宮廷魔術師コンペディション 後編(後)
《警告》
ストレス展開にご注意ください
さあ、ついに俺の発表の始まりだ。
「私が発表するのは、植物の成長速度に影響を与える要素について、です」
俺は大きな種を掲げる。
「これは、ラウデットプラントと呼ばれる植物です。西側の国境付近にある乾燥地帯に生えていて、雨が降ると即座に芽を出して、三日で花を咲かせて次の種を生み出します」
この種自体は、何の変哲もない、野生の植物だ。
別に俺が生み出したわけではないし、これを分析したわけでもない。
ただ今回の発表に、都合が良かったから採用しただけだ。
発表用の機械も、この植物に合わせて調整されている。
ラウデットプラントの種を機械にセットされた植木鉢に植えて、じょうろで水をかける。
「こうやっておけば、三日後には花が咲きます」
だからなんなんだよ、という空気が会場内に漂っている。
しかし、それは想定通りだ。
カレッタがガラス蓋をしめてから、装置を起動させる。
強い光が植木鉢を照らす。
ガラスは色付きだったけれど、それでもまぶしい光が周囲を照らす。
装置を維持するためにカレッタは近くにいなければならない。
だから遮光メガネをかけた。
この装置を起動させておいてくれるだけでも、カレッタを連れてきて正解だったと言える。
俺はもう一つ、装置の外の植木鉢に、種を置いて水をかける。
これは対照実験。
装置の影響を受けていない以外は、他と変わらない条件で放置する。
「では、ここで私が作った装置の内容について、説明させていただきます」
俺は説明した。
文句を言っておきながらだけど、雰囲気的な意味で最初のウェンヒルの発表に近い。
しゃべる内容はいくらでもあるが、今更言っても意味がない事とか、こんな簡潔にまとめてしまったら伝わらないような事とか、そんな部分も多い。
まるで意味がないなと思いつつも、黙っているわけにはいかないので、俺は解説を続けた。
案の定、観客はすぐに飽きた。
「なあ、クズマ君。もういいんじゃないかね?」
俺の話を遮ったのはアルトムだった。
「理論の説明は、重要だと思いますが?」
「違う、そういう建前の話をしているのではない。君のそれは、ただの時間稼ぎでしゃべってるだけだだろう?」
アルトムは痛い所をついてくる。
「そういう側面があるのも、事実です」
「早く本題に入ってくれ。たぶん会場のみんなが思ってるぞ。それの結果がでるまで、あとどれぐらい待てばいいんだ? とな」
アルトムはきっぱりと言い切る。
会場内の誰一人、その言葉に異論を唱えない。
まさにそれが問題だった。
俺が舞台に持ってきて、今も強烈な光を放っているこの魔術具。
目の前に面白い物、あるいは見かけ倒しのつまらない物、があると言うのに、それから目を逸らして退屈な話を聞き続けるなんて、誰だってイライラするだろう。
「光が強すぎて、中がよくよく見えんが……。その種、普通なら三日で花が咲くと言ったが……君は何日でそれを咲かせるつもりなんだ?」
「光はもうすぐ消えます。一日目の昼が終わりますので」
「なんだと?」
俺がそう言った直後、光が消えた。
俺が命じたわけでもないし、カレッタが自主的に消したわけでもない。
セットしたタイマーが時間を迎えたのだ。
「どうぞ、近くでごらんになってください」
俺が言うと、アルトムは半信半疑と言った様子で近づいてくる。
そしてカレッタに言う。
「これ、開けてもらえるかね?」
「え? クズマ、どうしよう?」
「開けても良いよ。でも一応、装置の方は止めて」
カレッタは、装置を停止させてから、ガラス蓋を持ち上げる。
ラウデットプラントの種からは、芽が出ていた。
芽だけではなく、短い茎が上に伸びて、その周囲には薄くて平らな葉っぱが広がっている。
アルトムはもう一つの植木鉢を見る。
もちろん、まだ芽は出ていない。
いや、少し緑色の物が伸びているような気はするが。
それでも植物っぽさを感じるようになるには、もうしばらく掛かるだろう。
「バカな……」
「本当です」
「こんな事ができるわけがない」
「それができたんですよ。既存の魔術の組み合わせ方を工夫するだけで」
俺がエルサムを説得していると、観客席の方から十人ぐらいの集団がやってくる。
第一位宮廷魔術師と、近衛兵、そして第三王女だ。
第三王女は、装置から少し距離をとって止まる。
というか、近衛兵が止めていた。
足は止めても、やや身を乗り出すようにしながら、聞いてくる。
「ほ、本当にこの短時間で芽が出たのか? 何かのトリックという事はないのか?」
「確認するだけなら簡単ですよ。この装置を接収して、我々の監視下でもう一度動かして見るだけで十分ですから」
第一位宮廷魔術師が答える。
「も、もっと近くで見たいぞ」
第三王女は、いいだろ? と近衛兵を見回す。
近衛の一人が、俺に耳打ちする。
「あの、近寄っても大丈夫ですかね?」
「今は装置を止めていますから問題ありませんよ」
別に、作動中でも有害だとは思ってないけどな、そこは試してみないとわからない部分も多い。
もし遮蔽が破れたとして、一日分の新陳代謝が急速に進んだりするのは、何か困る事が起きるかも知れない。
例えば急にトイレに行きたくなるとか。
ひらめいた!
