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第33回

注:最後にすべてのあらすじが書かれています。

 部屋へもどり、頭の中でいままでのことを整理してみた。

 

 イサクはわたしを裏切ってなどいなかった。

 彼は誠実だった。

 なのにわたしは、わたしのせいで彼は――!

 悔やんでも悔やみきれない。

 イサクの恨みは絶対にわたしがはらす!


 フランの悪行もようやくわかった。

 自分では直接に手を下さず、都合の悪い者たちを消していったのだ。

 ルイーズや息子のことも、フランは気にならないようだ。

 わたしに対してもその気があるようには見えない。

 己の欲だけに生きる見かけとちがい中身は醜い男、それがフランという悪人だ。 

 

 フランはわたしの初恋の君でも先王のオトシダネでもない。

 しいて言うなら、わたしと傷のある大男が作り上げたモンスターだ。

 わたしたちが、顔以外なんの取り得もない流れ者フランを王にまで上り詰めさせてしまったのだ。

 この責任はわたしが取らなくてはならない。


 そして、ある大切なことにこのときわたしは初めて気がついた。


「死体が……1つ多いわ!」


 このことをきっかけにいくつもの疑問点が消えていった。

 マスクの男のマントから抜き取った手紙とリボンをあらためて手に取ってみる。

 まちがいない。

 わたしは確信を深めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日、例の酒場の2階へマスクの男に会いにいった。


「あなたとここで会うのも今宵が最後ね……」


 マスクの男は何も言わない。

 

――バッ!


 ただ、激しくクチヅケしてきた。

 青い瞳が物言いたげに揺れていた。

 2人はその夜、いままでにないほど激しく愛しあった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


――カーンッ! カーンッ! カーンッ!


 いよいよ戴冠式当日。

 わたしはモニカとネイサンの付き添いで王城をあとにした。

 よく晴れた休日だ。

 青空を背景に馬車が王城を出ていく。

 通りに出ると、街はどこもかしこもたくさんの民衆でひしめいていた。

 王都の外へあふれるほど、国中の人々が集まっていた。


――ワアアアアーッ! パチパチパチパチーッ!

――フラン新王バンザーイ!

――国よ、栄えろ!


 フランを讃える者たちが通りを占拠している。

 だが、中にはレディMを押す声も聞こえてくる。

 賛否両論というところか。


 人の波は大聖堂まで続いた。

 フランの戴冠式をひとめ見ようと押し寄せているのだ。


「マリアンヌ殿……いよいよですな」

「調査官殿、いままで本当にありがとうございました」

「いやいや、戦いの幕はまだ上がっておりません。これからですよ」

「はい……」


――ワアアアアーッ! パチパチパチパチーッ!

――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!


 馬車が大聖堂の正門を入っていく。

 民衆から拍手と歓声がおこる。

 わたしは裏へ回り、祭壇で待つフランに剣で称号を授ける手伝いをする予定だ。

 衆人監視のなか馬車は控え室に横付けされ、誰の目にも晒されることなくわたしは大聖堂の中へ入ることができた。


「マリアンヌ殿、よろしいですか」

「調査官殿、やっとこの日に漕ぎつけました。すべてあなたのお蔭です」

「いや、正しくはマスクの男のお蔭でしょう。今日も来ておりますな……」

「はい……」


 わたしと調査官は扉の隙間から大聖堂の中を覗き見た。

 マスクの大男が柱の陰に立っている。

 今日も黒いマントのフードを頭に被っていた。

 

 わたしはモニカに合図した。

 ネイサンが先頭に立つ。


 ファンファーレが鳴り渡る。

 いよいよだ。

 戴冠式がはじまる。


 今日のわたしは真っ白なドレスで正装している。

 頭には2つのリボン。

 新しいリボンと古いリボンを付けた。

 どちらもグリーンだ。

 そして、手には儀式用の剣。

 

 大聖堂の中は静まり返っている。


――バンッ!

 

 扉が開かれた。

 大聖堂の1番奥の祭壇で、フランがこちらを向きわたしを待ち受ける。

 純白の衣装。

 まさに王子さま。

 幼いわたしが待ち焦がれた瞬間が、いまはじまろうとしている。


――ワアアアアーッ!

――パチパチパチパチーッ!

――フランさま、ばんざーい!

――バンザーイ!


 フランは満面の笑みで民衆にこたえている。

 勝ち誇った笑顔。

 何人もの犠牲の上で手に入れた最高君主の地位。

 彼には本来、なんの権利もないはずなのに。


「マリアン! 我が后! こちらに……!」


――あれはっ!

――おい! どうしたことだ!


