表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/47

第24話「シンクロしようよっ」その1

 車を走らせて約一時間。

 ようやく、目的地へと到着した。


「みんなぁー。到着だよ」と吉樹が告げると、桃眞は「てか、晩飯まだすか? 腹減りましたよ」と不満そうな表情を浮かべる。その言葉に釣られ、櫻子も「私もお腹すいたぁー」と凹んだ腹を手で押さえながら車を降りる。


 そこは、とある施設の地下駐車場だった。

 一同が車から降り、施設の玄関口に掲げられている看板の名前を読み上げる。


「ラウンドテン……ってレジャー施設じゃないですか」と慎之介が皇の顔に目をやる。


「"特訓"とか言っておいて、お遊びじゃないですか?」と、桃眞が皇に問うと「まぁ、付いてきなさい」と意味深な言葉を残して自動ドアを潜った。


 一般客とすれ違いながらエスカレーターに乗り、2階へと上がる。

 受付に到着すると、カウンター内の若い男が「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」と営業スマイルで桃眞達を出迎えた。


「川神さんに皇が来たとお伝えください」


「分かりました。暫くお待ちください」



 桃眞達が振り返った視線の先には、大量のクレーンゲームが広がっている。

 その先のゲーム機エリアに吉樹が向かう。


「みんなこっちこっち」と誘った先にあったのは、ダンスリズムゲームだ。


 『ダンシングエヴォリューション』


 一同が吉樹の下へと向かい、「で、これから何をするんですか? まさか先生達が遊ぶとかそんな訳ないですよね」と慎之介が訝しげに訊ねると、「そんな訳ないじゃないかぁ」と吉樹がニコリと笑った。


 佐伯や漣樹が眉を潜める中、白い短パンから怪獣のイラストの小銭入れを取り出すと、百円玉を二枚掴み、投入口にスルリと流し込んだ。


「ってヤルんかいッ」と櫻子が勢い良くツッコむ。



「こ、コレはお宝ですわッ」と鼻息荒げにカメラを構える聖羅。



 少しの沈黙の後、吉樹の金縁の丸眼鏡が怪しく光った。


 タンタンタンタン……

 リズムに合わせて指を鳴らす。


 ズンチャッ……ズンチャッ……ズンチャッ……ズンチャッ……

 膝でもリズムを取る。


 トゥントゥントゥン……トゥトゥトゥトゥン……

 音に合わせて腕を突き上げ、前に伸ばし、腰に当てる。

 そして、大きな画面に上から下に流れるマークに合わせて、同じマークが描かれているステージの上でステップを刻み始めた。


 的確かつ華麗に踊る吉樹に、一同が唖然とする中、皇がやってきた。


「あらあら、ウォーミングアップですか」と微笑む皇。


 その言葉に桃眞の口角が引きつった。


「これでウォーミングアップっすか……」



 50コンボ!!


 70コンボ!! イェイ!!


 100コンボ!! ワンダフォー!!

 とゲーム機から吉樹の連続コンボを称える声援が鳴り響く。


 腕を組んでいた横谷が「マジかよ今のところノーミスだぞ」と驚きを隠せずにいた。


 画面に流れるマーク通りにステップを刻むだけならまだしも、間でターンや必要の無い振り付けを挟む余裕を見せつける。

 終いには、ダンスミュージックの歌詞までも口ずさむ始末だ。


「ナナナナナッ……ナイスですねッ!!」と指を突き出す。


 このセリフとポーズをいつも陰陽寮で見せているのかと桃眞はハッとしたのだった。



 フルコンボッ!! アンビリーバボー!!


