5. 時間を持て余します
「あの世からのお迎えはまだかー」
幽霊生活一週間目。
シェリアは自室でふわふわと飛び回っていた。
ベッドに寝転がっても背を押し返す感触を感じられないし、引き出しも開けられないし、ご飯も食べられない。
幽霊となってから、気ままに外を散歩したり友達の後をつけてみたりしたものの、誰も反応しないのでだんだんつまらなくなってきたのだ。
――見える人に構いたくなる気持ちもわかるな……。
シェリアは生前に読んだホラー小説を思い出し、今の自分と重ね合わせて苦笑する。
「あ、そうだ」
もう昼前だし彼らも起きているはずだ。
暇を持て余したシェリアは、ふわりと隣家へ向かった。
「みんなどこに居るんだろう?」
いつもの部屋に入ってみたものの、そこには誰も居なかった。
全員が集まったときと比べると広く感じられて、少し寂しさが募る。
「イブリオは少し前も家を空けていたことがあるから、きっと何かの仕入れで忙しいのかも」
そう呟いてからふと、独り言が増えたなと思う。
生きている頃であれば、他人の目もあるし誰かに話し掛けるでもないことを口に出したりはしなかった。
だが、今は基本的に誰も聞いていない。聞こえない。何を言ってもいい。
そんな油断からなのか、思ったことを口にする頻度が増えていた。
――他の死んじゃった人もそうなのかな? そういえば、私以外の幽霊を見たことないのは、みんなあの世へさっさと行っているからなのかな……。
あの世がどんなところかはわからないが、幽霊向けの暮らしが整っていると良い。
そんなことを考えつつ、シェリアは扉をすり抜けて家の中を見て回ることにした。
「……これで良かったのかな」
「んなこと言ったって……」
近くの部屋から話し声が聞こえてきた。
この部屋か、とシェリアは扉へ手を伸ばし――。
「あ、そうだ、開けられないんだった」
手を下ろし、一歩扉に近付く。
「シェリアにはこのこと……」
「言えるわけないだろう」
――ん? 私? あ、もしかして新しい婚約者が見つかったとか……だとしたら、私に言い辛いのも仕方ないよね。
シェリアは迷ったものの、そのまま聞き耳を立てることにした。
もしシェリアに言い辛いことで彼らの頭を悩ませているのなら、彼らの前から立ち去ろう、と。
――寂しいなあ。でも、彼らの幸せのためだからね。
じわじわと大きくなる心の隙間。
シェリアはそこから目を逸らし、決意を固めようとしていた。
「みんな俺の案に賛成しただろう? もうこれは誰か一人の問題じゃない」
「兄貴の言う通りだ。それより、折角会えるようになったんだからそっちを考えるべきだろ」
「ええ、多少濃くなったとはいえ、まだまだ永久に留まり続けるとまではいかないでしょう」
「早く僕たちだけのものになってほしいね」
――何の話だろう。永久に……? なんだか切実そうだな。
「でもオレ、このまま言わねえのは耐えらんねえよ……」
「ダメです。絶対に、言わせません」
「ならなんであんなのを選んだ? これから三回目を飲むってわかってて、止められねえでいたオレの気持ちが、お前にわかっかよ!」
ガタン、と椅子が倒れたような大きな音が鳴った。
「まあまあ。……止めなかった時点で、エリオルも同罪だよ」
オスカーのヒヤリとした声を聞いて、シェリアが言われたわけでもないのに心臓が縮まる思いがした。
――エリオルは何を秘密にしているの? ウェルドは何を選んだの?
同罪って、何?