 人々がザワザワと騒ぎはじめた。

 司祭たちが静粛にするよう皆に呼びかけている。

 わたしはそれらの人々の間を、ネイサン率と衛兵たちに守られながら進んでいった。


――コツコツコツコツ……。


 再び静まり返る大聖堂。

 呆気に取られた人々が口をポカンと開けたままこちらを見ている。

 唖然とするフランに堂々と近づいていく。

 

「あ、あの……マリアン? どういうことだ? その格好は……」


 思えば、この大聖堂で初めてイサクに出会った。

 神など信じないと誓ったわたしが、神に導かれここまでやってきた。


「これがわたしの正装よ、フラン!」

「だって……それではまるで……!」


――レディMだ! われらのレディMの登場だ!

――レディMバンザーイ! われらの女王、バンザーイ!


 たちまちレディMコールが起きはじめた。

 それもそのはず、わたしは白いドレスの上に真っ黒な黒のベールをすっぽりと被っていた。


「いったい……どういうことだ? マリアンはどこだ!」

「フラン……わたしよ!」


 わたしは黒いベールを脱ぎ、素顔を晒した!


――オオッ!

――レディMがベールを脱いだぞー!

――美しい貴婦人だ! まさにわれらが女王にふさわしい!


「マリアン! まさか……だが、舞踏会では一緒にいたはず……」

「フラン……あれは代役よ。わたしこそがレディMなのよ!」

「なんだと! では……十字架の封印を持っていたんだな! いますぐ返せ! この盗人め! みんな! この女はぼくの封印を盗んだ女だ! 捕まえてくれ!」

「盗人は、あなたのほうでしょう! わたしの婚約者のフリをして何年も騙し続けたあげく大勢の人々を死に追いやった! この大聖堂で懺悔なさい!」

「なんだと! 皆の者! その女の言う事を聞くな! この十字架は正真正銘ぼくの物だ!」

「いいえ! ちがうわ! それはわたしが16歳のときにあなたに与えたシャルルの物だわ! いますぐ返しなさい!」

「これは元々ぼくが君に預かってもらっていた物だ! もういい! 戴冠式は、ぼく1人でやる! マリアンヌ、君を后にするのはやめた! いますぐ帰ってくれ!」

「帰るのはあなたでしょ? 領地の遊び人! あなたなんか、オトシダネでもなんでもないわ! ただの大悪党よ!」

「みんな! この女を信じるな!」


 わかったわとフランの罵りあいに、大聖堂の人々が静まり返ってしまった。

 とそのとき!


――ワアアアアーッ!


 大勢の人々が大挙して大聖堂へ流れ込んできた!

 

「たいへんだー! デモ隊がここまで押し寄せてきた! シャルル大公! 早く戴冠式を済ませ、神に王として承認されてしまいましょう!」


 フランの家臣たちが司祭を急かし戴冠式を早く終わらせようとしている。


「そうはさせないわ!」


 わたしはネイサンたちとフランに立ち向かっていった!


――ワアアアアーッ!

――がんばれー! レディMー!

――シャルル大公! 下がって! わたくしたちが!


 衛兵たちとわたしたちの小競り合いが続いた。

 わたしは衛兵たちに立ち塞がられながらも、必死で前へ前へと進んでいった。


――ドンッ! ガガッ!


「わーっ! やめろー!」


――ドカッ! ドカッ!

――ドサドサドサアアアーッ!


 突然マスクの男が現れ、衛兵たちを素手でなぎ倒していく!


「ありがとう!」


――タタタタタタッ!

 

 わたしは無防備に佇んでいたフランの前に立ち塞がった!


「マリアン! やめないか! 君は下がってろ!」

「下がるのはおまえよ、フラン! この、悪党! かくごー!」


 フランたちは完全に油断していた。

 わたしは儀式用の剣を手に、フランに突っ込んでいった!


――ガタンッ!

 

 フランが驚いてしりもちをついた!

 いまこそ彼を討ち取るチャンスだ!


「なにをする気だ! やめろ! マリアンー!」

「イサクとお父さまのカタキ、悪党フラン! 覚悟ー!」

「うわーっ! 助けてくれーっ!」


 手をわたしへと伸ばし怯えるフラン。

 彼も彼の家臣たちも恐怖でまったく動けない。

 わたしはゆっくりとフランに近づくと、手に持つ剣を思い切り振り上げステンドグラスの真下で上段に構えた!

 七色の光が剣を照らす。

 神の御前でわたしは凶行に及ぼうとしている。

 だが、この悪党をわたし以外の誰が罰せようか。


 地獄の底の底、いや地獄へさえも入れてもらえはしない闇へ落ちる覚悟を決めて目を瞑ると、わたしは剣を思い切り真下にへ振り下ろした――!


