第14話「恋しちゃいました」その2
「ラスト8秒でしたか。危なかったですね」と皇はニコリと笑みを見せながら、手にしていた呪符をポケットに仕舞い込んだ。
それは除霊用の呪符だった。
飛葉と山那も除霊用の呪符を仕舞う。
全員が、佐伯に渡された帰還用の呪符を取り出した。
「良いですか、桃眞さん。術は一言。『帰る』です」と皇が言った。
「そのまんまっすね」
「はい」
「帰るッ」
四人はそう言うと眠りから覚めた。
その後、四人は目覚めると、変貌した家の姿に驚愕した。
既に、黒い鬼が逃げた後であり、その事を聞いた桃眞が唇を噛み締めた。
玄関の外で泣きながら慎之介を介抱する櫻子の下へ駆け寄る桃眞。
騒ぎを聞きつけた近隣の部屋の住人が救急車を手配してくれていた。
目覚めた真理の母親を連れてリビングルームに向かう皇。
母親から話しを聞かされた父親も涙し、二人で抱き合った。
ガラスが割れているベランダを見ながら、煙草を吸う村雨の横に並んだ皇。
経緯を聞かされた皇はそれでも口角があがったまま、だが目は笑ってはいなかった。
近隣の住人の忘却や、後処理までできて『怪伐隊』だ。
真理の両親の周りは、何事も無かったかのように普段の生活に戻ったのだった。
真理の墓前に花を添え、手を合わせていた桃眞。
心の整理を着かせ、真理に感謝しその場を立ち去った。
慎之介は一命を取り留めたが、傷が深過ぎた為、外界の病院に入院していた。
ベッドの上で腹に包帯を巻かれて眠っていた慎之介。
目を覚ますと、横で椅子に座った櫻子が俯いて寝ていた。
今日で意識が戻ってから四日目。
櫻子は陰陽寮に許可を貰い、放課後には毎日、慎之介の下へ来ては、様子を伺い話し相手になり、そして帰っていく。
慎之介は櫻子を起こさずに、天井を見上げ、思い出に更ける。
「やーい。お前の神社ッ、オンボロ神社ッ、だれーもこなーい拝みーにこなーい」
「辞めろよッ……辞めてくれよぉぉ……」
小学生の時、いつも実家の神社の事をからかわれ、虐められていた慎之介。
その日の下校途中も公園の前で数人の男子に囲まれ、お決まりの歌と共に石を投げられたいた。
そして決まって慎之介は悲しくて悔しくて泣きじゃくっていたのだ。
すると、櫻子がリコーダーを振り回してイジメっ子の男子を追い払う。
リコーダーで頭を殴られ泣き叫ぶ男子達が一目散に逃げていった。
「あんた、やり返しなよ。いっつも黙ってるからイジメられるのよ」
「うぅぅぅ……絶対に、大きくなったら陰陽師になるんだ。そして金持ちになってアイツ等を見返してやるんだ。もう誰も馬鹿になんてさせるもんかぁ」
そう言って、泣きじゃくる慎之介の頭を「よしよし」と言いながらいつも櫻子は撫でていた。
そんな思い出を目に浮かべていた。
ふと横を見ると、疲れているのか、まだスヤスヤと眠っている櫻子。
ベッドの脇に、細く綺麗な手が置かれている。
その手をじっと見つめる慎之介。
いつも元気付けてくれたその手……。
いつも温かく包み込んでくれたその手……。
いつも安心させてくれたその手……。
そんな手、そして優しい心を持つ櫻子の事が……。
慎之介は無意識の内に、自分の手をベッドの上に沿わす。
櫻子の指先と慎之介の指先が近づく。
そして触れる……直前に、病室のドアが開いた。
「よっ! 慎之介」と桃眞が果物の詰め合わせを持って入ってきた。
その声に、櫻子が目を覚ます。
「あれ、アンタも外出許可が出たの?」
「今日だけな。真理のお墓参りの許可がでたんだ」
平静を装う慎之介の横に果物入りのバケットを置くと、折りたたみ椅子を広げ横に座る桃眞。
「慎之介大丈夫か。まだ痛むか」
「まぁ、少しな」と答える。
