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コミカライズ2巻発売記念SS

 

「ふと思ったんだけどさ、そろそろライオネルって呼ばない?」

「え?」


 穏やかな昼下がりのこと。

 今日の夕食は何にしようかと考えていたファティアは、ライオネルにそう尋ねられ驚いた。


「急にどうしたんですか? ライオネルさん」

「急じゃないよ。初めてあった日にも言ったでしょ。ライオネルでいいって」

「そ、そうでしたね」


 確かに思い返すと、初対面で名前の呼び方についてのやりとりがあった。

『ライオネル様』と呼んだファティアに対して、ライオネルが苦言を呈したのだ。


「けれど、結局ライオネルさんとお呼びすることに、納得してくれたんじゃ……?」

「あの時はね。会ってすぐだったし。ファティアが気を使わない程度にラフに呼んでもらえるなら何でも良かったんだけど」

「けど?」


 小首を傾げるファティアに対して、ライオネルはやや垂れた目をふっと細めた。


「もう俺たち、一緒に暮らしてしばらく経つよね? だから、そろそろ呼び捨てでもいいんじゃないかなと思って。……というか、そろそろファティアにはライオネルって呼んでほしい。その方が距離が近くなった気がするから」

「っ」


 ライオネルの言葉はいつも、相手を気遣いながらもストレートだ。

 ファティアはそんな彼に何度も救われてきた。


(こんなふうに言われて、嫌なわけない……)


 しかし、日々ライオネルの言動に胸を高鳴られる身として、いかんせん呼び捨ては遠慮したかった。


 ライオネルのことだ。

 きっと呼び捨てで呼んだら心底喜んでくれるだろう。

 目尻にしわを作るほど、くしゃりと笑ってくれるだろう。

 呼び捨てで呼べば呼ぶほど、今よりも言動が甘くなるだろう。


 そう、嫌じゃない。決して嫌じゃない。けれど。


(そんなの、心臓が持たない……!)


 ファティアは少し間を置いてから、控えめに首を横に振る。

 否の返答に、ライオネルは残念そうに眉尻を下げた。


「まだだめ?」

「だめ、というか、やっぱり私なんかがライオネルさんのことを呼び捨てにするのは烏滸がましいですし」

「俺自身がそう呼んでほしいのに、烏滸がましいなんてあるわけない」

「うっ、そうかもしれませんが……」

「……」


 珍しく納得がいかないといった顔をするライオネルに、ファティアは冷や汗をかく。

 烏滸がましいと思うのももちろん理由の一つだが、呼び捨て拒否する最たる理由ではないことを、おそらく彼は気づいているのだろう。


「……分かった。じゃあ、今から俺の言葉に続けて喋ってくれる?」

「え? は、はい」


 急になんだろう。

 大きな目をパチパチと瞬かせていると、ライオネルが早速口を開いた。


「ラ」

「ラ」

「イ」

「イ……」

「オ」

「オ……?」

「ネ」

「ネ……? ネ……!?」

「ル」

「ル、さん!」

「はは、さすがにつられてくれなかったか」


 ファティアは勢いよく両手で口元を押さえた。


(あ、危なかったわ! ついライオネルさんに乗せられて呼び捨てしちゃうところだった……!)


 そんなファティアを見ながら、ライオネルは「残念」と言ってべっと赤い舌を出す。

 いつもの穏やかで大人な印象とは一転し、いたずらっ子のようなライオネルに胸がキュンっと高鳴った。


「仕方ない。呼び捨てはまたの機会にしよう」

「す、すみません」

「……でも、いつか絶対呼んでもらうからね。楽しみだね、ファティア」

「っ」


 こちらを逃がさんとばかりに見つめながら、目を細めて笑うライオネルに、ファティアが白旗を揚げるのはそう遠くない未来なのかもしれない。


読了ありがとうございました٩(♡ε♡ )۶

ぜひ、コミカライズ、書籍もよろしくお願いします(*^^*)

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