルは優しく撫でる。
(ライオネルさんだって突然のことに驚いてるはずなのに、こんな状況でも冷静なんて凄い……)
尊敬するファティアをよそ目に、ライオネルは部屋の壁を触って出口がないか確かめていく。
そんな彼に続いてファティアも壁を触ったり、大きな声を出してみたりするが、この状況を打破できるような情報は得られなかった。
「どうしましょう。このままじゃ……」
扉はおろか窓もない。ここがどこかも分からず、助けが来てくれる保証もない。
不安げにファティアが呟いた瞬間、どこからかひらり現れた紙が床に落ちる。
ライオネルは手のひらサイズのそれを拾うと、一度怪訝そうな顔をしてから、ファティアに手渡した。
「ファティア、とにかく読んでみて」
「は、はい──って、え!? ここはキスをしないと出られない部屋!? キスをしない限り出口は現れません……!?」
(恋人でもないのに、私とライオネルがキスだなんて……!)
顔を真っ赤にしてあわあわと焦るファティアに、ライオネルはおもむろに口を開いた。
「この指示に従って扉が現れる保証はないし、まずは魔法で壁を破壊できるか試してみようか?」
「そ、それはダメです! ライオネルさんが後で苦しい思いをするじゃないですか」
「なら、指示に従ってみる?」
「っ、まずは私が魔法を試します」
「そ? 無理はしないようにね」
ファティアはコクリと頷くと、壁に向かって魔法を発動する。
しかし、壁には傷一つ付かず、その様子にライオネルは「俺の魔法でも破壊は難しそうだね」と呟いた。
「と、いうことは……」
「うん。キスを試すしかなさそうだね。このままこの部屋で餓死するのを待つわけにはいかないから」
ライオネルはそう言うやいなや、節くれ立った指でファティアの顎をクイと持ち上げた。
「いい? ファティア」
「え、いや、あの、その、けど」
「大丈夫。すぐに終わらせるからね。目、瞑って?」
「〜〜っ」
この場から脱出するため、そしてライオネルのため、覚悟を決めなければいけない。
(や、やるしかないわ……!)
ファティアはゆっくりと目を閉じる。
しかし、予想していた感触はどこにも訪れず、不意に耳に届いたのは「ふっ」と楽しげに笑うライオネルの声だった。
「ファティア、もう目を開けていいよ。出られるから」
「え?」
不思議そうにファティアが目を開け、壁に視線を移すと、そこには先ほどまでなかった扉の姿があった。
「え? え? いつの間に……?」
目を瞬かせるファティアに、ライオネルは見せつけるように自身の手の甲に口付け、目を細めて笑ってみせた。
「確かにキスをするように書いてあったけど、誰に、どこにって指示はなかったでしょ?」
「あ……」
「だからファティアが目を瞑ってる間に自分の手の甲にキスをしてみたら、扉が出てきたってわけ。からかってごめんね? ファティアがあんまり可愛かったから、ちょっと意地悪した」
「っ」
恥ずかしさのあまりファティアが俯くと、ライオネルは腰を折ってそんな彼女の耳元に顔を寄せた。
「でも、俺にキスされるの待ってる顔、すっごい可愛かった」
「っ!?」
「さ、早く出よう」
ライオネルに手を引かれ、扉を抜ける。
見慣れた家に帰ってきて安堵するライオネルの一方で、ファティアはしばらくの間胸の高鳴りが抑えられなかった。
読了ありがとうございました٩(♡ε♡ )۶
ぜひ、コミカライズ、書籍もよろしくお願いします(*^^*)




