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楽しい楽しい首都観光(二回目)


その次の日。

エルサムの言ったとおり、第四位宮廷魔術師が俺の所にやって来た。

見るからに不健康そうな老人だった。

聞いた話では、第一位の方が年齢は上らしいけどそれより老けて見える。

魔術妨害フィールドのエネルギーを一番間近で何度も浴びたせいだろうか?


俺の研究を手伝ってやる、と協力を申し出ているようだが、ぼやっとしていると俺の成果が横取りされそうな気がした。

もちろん、人体実験か何かに関わらされるのも嫌だ。


この国では奴隷を殺すのは違法ではないが、個人的にそういうのは好みじゃない。


まだ、判断できるだけの情報を得ていないので、適当にはぐらかして、返答は避けた。

昨日部屋の前に来た美人局系と違って、こっちは一応、相手にする価値があるので、強引に追い払うわけにも行かない。


はぐらかすついでに、新しい研究について質問したら、妙にあわてた様子で話を逸らし、急用ができたかのような事を言って、帰ってしまった。

なんだったんだ?

よっぽどヤバい研究でもしているのだろうか?

でも、それだったら俺と手を組む必要はないような……?

よくわからん。



第四位が帰ったら暇になったので、俺は他の魔術師が過去に書いた設計図を机に並べる。

俺がコンペに出した設計図も、これらの組み合わせで出来ていて、調整しだいではどんな植物にも対応できるはずだ。


ただ、普通の植物を育てるとなると、一日にわたって装置を作動させ続ける必要がある。

人間の持つ魔力は無限ではない。

どうやって、装置を作動させ続けるか……。


何か人間以外の物から魔力を得る方法がないか調べてみたが、なかなかいい物が見つからない。

と、カレッタがやってきた。


「あれ? 何しに来たんだ」

「何じゃないでしょう。約束を忘れたの?」


いや、覚えがないな。


「約束ってなんだっけ」

「とぼけないでちょうだい。約束したでしょう? あなたが宮廷魔術師になったら、何かおごってくれるって」

「……ええ?」


だから、そんな話をした覚えは……、

いや、待てよ?


そうだな、あったな。

確かあれは、教授からコンペの事を聞かされた日の事だった。

そして落ちていたミリアを拾った日でもあった。

思えば全てがあの日から始まっていたんだな。


「ずいぶんと昔のように思える……」

「せいぜい三十日ぐらい前の話じゃない。しっかりしなさいよ」

「今はあんまり暇じゃないんだけど、まあいいか……」


時間に余裕はある。

一日ぐらい余計な事をしたからどうなるというほどではない。


「その分、後で俺の仕事を手伝って貰うからな」

「それぐらいならいいわよ」


俺たちは、町の中央区画へと向かう。

並んで歩いていて思ったのだけれど、カレッタの赤いドレスはいつもより飾りが多いような気がした。

あんな髪飾りもこの前はつけていなかったような。


まあ気のせいだろうけど。


大通りの、おしゃれなカフェでココアを飲む。


「宮廷魔術師って、どんな感じなの?」

「別に? 前とそこまで変わった気はしないな」

「そうなの? 宮廷魔術師なのに?」

「新しい魔術の設計図を考えて、それは良ければ褒められるし、悪かったら、まあ……。結局はそういうものだよ」

「それは、確かになる前と変わらないわね」

「ああ。地位は向上したけれど、研究者である事は変わらないからね」


そこのところは、よかった。

俺でもしばらくはやっていけそうだ。


「でも貴族との付き合いが出来るんでしょ?」

「そりゃあ、多少はね」

「かわいい女の子とかも集まってくるんでしょう?」

「多少ちやほやされる程度だよ」

「そう?」


カレッタの方がかわいいよ、というセリフを思いついたが、いくつかの条件を考慮した結果、口には出さなかった。


「カレッタの方はどうなのさ」

「何も変わってないわよ。教授の手伝いばっかり。そろそろ私も自分の研究とかやって見たいんだけど、何を考えても誰かに先にやられてるのよね……」

「そっか……。そういえば、前に知り合いから聞いたんだけどさ」


ミリアがいつか言っていた、髪を整える魔術の話をして見た。


「そういうのって、需要あるのかしら?」

「誰かが欲しがるんじゃないの? 男の俺にはぴんとこないけどさ」

「確かに男性の間では人気なさそうな……あれ? じゃあ、それ誰から聞いた話なの?」

「さ、さあ? 誰でもいいだろ?」

「まあいいけど……」



ココアを飲み終わった後は、二人で通りを歩く。


歩いているうちに、進む先に大きな建物が見えてきた。

何本もの塔が聳え立つ、教会だ。

そういや、ミリアと一緒に観光してた時もここに来たな。


「覚えてる? あの塔、展望台があって上から景色を見られるようになってるのよ」

「ああ、知ってるよ」


答えてから、違和感を覚えた。

今の会話、なんかおかしくなかった?