……いや、冗談だけど。
第三王女は嬉しそうに装置に近づいて、種を指でつついたり、カレッタに説明を求めたりしている。
「発表が中断してしまいましたけど、どうします?」
俺は第一位宮廷魔術師に聞く。
「……別に必要ないだろう? 我々は知るべき事を知ったし、君が長話をしたいのなら、いくらでも別の機会があるだろう」
「そうですね」
「では、発表はこれで終わりと言う事で……」
第一位宮廷魔術師は、そう言った。
発表者席の方を見る。
素直に感心している者。
嫉妬交じりの苦々しい顔でこちらを見ている者。
人それぞれだが、同じ魔術師、この魔術に価値がある事は理解しているようだ。
マックスの姿は……ないな。
どこに行ったんだ? ……どうでもいいか。
それから、俺たちは舞台裏に引き上げた。
宮廷魔術師や第三王女一向は、会議室へと移動して行った。
俺の魔術をもう一度試して見たいと言って、装置は接収された。
まあ、作るのは大変だったけれど、ギリギリの日数制限の中だったからな。
教授がやってくる。
「とりあえず、ご苦労様、だな」
「ありがとうございます。向こうから見ていて、どうでした」
「うむ……正直に言うと、アルトムの言っていることが全面的に正しいと思った」
「やっぱり、あれは冗長でしたか?」
わざとやったとは言え、やりすぎだっただろうか?
「まあそうだな、次からは避けたほうがいいだろう。だが結果的には良い発表になったと思う。間違いなく、一番良かった。身内目線ではなく客観的に見てそう思う」
「ありがとうございます」
これは、勝ったな。
「この後の、予定って、どうなっているんでしょう? 俺は、この場で宮廷魔術師に任命されるんでしょうか?」
「いやいや。さすがにそこまで早くはないだろう。第一位は、とりあえず、今日の発表の感想を述べるに留めるはずだ。しかし、それが宮廷魔術師の内定とほぼ同じ意味を持つと考えてよいだろう」
「おお……」
「こら! 浮かれるんじゃない。家に帰るまでが発表会だぞ」
俺たちは、発表者席に戻って、結論が出るのを待った。
やがて宮廷魔術師たちが戻ってくる。
第三王女は……来ないな。どうしたんだろう?
第一位宮廷魔術師だけは、舞台袖から出てきた。
しかし顔が笑っていない。
何があったんだ?
「えー。本日の研究発表は、実に有意義であったと言えます。私が普段は目を向けていなかった分野でも、新たな才能が芽吹いているという事実を、ひしひしと感じられました」
うん。
「特にアラエント・イフ・サニキスの義足。そしてクズマ・ジ・メケーの植物の成長速度の研究。この二人の発表はとてもすばらしかった。この発表に立ち会えたことだけでも、今日と言う日に大きな価値を見出す事ができます。彼らは、我が国の未来に大きな貢献を果たしてくれるものと考えています」
うん。
「発表者達のさらなる躍進を心から願っています。私からは以上です。ありがとうございました」
あれ? 終わり?
何かおかしくないか?
言うべき事を言い忘れていないか?
観客席は、ざわざわと困惑に包まれている。
これ、質問とかしてもいいのだろうか、と思っていたら、俺より先に誰かが手を上げる。
位の高そうな貴族だ。
「宮廷魔術師は、二人のうち、どちらがふさわしいとお考えですか?」
十人ではなく二人と聞いてしまったのは、早計ではないか?
まあ気持ちはわかるけど。
その質問が出たとたん、第一位は急に申し訳なさそうな表情になった。
しかしそれは一瞬の事で、すぐに怒ったような顔に戻る。
「現時点では、どちらも、ふさわしくないと考えています」
は? こいつ今、なんて言った?
正気か?
「それは誰の考えですか?」
「私を含む、宮廷魔術師の総意であります」
意味がわからん。
俺はエルサムの方を見る。
おいこら、三十五位、おまえも宮廷魔術師だろ? なんか言えよ。
しかしエルサムは、何か後ろめたそうに俺の方を見た後、目を逸らす。
すぐ近くで誰かが立ち上がった。
アラエントだ。
「待ってください。私はこのコンペで宮廷魔術師が決まるものと聞いていました。それは嘘だったのですか?」
「……それは、なんというか、申し訳ない。だが、予定では……そう。予定は変わる事もある」
「そんな……」
アラエントは力を失ってバタリとその場に膝を付いた。
ははは、イケメンめ、
これが人生の全てを掛けた最大のチャンスだと思っていただろう。
それを見事に、棒に振りやがった。
ざまあ見ろだ……。
あれ、おかしいな。
なんか景色がにじんできたぞ。
悲しくなんかないぞ、ちくしょう。
「おにーちゃん? なんで? これってどういう事なの?」




