第24話「シンクロしようよっ」その1
車を走らせて約一時間。
ようやく、目的地へと到着した。
「みんなぁー。到着だよ」と吉樹が告げると、桃眞は「てか、晩飯まだすか? 腹減りましたよ」と不満そうな表情を浮かべる。その言葉に釣られ、櫻子も「私もお腹すいたぁー」と凹んだ腹を手で押さえながら車を降りる。
そこは、とある施設の地下駐車場だった。
一同が車から降り、施設の玄関口に掲げられている看板の名前を読み上げる。
「ラウンドテン……ってレジャー施設じゃないですか」と慎之介が皇の顔に目をやる。
「"特訓"とか言っておいて、お遊びじゃないですか?」と、桃眞が皇に問うと「まぁ、付いてきなさい」と意味深な言葉を残して自動ドアを潜った。
一般客とすれ違いながらエスカレーターに乗り、2階へと上がる。
受付に到着すると、カウンター内の若い男が「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」と営業スマイルで桃眞達を出迎えた。
「川神さんに皇が来たとお伝えください」
「分かりました。暫くお待ちください」
桃眞達が振り返った視線の先には、大量のクレーンゲームが広がっている。
その先のゲーム機エリアに吉樹が向かう。
「みんなこっちこっち」と誘った先にあったのは、ダンスリズムゲームだ。
『ダンシングエヴォリューション』
一同が吉樹の下へと向かい、「で、これから何をするんですか? まさか先生達が遊ぶとかそんな訳ないですよね」と慎之介が訝しげに訊ねると、「そんな訳ないじゃないかぁ」と吉樹がニコリと笑った。
佐伯や漣樹が眉を潜める中、白い短パンから怪獣のイラストの小銭入れを取り出すと、百円玉を二枚掴み、投入口にスルリと流し込んだ。
「ってヤルんかいッ」と櫻子が勢い良くツッコむ。
「こ、コレはお宝ですわッ」と鼻息荒げにカメラを構える聖羅。
少しの沈黙の後、吉樹の金縁の丸眼鏡が怪しく光った。
タンタンタンタン……
リズムに合わせて指を鳴らす。
ズンチャッ……ズンチャッ……ズンチャッ……ズンチャッ……
膝でもリズムを取る。
トゥントゥントゥン……トゥトゥトゥトゥン……
音に合わせて腕を突き上げ、前に伸ばし、腰に当てる。
そして、大きな画面に上から下に流れるマークに合わせて、同じマークが描かれているステージの上でステップを刻み始めた。
的確かつ華麗に踊る吉樹に、一同が唖然とする中、皇がやってきた。
「あらあら、ウォーミングアップですか」と微笑む皇。
その言葉に桃眞の口角が引きつった。
「これでウォーミングアップっすか……」
50コンボ!!
70コンボ!! イェイ!!
100コンボ!! ワンダフォー!!
とゲーム機から吉樹の連続コンボを称える声援が鳴り響く。
腕を組んでいた横谷が「マジかよ今のところノーミスだぞ」と驚きを隠せずにいた。
画面に流れるマーク通りにステップを刻むだけならまだしも、間でターンや必要の無い振り付けを挟む余裕を見せつける。
終いには、ダンスミュージックの歌詞までも口ずさむ始末だ。
「ナナナナナッ……ナイスですねッ!!」と指を突き出す。
このセリフとポーズをいつも陰陽寮で見せているのかと桃眞はハッとしたのだった。
フルコンボッ!! アンビリーバボー!!
指を天井へと高々と上げる吉樹達の周りには、いつしかギャラリーが囲んでいた。
そして拍手が起きる。
「ありがとうッ、ありがとうッ」と言いながらステージから下りる。
桃眞達も思わず拍手をする中、櫻子が「で? これから何をするのよ」と訊ねると、微笑みを続ける皇が前に出た。
「最初はこれをやってもらいましょうか。ペアで」
「ペアぁ?」と一同の声が裏返った。
続けて派手なピンクのシャツを着た吉樹が口を開く。
「君達が残りの二週間、特に最初の一週間でレベルアップさせるべきは団結力です」
その言葉に漣樹が食ってかかる。
「ふざけるなッ。こんなゲームやってられっかよ。さっさと大会で役立つ術とか技を教えるのが先決だろ」
一同が頷く。
珍しくこの瞬間だけは最高の団結力を見せたのかも知れない。
皇が首を左右に振った。
「いいえ。私が見ても吉樹さんが見ても、貴方達の団結力はバラバラでしょう。特に因縁のある桃眞さんと漣樹さんに至っては、絶望的と言っても良いでしょうし」
その言葉にフンッと鼻を鳴らして皮肉る漣樹。
「今大会で最も大切なのは、『個の力』よりも『コンビネーション』や『連携力』……つまり団結力が重要となってきます」
今度は吉樹が声を出した。
「まずは、お互いが何を思い、どう行動するのか? 気の流れを肌で感じ読み取る。それを理解し合う事でより大きな力になるだろうね。その為にはまずこれさ……ダンシングエヴォリューション」
「これじゃ無くてもイイような……」と不安げな顔を見せる櫻子の横で、「しゃーねーな。ヤルか」と桃眞が気合を入れる。
「はい、じゃあコレ」と言いながら、吉樹が一同に黒いアイマスクを手渡す。
「え? なにこれ」と訊ねる桃眞に「ペアとなる側のメンバーはアイマスクを付けてもらうよ」と言った。
「いやいやいやいや」と鼻で笑う桃眞。
クールを決め込んでいた佐伯も流石に口を開いた。
「先生。流石にソレは無理でしょ。まずは普通にプレイしたほうが……」