覚えてる、って何?


俺たちは教会に入り、階段を登って町を見渡す。

景色に大きな変化はない。

この前来たばかりだもんな。


「ここから見る景色も、随分変わったわね」


カレッタは懐かしそうに言う。


「そうかな」

「あの辺りの建物とか、二年ぐらい前にはなかったと思うけど」

「二年前?」


二年前にも来たの?

その時俺もいたの?


「覚えてないの?」

「いや、覚えているよ。二年前だろ? えーと確か、カレッタが入学した年だったっけ? だから……」


あ。


そうだ、思い出した。

確かあの頃。

教授の弟子繋がりのメンバーで、揃ってこの辺りに来た事があったはずだ。


十人ぐらいで出かけたのだけれど、途中で人ごみに巻き込まれて、分断されてしまったのだ。


俺は別にどうでもよかった。

全員でぞろぞろ歩くより、自分のペースで楽しんだ方がいいに決まっていると思って。

けれど、新入生の女子が俺と同じように一人で歩いているのを見て、少し迷った後、声を掛けたのだ。


その新入生がカレッタだった。

強がって一人でも平気そうな顔をしていたけれど、結果から言えば都バスを使った事がなくて自力で帰れるか微妙な状態だったのだ、あの時のカレッタは。


結局、その日は他のメンバーと再度合流する事はできず、カレッタと二人でこの辺りを散策したのだった。


「ああ、そうか。誰かとここに来た事があったような気がすると思ったら、カレッタとだったのか!」


俺が思わず口に出すと、カレッタは怪訝そうになる。


「何それ。忘れてたの?」

「思い出したんだから許してくれ」

「それはまあいいんだけど」


カレッタは妙な笑みを浮かべながら俺の腕を掴む。

妙に、力というか、逃がさないぞという意思がこもっているような気がする。


「……別の誰かともここに来たの?」

「い、いや? 一人で来たよ」


俺は嘘をついた。

ごめんね、カレッタ。

君との思い出、ミリアで上書きしちゃった。


気まずいので、別の話をする事にしよう。


「なあ、カレッタ。第四位の宮廷魔術師が、新しい研究所を作ったって噂、知ってるか?」

「研究所? ああ、それは多分、あの辺りじゃないかしら」


カレッタが町の一角を指差す。

ちょうどさっき、変わったって言ってた辺りだ。


「何の研究をしてるんだろうな……」

「人に言えないような研究じゃない?」

「やっぱりそうなのか」


俺は、もっと別の事を考えていた。

他人に会わせたらマズイ人間を、確実に閉じ込めておきたかったら、独立した建物を用意するのも一つの手だよな、と。


風が寒くなってきたので、展望台を下りる。


「家まで送るよ」


俺が言うと、カレッタは何か考えているようだったが、結局、安堵したようにため息を付く。




カレッタを送ってから、俺は一人、自宅に戻る。


「はぁ……」


上着も脱がずにベッドに倒れこんだ。


いっそ、カレッタをここに連れ込んで、押し倒してしまった方がよかっただろうか、と考えた。

カレッタはどの程度抵抗するだろう?

むしろ逆に積極的になる可能性はあるだろうか?


責任を取らされるかな?

でも、それはそれで悪くない人生のような気がした。


……まるで実行する気になれないという最大の問題点さえなければ、だが。


「別にカレッタが悪いわけじゃないよな……うん」


ミリアと会わなかったら、あれだけの時間を共にしなかったら、こんな気分にはならなかっただろう。


比較とかじゃなくて、

一度そうなったら、変更が困難なものってあるよな、って。



「近所のおねーちゃんが言ってた『女の敵』って、こういう人の事を言うのかな……」


妹よ、何か怖い事を考えていないか……


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