「かくごしろー!」


 

――ヒュンッ!



「ぎゃあああああーっ!」





――ガガッ! キーイイイイーンッ!

――カーアアアアーンーッ!


 手がジンジンと痺れる。

 思わず剣を取り落とした!

 ガランゴロンと剣が大聖堂の大理石の床に転がった。

 あたりは静まり返ったまま。

 わたしは恐る恐る目を開けた。

 

 わたしの目の前に――マスクの男が立っていた!

 彼は剣を片手にわたしとフランの前に立ち塞がっていた。

 アポロンの瞳がわたしを射る。

 いったい彼はどちらの味方なのか。


「かたきを取らせて! その男は父と夫を殺した!」

「……この男にはこどもがいる。こんなヤツでも父親だ。マリアン、君の父上のように……」

「でも……! その男はたくさんの命を消した! 神が審判をくださないなら、わたしがこの手で!」

「……人間は神の代わりにはなれない! 運命を決めるのは運命のみだ!」

「……わかったわ……あなたがそれを望むなら」


 わたしは復讐をあきらめた。

 フランは男のうしろで震えていた。

 こんな男に手を汚すだけ無駄というものだ。 

 そのとき調査官が前に進み出た。


「シャルル大公、あなたにリュゥフワ大公殺しの罪状が出ています。ルイーズが罪を認め息子と修道院へ行く道を選択したからです。また、領地にあなたの仲間の残党がいて罪を告白しました。もちろん、あなたが首謀者です」

「な、なんだと……! 売春婦やならず者の言う事など信用できるものか! おまえたちのでっちあげだろう! 皆の者! こいつらを捕まえろ!」

「フラン、みっともないわ! もうやめて!」

「なんだって! マリアン、剣なんか振り回して……イサクが死んで気でも狂ったか? それに、その男が顔に傷のある男だとして……マリアンの一家を騙して財産を奪おうと持ちかけたのはこの男なんだぞ! 数々の罪はこの男が犯人だ! ぼくは関係ない! ぼくはこの男に利用されていただけだ!」

「フラン……もうやめない? 傷のある大男との犯罪を憶えているということは……やはり記憶喪失は真っ赤な嘘だったのね? 素直にすべての罪を認めなさい!」

「うるさいぞ、マリアン! 大臣! さっさと戴冠式を終えよう! この十字架がある限り、ぼくは正当な王家の人間だ! 先王の息子なんだぞ!」

「何を言ってるの? フラン……本当の息子はあなたの目の前にいるでしょう?」

「なんだと! マリアン! 何をとち狂ったことを言ってるんだ! ぼくの目の前にはベネディクト男爵しか……」


――ズズッズズッズズッ……。


 突然マスクの男が出口へ向かって歩きはじめた。


「待って! あなたに返すわ! 十字架の封蝋を!」

「…………」

「……なんだって? マリアン、何を言ってるんだ? 十字架は……」

「部外者は黙ってて! グリーンのリボンは両方とも返してもらったわ。さあ、受け取って……イサク!」


――イサクだってー?

――あの伝説の騎士さま。

――でも、死んだはずじゃあ……。


 人々がどよめき、あちこちから疑問を呈する声が聞こえてくる。

 

「マリアン! イサクは死んだ! その男は別人だよ! いい加減……!」

「いいえ! 彼はイサクよ! だって……死体が1つ多いのよ!」

「死体が1つ多い? マリアンヌ殿、それはいったいどういうことですか?」


 調査官がわたしに質問する。


「調査官殿……イサクと捜索に行き生き残った兵士は、川辺の木の下から男と思われる死体が2つ出てきたと言っていました。役人の死体にばかり気を取られ、わたしたちはその事実を忘れていました。兵士はその死体から手紙が出てきたと言いました。幼い頃にわたしが書いた手紙です。その手紙を受け取っていたのはベネディクト男爵でした。状況から考えて、その遺体は顔に傷のある大男ベネディクト男爵だったのでしょう」

「それでは……廃村で見つかった焼死体はイサクさまではなく、ベネディクト男爵だったということですな」

「はい。イサクの死体はなかった。彼は生きている。その証拠に、ベネディクト男爵の遺体から回収した手紙と、過去わたしがイサクに渡したリボンをそこのマスクの男性が所持しておりました」


「…………!」


 マスクの男がマントを翻し、びっくりしてこちらを振り返った。

 わたしの頭のリボンをジッと見つめている。

 手紙とリボンを、まさかわたしが持っているとは思ってもみなかったようだ。


「あなたは迷路でリュゥフワ大公を見張っていて殺人事件に遭遇した。驚いて逃げる途中このリボンを落とした。16年前公園であなたに託したわたしのグリーンのリボンを」

「なんだって? マリアン! 公園で出会ったのはぼくだろう!」

「フラン、この詐欺師! だまりなさい! 部外者のあなたが思い出まで汚す権利はないわ!」

「マリアンヌ殿……このマスクの彼がシャルルさま、先王のオトシダネだと?」

「調査官殿……はい、そうです。彼こそがこの国の王家の末裔。イサク・シャルルなのです!」


――ワアアアアーッ!