 指を天井へと高々と上げる吉樹達の周りには、いつしかギャラリーが囲んでいた。

 そして拍手が起きる。


「ありがとうッ、ありがとうッ」と言いながらステージから下りる。


 桃眞達も思わず拍手をする中、櫻子が「で? これから何をするのよ」と訊ねると、微笑みを続ける皇が前に出た。


「最初はこれをやってもらいましょうか。ペアで」


「ペアぁ?」と一同の声が裏返った。


 続けて派手なピンクのシャツを着た吉樹が口を開く。


「君達が残りの二週間、特に最初の一週間でレベルアップさせるべきは団結力です」


 その言葉に漣樹が食ってかかる。


「ふざけるなッ。こんなゲームやってられっかよ。さっさと大会で役立つ術とか技を教えるのが先決だろ」


 一同が頷く。

 珍しくこの瞬間だけは最高の団結力を見せたのかも知れない。



 皇が首を左右に振った。


「いいえ。私が見ても吉樹さんが見ても、貴方達の団結力はバラバラでしょう。特に因縁のある桃眞さんと漣樹さんに至っては、絶望的と言っても良いでしょうし」


 その言葉にフンッと鼻を鳴らして皮肉る漣樹。


「今大会で最も大切なのは、『個の力』よりも『コンビネーション』や『連携力』……つまり団結力が重要となってきます」


 今度は吉樹が声を出した。


「まずは、お互いが何を思い、どう行動するのか? 気の流れを肌で感じ読み取る。それを理解し合う事でより大きな力になるだろうね。その為にはまずこれさ……ダンシングエヴォリューション」


