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27 古都への進入とトラップを熱源に変える

 マナの濃霧を抜けた先、眼前に広がっていたのは、深い渓谷の底に広がる、古代文明の遺跡群だった。この異世界の歴史の中で、魔法文明が最も栄えたとされる古都。そこは数千年前に時間が停止したかのような異様な静寂に包まれていた。


 渓谷を吹き抜ける風には通常の魔力とは性質の違う、重く古い魔力の残渣が混ざっている。その魔力は触れる者の精神を乱し、感覚を麻痺させようとする。俺の全属性耐性バフがなければ、ここを歩くだけで魔力酔いを起こしていただろう。


「アキトさん、この空気です。古都の書物に記された文明の最後の瞬間に発動した膨大な魔力炉の残滓が今もなお空間に定着しています」


 リナは周囲の魔力を計測器で絶えずチェックしながら興奮気味に説明する。彼女の表情は危険を冒すことへの恐れよりも未知の領域に足を踏み入れた研究者としての歓喜に満ちていた。


「この魔力残滓、嗅覚で分析すると無機質の魔力と生物が変性した魔力が複雑に絡み合っています。特に石造りの建造物から発せられる魔力には、熱や光のエネルギーが、不安定な状態で固着している匂いがします」


 彼女の言う通り俺の感覚の鋭敏化でも、建物の魔力が常に微細に振動し、不安定な状態にあることがわかる。これは単なる廃墟ではない。当時の技術が今もなお稼働を続けている証拠だ。


 数時間をかけて渓谷を下り、俺たちは古都の入り口に立つ、巨大な石造りの門に辿り着いた。門の表面には複雑な紋様が刻まれている。


「この門の紋様は古代の魔力式セキュリティシステムです。書物には『門を無許可で通過しようとする者に対し、文明の力を以て天罰を下す』とあります」


 リナが古文書と紋様を照らし合わせる。


「天罰ね。物騒な趣味だ」


 門は固く閉ざされている。正規の解除方法を知らない俺たちが取るべき手段は、力尽くでの突破かシステムの欺瞞か二択しかない。


「力ずくは最悪の選択肢だ。古代のセキュリティシステムは侵入者の魔力レベルに合わせて防御機構の規模を拡大する。俺の【究極の調理】の魔力を感知すれば全体が起動するかもしれない」


 リナが古文書の隅を指差した。


「アキトさん、ここにヒントが! 門番の怒りを鎮めるには魔力とは異なる、より本質的なエネルギーを捧げよとあります。この紋様の魔力回路の流れを分析すると……門の上部に瞬間的にエネルギーを放出するトラップが仕掛けられています」


 俺は門の上部を見た。紋様が最も複雑に集約している箇所がある。


「なるほど、落盤トラップではないな。この魔力の流れは外部の侵入魔力を感知した瞬間に、紋様全体にエネルギーを送り込み、重力操作魔法を発動させ、門の上に積み上げられた巨大な岩盤を落下させる仕組みだ」


 しかもその魔力回路は非常に高度だ。単純に魔力を遮断しようとすれば、システムは破壊行為と認識し、即座に岩盤を落とすだろう。


「トラップを解除するには、トラップの起動に必要なエネルギーだけを、完全に吸収または変換する必要がある。しかもシステムに無害な行為と認識させながらだ」


 古代の文明は俺の料理人としての創造力に挑戦してきている。トラップを破壊するのではなく利用する。それが答えだ。



 俺はリュックから用意した『ポーク&ビーンズレーション』のブロックを取り出した。そしてリナに指示する。


「このレーションのブロックを魔力紋様のすぐそばに設置してくれ。俺の合図で魔力を込めながら、そのブロックの表面に小さな熱源を発生させる」


「わ、わかりました! ブロックを熱源に?」


 リナが緊張しながらレーションを設置する。俺は門の紋様とレーションブロックの間の魔力回路の流れを精密操作で正確に把握した。


【究極の調理】:応用。エネルギーの強制変換エナジー・コンバージョン


 俺は門の紋様に流れている重力操作魔法のための魔力を極めて微細なレベルで操作した。その魔力回路の出口を、本来の重力操作システムではなく、隣接するレーションブロックの熱へと強制的に変換する。


「今だ! 熱源を発生させろ!」


 リナがレーションブロックの表面に魔力を込めた瞬間、門のセキュリティシステムが作動した。巨大な魔力が紋様全体を流れ始めたが、そのエネルギーは重力操作ではなく、すべてレーションブロックの熱源へと流れ込んだ。


 ブシュッ!


 レーションブロックは門の紋様のエネルギーを一気に吸収し、凄まじい勢いで熱を放出し、中で煮込まれたポーク&ビーンズが蒸気とともに香り高く復活した。


 門の上部の岩盤は微動だにしなかった。魔力システムはエネルギーを放出したことで満足し、侵入者ではなく、ただの料理人がエネルギーを使っただけだと認識したのだ。


 トラップは究極の熱源として利用され完全に沈黙した。


 トラップ解除後、門の巨大な扉が重い音を立てて内側へと開いた。


 リナは出来上がった熱々のレーションブロックを見つめ驚きと興奮で声も出なかった。


「アキトさん……あなたは……古代文明のトラップの魔力を昼食の熱源に変えたのですね」


「トラップを破壊するのではなく、そのエネルギーを美味しく頂く。それが俺の生存術だ。さあ、リナ。温かいうちに最高のポーク&ビーンズレーションを食べよう」


 俺は古都の門をくぐり、最初に広がっていた広大なホールへと足を踏み入れた。


 ホールの中央には巨大な石碑が立っている。その石碑には古代文字とともに巨大な調理器具のようなものが描かれていた。


「アキトさん! 見てください! これは書物に記されていた古代の魔力を利用した究極の調理炉マナ・クッカーです! 私たちが探している鍵はやはりこの文明の『食』にある!」


 リナが叫んだ。

 俺は古代の調理炉が描かれた石碑を見つめ静かに頷いた。俺の異世界スローライフの究極の探求が、今ここ古都で本格的に始まる。

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