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レンド  作者: 粟田三輝
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005 一味の処遇





 教授が現れた。青い瞳の透き通った眼だ。

「既に便利なことは証明しましたよね?」

アルサ君はぼくではなく、教授に向けて説得している。先ほどの状態だとぼくに話しかけているように思われる。だが、初めから教授が見ていたのなら考えられた事だ。いつからだろうか。教授が喋り始めた。

「ああ、確かにそうだろう。そうだな、依頼を頼まれてくれないだろうか」

「どんな事ですか」

ぼくは即座に借問した。アルサ君も言いかけたようだ。

「事件の解決を手助けしてもらえるかな。それだけだ」


 教授は少し前から、あまり人気のない、能力の研究をしている。どんな時でも資料を持ち歩き、夜遅くまで研究することもある。小さい頃ぼくは興味を持ち、研究資料をこっそり眺めたことがあった。ところが教授が急に振り向き、それに驚いて逃げてしまった。何か悪さをした気分だった。けれど後に、興味があるのならゆっくりして良いぞと告げられた。あまり研究者がいないので、共有できる仲間が欲しかったのだろう。それからよく教授の研究室に訪れた。しばらくしてアマネも似たような事をした。もちろん誘われ、ぼく達はそこで友達になった。そういった熱心な人だ。


 そんな人が依頼だ。絶対に能力が関わっている。

「いくつかあるが、今あるものはすべてこれらの紙に記されている。どれでも自由に解決してくれ。後は任せたぞ」

分厚いファイルを渡された。一瞬にして終わってしまった。引き留めなければ。大きめの声で問いただす。

「それだけですか。他に何かあるんじゃないですか?」

「もういいって、レイ」

アルサ君に止められた。でもこれだけじゃないはず。能力についていつでも一言あるんだ。教授は何かあるのか?