――いいぞー!

――イサクさまが! 時期王! 皇太子さまだった!

――まこと! 彼こそ王にふさわしい!

――われらの王の戴冠式をはじめようではないか!


 皆が一斉に騒ぎはじめた。

 イサクが王になることを望んでいるのだ。


「さあ! イサク! 皆の前へ!」

「イサク! ほんとうか? ほんとうに……生きていてくれたのか……!」


 ネイサンが涙を流しながらマスクの男に詰め寄った。

 王城の仲間たちもそうだ。

 イサクの生還を心からよろこんでいる!

 わたしもそうだ! 

 いますぐ飛びついて泣き叫びたい!

 あなたが生きていて本当によかったと。

 長い間、気が付かなくてごめんなさいと。


「マリアン……なぜわかった?」

「王城の肖像画よ。16年ぶりに見た先王の顔は……あなたにそっくりだったわ」

「特殊任務は自分のためでもあった。フランの持っていたとされる十字架に見憶えがあったからだ。君の手紙に描いてあった絵と文章でそれは確信に変わった。川辺で襲われたおれは咄嗟に急流へ飛び込み難を逃れた。だが、顔に傷を負い身体も不自由になってしまった……。森の中でベネディクトの隠れ家を発見し住みついた。マリアンが川で溺れていたところを助け出し王都へ連れ帰り復讐の手助けをした。すまない……こんな姿を君の前に晒すわけにはいかなかったんだ……おれのことは忘れてくれ……」

「イサク、なにをいうの! 民があなたの登場を待っているのよ! 王家を途絶えさせないで! さあ! わたしの剣を受けて!」

「マリアン……」


――カサッ……。


 イサクがこちらに向き直り、ゆっくりとマスクをはずしていく。

 

――オオッ!


 皆のどよめきが聞こえる。

 イサクの顔には、想像以上に大きな傷が残っていた。

 彼がイサクかどうかパッと見ではわからないほどだ。 

 わたしの手が動揺に震える。

 

「このような容姿ではもう、人前には出られない……足も……もう走れないんだよ……。手も思うように動かないんだ……」

「フラン! みんなおまえのせいよ! わたしはあなたを許さない! 生きたまま罪を償いなさい!」

「マリアン、ぼ、ぼくのせいじゃないよ! ぼくを誘ったベネディクト男爵のせいだ! あいつがこんなことを企てなかったら……!」

「そうだ……ベネディクトがマリアンの家を乗っ取ろうとしなかったら、おれが先王のオトシダネだとは誰も気づかなかった。本人のおれでさえな……。フラン! 王を殺したのもおまえだろう! 領地の毒が王の遺体から検出されたぞ!」

「王は……あの男は……ぼくを疑いはじめていた! だから、イサクにぼくを探らせたのだろう……。だからぼくは……」

「なんですと! シャルル大公は王の殺害まで! 皆の者! その罪人をサッサと引ったてい! 島流しにしてくれるわ!」

「わー! やめてくれー! ぼくはなにも……!」


 調査官の命令に衛兵たちがフランを取り囲んだ。

 フランは激しく抵抗しながら衛兵たちに連れていかれた。

 彼にはまだまだ余罪がありそうだ。

 フランのすべての罪が裁かれるとよいのだが。


「イサク……」

「マリアン……」


 わたしはイサクと正面から対峙した。


「あなただと気がつかなくて……本当にごめんなさい。そして許して! あなたとルイーズの仲を疑っていたわたしを……」

「いいんだ……おれもマリアンとフランのことを誤解していた。お互いさまだ。君にはおれと気がつかれないように行動していた……。本当はこのまま姿をくらます予定だった……」

