表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んでこの世に未練は無いけど、元婚約者候補たちが私を地縛霊にしようとしてきます  作者: 天りあま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/7

7. 私が死んだのは

 ――何も無いって言ってたけど、物がゴチャゴチャしてる……。



 少なくとも彼らには、シェリアがどこへ逃げ込んだかは見えていないはず。


 シェリアは大きく深呼吸をすると、部屋の中で更に身を潜められる場所を探すことにした。



 少し歩き回ったところで、机の上においてあった紙に目が留まる。


 

 ――シェリアの……地縛霊化計画?



 その整然とした字はウェルドのものだ。だが、ところどころ走り書きになっていて、彼にしては珍しいなと思う。

 

 勝手に人を地縛霊にするなとか、そもそも地縛霊って何なんだと今更な疑問が浮かぶが、そのまま読み進めることにする。


 

 ――地縛霊とは、特定の場所に紐付き、そこから離れられない幽霊のこと。主にその場所への未練や心残りが強い幽霊がそうなる傾向にある。……って、わざわざ本で調べたことを書き写したのかな。


 真面目な顔でこんなことを考えていたのかと思うと、少し頬が緩む。


 ――えーっと、現状のシェリアの未練……に大きくばってんが描いてある。なになに、生前からの執着が重要……死んだ後から心残りを作るには?


 

 シェリアは最近の自分を振り返る。

 

 死んだ直後はさっさとあの世へ行くべきと思っていた。だが今は、どんな場所かわからないあの世よりも、見知った幼馴染たちとの時間がかけがえのないものになっている。


 

 ――他の人と話せないから……いつの間にか、アンドリューたちだけが心の支えになっていたみたい。

 


 シェリアは再度紙の上に目を滑らせた。どんどん文字が乱れ、読みにくくなっている。


 

 ――地縛霊化が成功すると、家から出られなくなり、触れることも可能になるはず? シェリアが消滅する前に絶対にやり遂げること……って。


 

 今のシェリアはこの家から抜け出せない。さっきはエリオルに腕を掴まれた。


 

 ――私、もしかしてもう……。


 

 嫌な予感に、冷や汗が伝うような心地がした。

 

 

「シェリアー?」


 オスカーの声だ。

 シェリアは咄嗟に左右を見渡して、棚の下へと逃げ込もうとした。


「あ、居た!」


 開いた扉の向こう側に、花開くような笑みを浮かべた彼が居る。

 背筋を震わせたシェリアは足から力が抜けそうになるが、なんとか後ろへと下がる。


「みんなー、ここに居たよー」


 彼は兄たちへ呼びかけているらしく、すぐにアンドリューたちの足音がした。


 

 シェリアは彼らから目を離さないようにしつつ、無我夢中で棚に手を伸ばした。何か身を守るものがほしいと本能が告げていた。

 

 ――あ、何か掴めた!


 皮肉なことに、シェリアは地縛霊化が進んだことにより物に触れられるようになっていた。

 とにかく何か投げ付けてやろうと思い、掴んだものに視線を向ける。


 

 ――以前貰った蜂蜜の小瓶だ。

 

 

 その瞬間、シェリアの脳内を勢い良くこれまでの記憶が駆け巡った。

 

「これ……」

「あ、それは、」


 いつの間にか目の前に居たオスカーから、小瓶をさっと奪い取られる。

 彼はすぐ後ろ手に隠したが、見覚えのある小瓶は見間違いようがなかった。



 

 シェリアは思い出す。

 

 死ぬ前日、おやすみを告げたあと、扉が閉まる直前に聞こえたエリオルの言葉。



『でももう、シェリアは誰か一人を選ばなくて済むんだな』

 

 

「あ、れ……?」



 もう動いていないはずの心臓がバクバクしている錯覚に陥る。

 血流が逆流するような、手足の先が凍えるほど冷えるような、全身が寒気に襲われて鳥肌が止まらない。


 ――そういえば……。

 

 一月ほど前から、アンドリューは何を話しかけても上の空なことが増えた。


 ウェルドは、調べることがあるからと一人で部屋にこもりがちになった。


 イブリオが不在の理由を尋ねても、皆知らないと言うばかりだった。


 オスカーはシェリアに蜂蜜を渡すとき、何度も執拗に「おじさんやおばさんにはあげちゃダメ」だと言った。


 エリオルはあの日――シェリアが死ぬ前日、シェリアがホットミルクに蜂蜜を垂らすのを妙にじっと眺めていた。

 何度も口を開いては、言葉を出さずに閉じることを繰り返していた。



 見て見ぬ振りをしていた。気付かないように、自分で目を覆っていた。

 それを取り払ってみれば、おかしなところはいくつもあった。

 

 

 ――じゃあ、私が死んだのは。


 

 シェリアは顔を上げ、目の前に並んだ彼らに視線を向ける。

 全身が強張るシェリアとは対照的に、イブリオの目元が弧を描く。


「俺ら、シェリアが誰か一人を選ぶことに耐えられなかったんだ」

「もしシェリアが誕生日を迎えるときまで生きていたら、君の選択をそのまま受け入れようって話していたんです」

「遺体を見たときは、やっぱ止めりゃ良かったって後悔してたんだけどよ」

「幽霊になって現れてくれたから、これはそういう運命なんだって思ったんだよね」


 彼らは慈愛に満ちた眼差しで、シェリアをじっと見つめていた。


 

 ――私を、……殺したのは。



 喉の奥が引き絞られて、何も声が出ない。ガタガタと震える二の腕に手を回し、ぎゅっと握る。

 

 アンドリューが、口を開いた。

 



「これでやっと、シェリアは俺たち全員と永遠に一緒に居られるね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まさかの死に戻り・転生なしの死スタート! 恋愛っぽい設定なのに、ジャンルはホラー。 主人公シェリアの切り替えの早さと、両親に対する人間的な部分のバランスがとても良かったです。 そして後半になるにつ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