「すまないが、忙しい。ひとつあるとすれば、これが本来の設立目的ということかな」

それだけを言って消えるように去っていった。これが能力についての一言か。随分安易だ。やけに忙しくなったものだ。


 教室に戻った。あの三人はいなかった。

 つい数分前、アルサ君は証明したとか何とか言った。教授と知り合いだったのはわかるが、内密に何かを仕込んでいるのだろうか。もはや聞く他ない。

「さっき何か証明したんだよな。どんな事なんだ」

そう聞くと案外さらっと返された。

「あれは入部可能かテストされていて、それの結果を聞いた。地下室にいくつか隠しカメラがあって見られてたんだ。気付いてなかったのか」

また軽く馬鹿にされた気がする。それより隠しカメラか、手の込んだ事をするなあ。

「結果はどうだったんだ?」

アルサ君は指でばつを作る。駄目だったか。何が良いのか悪いのか全く分からないな。


 するとアルサ君は唐突にファイルを取って、めくり始めた。

「もしかすると、事件の解決が入部条件なのかもしれない。じゃなきゃ出す意味もない」

教授なら考えそうだ。ならばぼくとアマネは、どうしてそうじゃないのだろうか。アルサ君が心中を察して答えてくれた。

「二人はもともと興味があるって分かってたでしょ。けど僕は違う。だから試されてるんだと思う」

なるほど、やっとわかった。そうなら、今後クラブの人数は増えにくい。ちょっと厳しい。


 アルサ君はずっと、綴じられた資料をめくって、ようやく手を止めた。出血箇所にはいつの間にか絆創膏が貼ってある。

「これにしよう」

アルサ君の指したところには、連続盗難事件とある。商店街付近で被害か。前に出会った記憶がある。

「それは多分ぼくが対処した事件だよ」

アルサ君にそう伝えたが、納得がいかないようだ。

「対処であって解決したんじゃないし、レイがやったやつかも怪しい。これにしようよ」

わざわざ自転車を壊した原因に近づくのはごめんだ。別のものに意識を向けさせたい。ファイルを見てみる。これならちょうどいい。

「こっちの方がいいよ。現場もそれなりに近いから二つとも捜査できる。お得でしょう?」

アルサ君はしぶしぶといった様子で承諾した。ぼくらは失踪事件と盗難事件を同時進行で調べることにした。アルサ君は鞄を背負う。


 まずは弁当屋へ寄った。本日のおすすめを二人分注文し、近くのベンチに座った。昼食を取るためだ。アルサ君は疑問点があるらしく、それを口にした。

「レイはいつも弁当なの? レストランは楽なのに」

確かに外食はこの国においてメジャーだ。ならば、ぼくなりの意見をぶつけてみようか。

「そうだね、楽だろう。だけど人は多くて、とても混雑する。優雅に食事もできない」

「ちっぽけなスペースでちんけな弁当。優雅ですかね」

はいお見事、迅速な応対です。いやそうじゃない。何て事を言うんだ。吹っ切れた。

「これかなり高いよ! しかも美味しいんだよ! そんな事言うなって」

「レストランなら同じ値段で、より多く食事できます。そっちがいいよ」

「もっとも、これが貴族の嗜みってもんだ。そんな庶民何かに混ざってられるか」

「もしそうなら僕は貴族はいやですね。こじんまりと、風に吹かれながら」

「違う! 味が良いんだ!」

「もう、食べていい?」

沸騰したぼくの思考を遮って、アルサは食べようとしている。最早まともに思索できない。淡白な一言を。

「もう勝手にしろ」


 二人でベンチに座っていながらも、会話はなかった。ただアルサ君がぶつぶつ言ってただけだ。ぼくは食生活には拘っていたつもりだ。けれど完敗、そうでないことに気づかされた。履歴書なら一番気を使っているとして書いたほどだった。あっさり終わってしまった。何だ、喪失感とはこんなものか。

 ちなみにアルサ君の独り言は、別に王族でも貴族でもないのにとか、このメニュー考えられているけど少ないとか、準えるなら獰猛な一匹狼とか、盗難と失踪は関連しないのかとか様々だ。

 狼について審問した。するとこう言った。人間の肉を食った狼がその美味しさを理解したら、何度も襲いますよね?でも比例して捕獲されるリスクも増えます。つまり死が近づく。それはレイも同じく、お金のリスクと合致します。ここらで理性に任せて止めるべきです。そんな意味らしい。考慮して呟いた事なのだったか。でも心の浅い傷は癒えない。


 早急に食べ終わり、早速事件の調査をする事となる。だが、ふと疑問が浮かんだ。

「アルサ君、授業はないのか?」

確か12と答えていた。見た目にそぐわないが放棄していることもあり得る。

「それ実は12と13の間で、特に授業はない」

という返事。噂に聞いたことはあるが、実在すると思わなかった。具体的な状況を詮索しようとしたら、勝手に答えてくれた。

「ほぼ13学年と同じで大概の物事は許可されてるけど、授業だけは受けられないそうです。ちょうど良い具合に能力クラブがあるから、体験しようというだけ。ずっと続けるけどね」

アルサ君が積極性のある人だと分かったのは、このときだ。


 それより気になることがあると言って、アルサ君は推測を話した。

「教授から受け取ったあのファイル、たくさんの事件が載ってたよね?」

思い返せば、事件の規模や知名度なんか気にしていない、百科事典みたいな資料だった。

「どれも全く関連性が無さそうで、それぞれが孤立してた」

今解決に向かおうとしている二つも共通することははっきりしていない。恐らく無関係だし、あえていうならば近場であることだけだ。アルサ君の推理は止まらない。

「でも、大半が知らないものだ。多分何かある」

そして猜疑したままで黙り込んだ。まだ何かあるのか。けれど次の一言は、調査を開始しましょう、だった。


 まずは聞き込みをする。警察か検察か、それらの感覚も今ならわかる。地味だ。アルサ君は商店街の頭の所で、一人熱心に調査している。ぼくはお飾りだ。もしかすると弁当の件によってこうなっているのかもしれない。そうであってもつまらないと思う。将来は探偵でもないから、それでいいだろうが。

 機械的に続けること数十分。たくさんの情報が手に入った。もちろんつまらなかったので要旨をいうと、失踪について結構な人が知っているが目撃者はいなかった。

 同様に商店街の反対側でも行った。かなり人波の雰囲気は違ったが、目撃者がいないことに変わりなかった。


 ぼくは考え過ぎなのだろうか。食事のことを急に切り離されたみたいだ。例えるなら、もぎ取れた腕がすぐに癒着しない感じ。いや、バイオレンスなのでこんな表現は今後控えよう。

 その後、商店街から少し離れた所でも情報収集をした。有益なものは全くなかったが、アルサ君が鞄からファイルを取り出し渡してきたので事件の内容を見直した。というか、持って来てたのか。


 失踪事件の詳細は次の通り。ガーネ県デルト市三丁目の商店街付近にて、行方不明者が相次ぐ。犯人や組織は断定できず、対象は未成年が多い。失踪後の所在は確認できない。現在も捜査を続行している。つまり神隠しなのだろう。能力のことは何も書いていない。だが、肝心なことが最後にあった。