「そんなこと言わないで! 一緒に国を支えていきましょう!」

「マリアン……こんなおれでいいのか? こんな国王で果たして務まるのだろうか?」

「イサク! それは親友のわたしが保証する! やってみろよ! 王さまを!」

「ネイサン……」

「そうですよ。あなたは国王になる義務があるわ。そういう星の元に生まれたのですから!」

「ナタリー! たいへんなことに巻き込んでしまって……」

「いいんですよ! イサクさまとは神の御前のこの大聖堂でお会いしました。これも何かの縁です。あなたはわたしの娘、マリアンヌの夫なのですから!」

「夫……。そうだった……わたしたちは夫婦……」

「そうですぞ、イサク殿! さあ! 皆が待っています! 戴冠式を執り行いましょう!」

「調査官殿……」

「これはあなたの運命です。受け入れるしかない」

「あなたのお蔭でおれたちはここまでこれました……。わかりました。運命を受け入れましょう」

「イサク! うれしいわ! しあわせになりましょう……!」

「マリアン……ああ、今度こそ、君を幸せにするよ!」

「イサク……」


 イサクが片膝を付きわたしにコウベを垂れる。

 わたしは剣をイサクの肩に置き誓いを述べた。

 司祭から王冠が被せられ、調査官がフランから奪った十字架の封蝋をイサクに授けた。

 イサク・シャルルは正式な次代の王となった。


――ワアアアアーッ!

――パチパチパチパチーッ!

――イサク王、ばんざーい!

――バンザーイ! バンザーイ!


 拍手と歓声は鳴り止まず、それは王都の街から遠く地方へそして諸外国へとひろがっていった。

 イサクが新王になった報告と共に。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「マリアン……」

「イサク……」


 わたしたちは大聖堂をこっそり抜け出し、例の公園に来ていた。

 イサクがわたしの手を取りお辞儀をする。


輪舞ロンドを踊ってくれますか? グリーンリボンの王后さま!」

「まあ! よろこんで! イサク王! 16年前より、少しは上達したかしら?」

「あれから孤児院の仲間と特訓してね。君の面影を探していつもこの公園にきていた。おれたちの様子を、ベネディクト伯爵が陰から覗いていたとはな……」

「皮肉な話ね……のちにあなたが伯爵のフリをすることになるだなんて」

「運命とは不思議なめぐり合わせばかりだ。めぐりめぐって輪舞ロンドのように同じ場所にもどる。君とおれも……」

「ねえ、踊りましょうよ! わたしたちのために! 運命の輪舞ロンドを!」

「ああ、踊ろう! マリアン、君を絶対に離さないぞ! 未来永劫まわり続けよう! おれたちの輪舞ロンドを!」

「うれしいわ、イサク……」


 わたしはイサクに思い切り抱きついた!

 イサクもわたしを強く抱きしめる。

 わたしたちはそのままキスをしながらクルクルと回り続けた。

 いつまでも、どこまでも。


 

 こうしてわたしとイサクは16年のときを経て結ばれた。

 子宝にも恵まれて平穏に国を治めた。

 イサクは良き王として国を栄えさせ立派な君主となった。


「マリアン……いまでも神を信じていないのかい?」

「そんなことはなくてよ、イサク! だって! わたしがあなたに大聖堂で恥をかかせなかったら、わたしたちは結婚できなかったわけだから!」

「恥……だと? なんのことだ?」

「忘れたいならご自由に! でも、神さまも周りの人たちもみんな、あなたがすっ転んだところを見てたわよ?」

「こいつー!」

「ウフフフフ、フフ……」

「アハハハ、ハハ! マリアン……踊ろうよ」

「ええ、イサク踊りましょう! わたしたちの輪舞ロンドを!」


 わたしとイサクはまいにち輪舞ロンドを踊りながら、幸せに国を統治した。



(復讐は輪舞ロンドのあとで ~マリアンヌの恋~ おわり)



(あらすじ)

16歳のマリアンヌは幼い頃に王都で知り合ったフランシスと婚約式を迎えていた。だがその直後フランシスは行方不明になる。3年後王都へ向かったマリアンヌは、本当は皇太子だったと判明した記憶喪失のフランシスが、大公の娘婿になったことを知る。王城の侍女となったマリアンヌは騎士イサクと婚約する。イサクの怪しい行動と隠し子騒動。マリアンヌに関連する場所が次々と火事に遭い調査に行った者たちが行方不明になる。迷路殺人、イサクの失踪。捜索に向かったマリアンヌも命を狙われる。窮地を救ったのはフランシスの伯父ベネディクト男爵だった。彼と調査官の導きでレディMを名乗りクーデターを起こすマリアンヌ。戴冠式で黒幕フランシスの悪事を暴きベネディクト男爵のフリをしていたイサクの正体を明らかにする。本当の皇太子、幼い頃マリアンヌと輪舞ロンドを踊った少年はイサクだった。イサクは王となりマリアンヌは王后となり幸せに暮らす。

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