「これじゃ無くてもイイような……」と不安げな顔を見せる櫻子の横で、「しゃーねーな。ヤルか」と桃眞が気合を入れる。



「はい、じゃあコレ」と言いながら、吉樹が一同に黒いアイマスクを手渡す。


「え? なにこれ」と訊ねる桃眞に「ペアとなる側のメンバーはアイマスクを付けてもらうよ」と言った。


「いやいやいやいや」と鼻で笑う桃眞。


 クールを決め込んでいた佐伯も流石に口を開いた。


「先生。流石にソレは無理でしょ。まずは普通にプレイしたほうが……」


「普通にプレイしては、ただ遊んでいるのと同じじゃないですか」と吉樹が答える。



「だったら先生達は出来るってのかよ」


 漣樹のその言葉にまたも一同が頷いた。

 聖羅だけは謎の発作を起こす。


「はふぅ……はふぅ……漣樹様。ナイスですわッ……」


 寮生達の疑いの眼差しが皇に注がれる。

 皇がダンスをするイメージが全くないからだ。

 吉樹が『陽』なら皇は『陰』である。


「やっちゃう? 浩美っち?」


「……やりましょうか? 吉樹さん」と微動だにしない笑顔のまま、ペア側のステージに登る。





 怪獣のイラストの小銭入れから百円玉を四枚取り出す。


「吉樹さん」


「何だい? 浩美ッち」


「やはり私では無理かも知れません」


「どうして?」


「何と言いますか……私はダンスを踊るようなキャラでは御座いませんし」


「そんな事はないじゃないか」と皇が立つステージの上に向かった吉樹。


 そして、吉樹は皇の肩を一気に抱き寄せた。


「あんなに僕の上に乗り……ダンスをしてるじゃないか……」


 その言葉に慌てる皇。


「よ、吉樹さんッ……皆が見てますよ」


 恥ずかしさから俯く皇の顎を指先で持ち上げる吉樹。


「馬鹿……見せてるんだよッ……」


「吉樹さん……」


「浩美……」


 重なる視線。

 重なる吐息……そして唇。




聖羅(せら)ッ!? 聖羅ッ!!」と床で痙攣する聖羅の頬を叩く櫻子。


「た……たた、タ、たタぎ……(たぎ)りますぅううう……」


 恍惚(こうこつ)の表情で白目を向く聖羅の指先に力が入り、カメラのシャッターが高速連写をする。

 一同がドン引きする中、心配する皇に桃眞が「あ、大丈夫っす。妄想してイってるだけっす」と説明した。


 聖羅が暫く再起不能と判断したのか、側にいた蓮水がカメラを構えた。





 吉樹が怪獣のイラストの小銭入れから百円玉を四枚取り出す。

 皇がアイマスクを装着した。

 何をしでかすのかと、またもギャラリーが集まり始める。


「吉樹さん」


「何だい? 浩美ッち」


「やはり私では無理かも知れません」


「どうして?」


「何と言いますか……私はダンスを踊るようなキャラでは御座いませんし」


 すると、漣樹が桃眞の下に近づく。


「何だよ」


「やってみるか……俺らで」


「何を?」


「皇さんもあんな感じになってるしな。取り敢えず俺らの連携力を高める必要があるだろうが」


 そう言いうと、吉樹達と入れ替わった漣樹と桃眞。


「マジでやるのかよ」と桃眞が言うと「何でもやってみないと分からんだろ」と漣樹が皮肉る。


「クソッ……なんでイキナリこんな事に」


 アイマスクを付ける桃眞。


 ゲーム機から音楽が鳴り始めるが、アイマスクを付けている桃眞には、漣樹がどんなステップを刻んでいるのかすら、何も見えない。


 ミス!!


 ミス!!


 トゥーバッドッ!!


「クソッ、何にも見えねぇし分かんねぇよ」


 桃眞がイラつき、そう言うと「だったら、俺がしっかりと教えてやるよ」と桃眞が立つステージに上がる。


 そして、桃眞の背後に立った漣樹は、桃眞の腕を掴み「まずは……こうだ」と、その手をするりと下ろし……胸を掴んだ。


「はぁんッ!!」と桃眞がビクつき声を上げる。


「どうした?」


「いや……こ、この次は……?」


「そして……こうだッ」


 漣樹の手が桃眞の股間に滑ると「はぁああんッ」と桃眞は恍惚の表情で絶叫した。




「聖羅ッ!? 聖羅!! おーいッ、聖羅ぁッ」とまたも痙攣する聖羅の頬を叩く櫻子。


「た、タタ……滾りゅりゅうう……」


 ステージの上から心配そうに見下ろす皇と吉樹の前で、桃眞が「あ、大丈夫っす。また妄想してイってるだけっす」と説明した。

 まさか自分が妄想されているとは、この時の桃眞は思ってもいないだろう。



 一同の前で、それぞれのステージに立つ吉樹と皇。

 マシーンからダンスミュージックが流れ始めた。


 タンタンタンタン……

 リズムに合わせて指を鳴らす二人。


 ズンチャッ……ズンチャッ……ズンチャッ……ズンチャッ……

 膝でもリズムを取る二人。


 トゥントゥントゥン……トゥトゥトゥトゥン……

 音に合わせて腕を突き上げ、前に伸ばし、腰に当てる。

 そして、大きな画面に上から下に流れるマークに合わせて、同じマークが描かれているステージの上で、二人同時にステップを刻み始めた。


 周りからイキナリ歓声が上がる。

 何故なら、二人の動きがピタリと合っているのだ。

 しかも、皇はアイマスクで視界を遮断しているのだから。


 唖然とする桃眞達の前で更新していくコンボ数……。


「う、嘘だろ……」と慎之介が唖然としている。


 50コンボ!!


 70コンボ!! イェイ!!


 100コンボ!! ワンダフォー!!

 とゲーム機から二人の連続コンボを称える声援が鳴り響く。


 合間に吉樹が勝手にターンや振り付けをしようが、それに合わせ皇も動く。

 吉樹の体から放たれる気を肌で読み取り、同じように動いているのだ。


 最後の決めポーズは二人が鏡に写るかの様に、背中をくっ付け指鉄砲を桃眞達に突きつけた。

 そして、「バンッ!!」と言い指鉄砲を撃つ。


 拍手喝采、大歓声の中、『フルコンボッ!! アンビリーバボー!!』とゲーム機が二人が起こした奇跡を湛える。


 振り返る桃眞の視線の先では、またも床で痙攣する聖羅が口から泡を吹いていた。


「コイツ……いつか……このまま死ぬんじゃ……」


 桃眞は不安げにそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