 なお、このことは表沙汰にしてはいけない。

 これを認知した瞬間に冷や汗がぞっと出てきた。まさか、教授が秘密裏に情報を抜き出している。そんなはずはない。信じられない。けれどそれに利用されているのか? ならば今すぐにでも止めるべきだ。


 アルサ君はこの事実に気付いただろうか。いつものようなら不意に悟ってしまうに違いない。だが、彼は事件に集中している。まだ分かっていない。ごく自然に二人だけで会話をできる場所へ移りたい。何か良い案があれば。

 紛いなりに考えた結果、レストランを利用する手があった。心の靄が二つとも晴れそうだ。誘ってみよう。

「あのさ、レストランでもいかない? お腹空いたでしょ?」

「お腹空いてないし、ナンパみたいに言い寄らないで。集中してる最中」

圧倒的な拒否だ。どうにかやり取りできる状態に持っていかねば。


「先程の弁当の件でして、挽回しようかなと思い立った次第です」

丁寧に説得を試みる。しかし、「しつこい。喉元まで来てたのに」と一蹴。それなら、こうする。

「お金は奢りだからいいでしょう?」

アルサ君は動きを止め、こちらを直視している。ならばと言い出さん限りの状態である。

「レイがいいなら付き合いますよ」

よし、決まった。とはいえどこに行こうか定まっていない。

 アルサ君はぼくの後ろを示して言った。

「あそこにレストランがあるね。何故か気になるのでそこにしましょう」

そこには、比較的静かな西洋料理店があった。密談にもってこいだ。二人の意見は一致した。


 さっさと中に入った。内装は外見とはうって変わって、モダンでお洒落だ。出入口の近くの二人席に座り、注文は適当にあしらう。忽然にではあるが、今までに考えたことを明らかにする。

「ただの憶測だけども、ファイルの事件が実は」

「真相について何か分かったでしょ? レイも」

遮られたが、既に見当ついてるのか、この人。やはり、恐るべし。敵に回せない。

「能力がポイントだよ。単なる想像だけど」

教授の考えを知っているのかもしれない。

「子供が多いのは、能力開発をしやすいからとか、力が弱いからとかだろうね。もう分かったでしょ?」

あれ? 話の論点がずれているような。

「ちなみに盗難は今日はなかった。事件の状況から最適な時間があったけど、その時は起こらなかった。自然に解決したと考えてもいい」

どこか違った気がしたのは、思考していることが違ったからか。ぼくは教授、アルサ君は事件。元の路線に戻してあげましょう。

「そうだね。そうだけど、教授のことで発覚したことがあって、それを話したいな」

「捜査中に何を考えてるの。今は真っ先に事件解決でしょ。そっち優先して」

大発見だろうに叱られた。融通が効かないじゃないか。


 注文した料理が来た。レストランはこんなに時間かかるんだった。忘れていた。

「ご注文のナポリタンとピザです。ごゆっくりなさいませ」

ウェイターの整った様を見る限り、ここは隠れ名店というやつだ。サービスがよさそう。そういえばナポリタン、頼んだかな? 覚えがないぞ。

「これ、アルサ君が選んだのか?」

頷き。ピザで足りるはずだけどね。奢りだからって遠慮はない。それがアルサ君だ。


 食べようとしたその時後ろから悲鳴が聞こえて来た。さっきのウェイターだ。とっさに後ろを振り向くと、三十路になりそうな男がウェイターの首を腕で捕らえていた。助けて、とも言えないらしい。男が怒鳴る。

「お前らああ。おりゃ欲求が溜まってんだ。殺してえんだよ!あんまり騒ぐんじゃねえぞ」

一人が走り、逃げ出そうとした。だが出入口のドアは開かない。男はまた話し始める。

「あ、出たいの? これでいいか?」

そう言うと左手を鉄砲の形にして逃げ出そうとした男に向けた。ぱああん。強烈な音が走った。その男は頭が吹き飛び倒れた。また悲鳴が。

「あひゃひゃ。久し振りで快感だああ!」

男は高笑いをしている。どうにか切り抜けないとまずい!

「アルサ君、勝算はある?」

彼に小声で言って顔を見ると、陰気な恐ろしい形相でにやりとして言った。

「これでチェックメイト」





ガーネ県デルト市とは?

ノリで書くべきではないですね

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