「普通にプレイしては、ただ遊んでいるのと同じじゃないですか」と吉樹が答える。
「だったら先生達は出来るってのかよ」
漣樹のその言葉にまたも一同が頷いた。
聖羅だけは謎の発作を起こす。
「はふぅ……はふぅ……漣樹様。ナイスですわッ……」
寮生達の疑いの眼差しが皇に注がれる。
皇がダンスをするイメージが全くないからだ。
吉樹が『陽』なら皇は『陰』である。
「やっちゃう? 浩美っち?」
「……やりましょうか? 吉樹さん」と微動だにしない笑顔のまま、ペア側のステージに登る。
怪獣のイラストの小銭入れから百円玉を四枚取り出す。
「吉樹さん」
「何だい? 浩美ッち」
「やはり私では無理かも知れません」
「どうして?」
「何と言いますか……私はダンスを踊るようなキャラでは御座いませんし」
「そんな事はないじゃないか」と皇が立つステージの上に向かった吉樹。
そして、吉樹は皇の肩を一気に抱き寄せた。
「あんなに僕の上に乗り……ダンスをしてるじゃないか……」
その言葉に慌てる皇。
「よ、吉樹さんッ……皆が見てますよ」
恥ずかしさから俯く皇の顎を指先で持ち上げる吉樹。
「馬鹿……見せてるんだよッ……」
「吉樹さん……」
「浩美……」
重なる視線。
重なる吐息……そして唇。
「聖羅ッ!? 聖羅ッ!!」と床で痙攣する聖羅の頬を叩く櫻子。
「た……たた、タ、たタぎ……滾りますぅううう……」
恍惚の表情で白目を向く聖羅の指先に力が入り、カメラのシャッターが高速連写をする。
一同がドン引きする中、心配する皇に桃眞が「あ、大丈夫っす。妄想してイってるだけっす」と説明した。
聖羅が暫く再起不能と判断したのか、側にいた蓮水がカメラを構えた。
吉樹が怪獣のイラストの小銭入れから百円玉を四枚取り出す。
皇がアイマスクを装着した。
何をしでかすのかと、またもギャラリーが集まり始める。
「吉樹さん」
「何だい? 浩美ッち」
「やはり私では無理かも知れません」
「どうして?」
「何と言いますか……私はダンスを踊るようなキャラでは御座いませんし」
すると、漣樹が桃眞の下に近づく。
「何だよ」
「やってみるか……俺らで」
「何を?」
「皇さんもあんな感じになってるしな。取り敢えず俺らの連携力を高める必要があるだろうが」
そう言いうと、吉樹達と入れ替わった漣樹と桃眞。
「マジでやるのかよ」と桃眞が言うと「何でもやってみないと分からんだろ」と漣樹が皮肉る。
「クソッ……なんでイキナリこんな事に」
アイマスクを付ける桃眞。
ゲーム機から音楽が鳴り始めるが、アイマスクを付けている桃眞には、漣樹がどんなステップを刻んでいるのかすら、何も見えない。
ミス!!
ミス!!
トゥーバッドッ!!
「クソッ、何にも見えねぇし分かんねぇよ」
桃眞がイラつき、そう言うと「だったら、俺がしっかりと教えてやるよ」と桃眞が立つステージに上がる。
そして、桃眞の背後に立った漣樹は、桃眞の腕を掴み「まずは……こうだ」と、その手をするりと下ろし……胸を掴んだ。
「はぁんッ!!」と桃眞がビクつき声を上げる。
「どうした?」
「いや……こ、この次は……?」
「そして……こうだッ」
漣樹の手が桃眞の股間に滑ると「はぁああんッ」と桃眞は恍惚の表情で絶叫した。
「聖羅ッ!? 聖羅!! おーいッ、聖羅ぁッ」とまたも痙攣する聖羅の頬を叩く櫻子。
「た、タタ……滾りゅりゅうう……」
ステージの上から心配そうに見下ろす皇と吉樹の前で、桃眞が「あ、大丈夫っす。また妄想してイってるだけっす」と説明した。
まさか自分が妄想されているとは、この時の桃眞は思ってもいないだろう。
一同の前で、それぞれのステージに立つ吉樹と皇。
マシーンからダンスミュージックが流れ始めた。
タンタンタンタン……
リズムに合わせて指を鳴らす二人。
ズンチャッ……ズンチャッ……ズンチャッ……ズンチャッ……
膝でもリズムを取る二人。
トゥントゥントゥン……トゥトゥトゥトゥン……
音に合わせて腕を突き上げ、前に伸ばし、腰に当てる。
そして、大きな画面に上から下に流れるマークに合わせて、同じマークが描かれているステージの上で、二人同時にステップを刻み始めた。
周りからイキナリ歓声が上がる。
何故なら、二人の動きがピタリと合っているのだ。
しかも、皇はアイマスクで視界を遮断しているのだから。
唖然とする桃眞達の前で更新していくコンボ数……。
「う、嘘だろ……」と慎之介が唖然としている。
50コンボ!!
70コンボ!! イェイ!!
100コンボ!! ワンダフォー!!
とゲーム機から二人の連続コンボを称える声援が鳴り響く。
合間に吉樹が勝手にターンや振り付けをしようが、それに合わせ皇も動く。
吉樹の体から放たれる気を肌で読み取り、同じように動いているのだ。
最後の決めポーズは二人が鏡に写るかの様に、背中をくっ付け指鉄砲を桃眞達に突きつけた。
そして、「バンッ!!」と言い指鉄砲を撃つ。
拍手喝采、大歓声の中、『フルコンボッ!! アンビリーバボー!!』とゲーム機が二人が起こした奇跡を湛える。
振り返る桃眞の視線の先では、またも床で痙攣する聖羅が口から泡を吹いていた。
「コイツ……いつか……このまま死ぬんじゃ……」
桃眞は不安げにそう言った。