「あ、そうそう」と何かを思い出した桃眞。
「あの皇さんがさ。珍しく陣内さんにブチ切れられたんだってさ」
「マジでッ!? ッいててて」と、衝撃で痛む腹部を抑える。
櫻子の暖かい手が、慎之介の肩と腹部を優しく摩った。
「ちょっと、変に動かないの。まだ傷口塞がってないんだから」
「俺だけじゃなくて、慎之介や櫻子も危険な目に合わせてさ。実際、慎之介はこんな事になってるし」
「そっか。あの浩美さんがなぁ。怒られてる姿なんて想像できないな」と慎之介は言った。
「でも、二人が居なかったら、今頃俺も皇さんも怪伐隊の皆も死んでたかも知らないんだよな」
「ホントだよ。感謝してよね」と目を細める櫻子。
「村雨さんが、お礼に埋め合わせはするってさ」
「やったね。外界の美味しいスイーツ食べ放題とか頼もうかなぁ」と目を輝かせる。
慎之介に別れを告げて、病院を出た桃眞と櫻子。
「あんたもう陰陽寮に帰るの」と訊ねる櫻子に「いや、腹減ったしな。なんか食って帰るかも。気になるラーメン屋があるんだよな」と答える。
「何よ。その気になるラーメン屋って」
「じゃあお前も来いよ。奢ってやる」
そう言って、櫻子の腕を引っ張った桃眞。
「ちょいちょいちょい」と言いながら引っ張られる櫻子。
「お前、あんまり寝てないんだろ。目の下にクマができてっぞ」と歩道を歩きながら問いかける桃眞。
「まぁ、慎之介の事。責任感じてるしさ。私を庇ってあんな事になって……あの時は死んだかと思った」
そう言い、目に薄らと涙を浮かべる。
「まぁ、でも助かって良かったじゃん。それにさ、寝不足でお前が倒れたら、今度はアイツが責任感じちまうぞ」
「そうだよね……」
櫻子は俯きながらそう言った。
桃眞が気になっていたいたラーメン屋とは繁華街の中にある『幻のしょうゆラーメン』だ。
前にイヌヒコと来た時には、お金がなくて食べれなかったのだ。
ラーメンを注文した後、桃眞は櫻子に、ファーストフード店で食べ残しのフライドポテトを愛でながら食べた話しをした。
馬鹿笑いする櫻子。
ラーメンのスープを飲み、二人が唸った。
「うっまッ」
夜になると一層賑やかになる繁華街。
アップテンポなミュージック、煌くネオン。
そんな世界が櫻子にとっては久しぶりの事でいつも以上にはしゃぐ。
「ねぇねぇ。これ前から飲みたかったんだ」と言い、タピオカドリンクの店に入る。
ロイヤルミルクティーと、黒糖ココナッツミルクをそれぞれが頼んだ。
お互いがストローに口を付け、唸った。
「うっまッ」
「モッチモチじゃん」と口いっぱいにタピオカを含んだ桃眞。
頬っぺたがパンパンに膨らんだ桃眞の顔に笑う櫻子。
その後、ゲームセンターでエアーホッケーをしたり、一時間だけカラオケで歌った。
陰陽寮への帰り道、櫻子の顔にはすっかりと笑顔が戻っていた。
「どうだ。元気出たか」と訊ねる桃眞に「うん。なんかこう……スッキリしたなぁッて感じ」と答える。
「良かったな」と桃眞は言った。
そして、桃眞は続けた。
「元気の無い櫻子は、そんなの櫻子じゃないよ。お前に暗い顔は似合わないな。俺馬鹿だからさ、慎之介みたいな気の利いた事とか言えないけど、元気がなくなったらいつでも櫻子を笑わせてやる」
そして「なっ」と言って、前を向いた桃眞。
その横顔を見つめる櫻子の頬が、桜色に染まる。
心臓がキュッとした事に櫻子は動揺した。
そして、櫻子は心の中で叫んだのだった。
――「えっ……待って。これってッ!!」
本日はここまでとさせて頂きます。
明日以降は、ストックがなくなるまでは、毎日1つずつ。
だいたい19時頃に更新致します。
今後共よろしくお願い致します。




