★第10話ー7
ドラゴンを相棒とする近衛の所まで、ルデラさん自らが案内すると言うので地下室から外に出た。ルデラさんの後ろを歩きながら気になった事を聞く事にした。
「ルデラさんは、このあとも地下室にいるの?」
「そのつもりだ。広すぎる城内より安全だからな。ルナディラだけは、なんとしても守らねばならんからな」
なるほど。こことは違うけど、確かにサリアたちも城に忍びこめたくらいだから、警備の手薄な所を狙われたら侵入出来てしまいそうだ。
その点、出入り口も少なく窓もない地下室は守りを固めるには良いのかもしれない。接する人間も少ないはずだからさ。最善策と分かっていても、周りの怪しい動きが無くなるまで地下室にいないといけないのはさみしい。
「そっか……」
「そんな悲しそうな顔をしなくとも良い。あの地下室は案外快適なんだ。あまり動かなくとも全ての物に手が届く。かなり便利だ」
「そう……なんだ。うん。近くに必要な物があるのって確か便利だよね」
「そう言う事だ。だから気にするな」
そう言えば、日本で生きていた時は、ベッド周りにスマホや本、休日なんかはポットとカップ麺まで、手が届く所に置いて過ごしていたから便利で楽なのは凄く分かってしまう。城の広すぎる個室は何をするにも、わざわざ立ち上がらないといけないからさ。
でもやっぱり住み慣れた場所が良いはずだから、早く謎の商人騒動が解決するといいな。
暫く歩くと、木造の二階建てくらいの大きさの小屋が見えてきた。
「この小屋の中で待ち合わせをしている。フィン入るぞ!」
「はい! どうぞお入りください」
ルデラさんの後に続き小屋の中に入る。
「お客人、お待ちしておりました。私は近衛のフィンと申します」
「アレティーシアです」
「リュカデリクだ」
「にゃ!」
お辞儀をして出迎えてくれたのは、なんとカンガルーの獣人だ。初めて見た。なんか筋肉モリモリでかっこいい。ボクシングとかやってそうなイメージだ。その背後にはグレーの艶やかな鱗が美しいドラゴンがいる。
「フィン、この者たちを港町ムルまで送ってくれ」
「了解しました! それではアレティーシア様、リュカデリク様方お乗りください」
ドラゴンには、人数分の鞍がついていて昇り降りする為の縄梯子まである。僕が自分の力で、ドラゴンの背に乗る事も出来る素敵仕様だ。鞍に無事に座り、天音も定位置の胸元から顔を出している。リュカは僕の後ろに座った。
「それでは行きますよ! しっかり掴まってくださいね!」
「うん!」
「分かった」
「にゃ!」
僕の前に座るフィンさんの言葉に従い、鞍の前にあるハンドルのような出っぱりに掴まる。
「ルデラさん! またね!」
「あぁ! また会おう! そして必ず約束は守る!」
ルデラさんと、手を振って別れる。
ドラゴンが小屋から、のしのしと出てコウモリに似た翼を広げ羽ばたかせると、フワリッと浮き上がって港町ムルに向かって飛び立った。
「もう少し王都見物したかったなぁ……」
やるべき事があるから、観光どころでは無いと分かっていても、全く見て回れなくて残念に思ってしまう。遠ざかって行く緑の王都と、ウルの大樹を見下ろしながら、つぶやくとリュカが頭をクシャリと撫で耳元で囁く。
「全てが終わった時にまた来たらいい」
「うん!」
上空から見ると本当に森が隅々まで広がって、赤の大陸と言うよりも『緑の大陸』って感じがする。
「もう到着するので、しっかり掴まってくださいね!」
「うん!」
「あぁ」
「にゃ!」
緩く旋回しながら、港町ムルの入り口にドラゴンは降り立った。
「青の大陸への旅路、お気おつけて行ってください。それでは私は仕事があるので、この辺で失礼します」
「ありがと! フィンさんも気をつけてね」
「送って頂き助かった。ありがとう」
「にゃにゃん!」
フィンさんは、お辞儀をしてからドラゴンに飛び乗り王都へと戻って行った。
「まず港に向かおう」
「うん!」
港の桟橋に着くと、殆どが黒の大陸行きの船でなかなか青の大陸行きは見つからない。と言うのも、エルフたちは人嫌いで閉鎖的なので商売もしにくいし、青の大陸は登ることも出来ない尖った山々しか無い上に、年中雪が降っているから観光に行く人々も少ないのだそうだ。
「もしかして青の大陸行きの船って無いのかな?」
「分からん。もう少し聞いて回ろう」
「うん」
露店を冷やかしながら、道ゆく人々に聞いて回る。
「お前さんたちか? 青の大陸行きの船を探してるってのは!」
後ろから大きな声で話かけられ振り返ると、そこにはゴリラの獣人が口元に笑みを浮かべ立っていた。足元には相棒だろう5本尻尾のある猫がいる。
「うん! どうしても行かないとなんだけど見つからないんだよ〜」
「ならオデの船に乗ってけ!」
「良いの?」
「おぅ! いいぜ! ただし部屋は無いから、倉庫で寝てもらう事になるけど、それで良けりゃだがな!」
「それでかまわない。よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
「にゃ!」
「んじゃ! 行くか! あの船だ」
ゴリラの獣人の指差した方を見ると、雰囲気抜群すぎる幽霊船が停泊していた。
ボロボロすぎない? 大丈夫なの? コレ……。
「安心しろ! こいつは、こう見えて頑丈で強くて早い。物も沢山運べる優れものだ」
僕たちの不安感が伝わったのか、大きな身振り手振りで説明をしてくれた。
不安しか無いけど、コレを逃すと青の大陸行きは無い気がする。
「お願いします」
「おぅ! 任せとけ!!」
こうしてオンボロ幽霊船に乗って出発した。
海に出ると、想像したよりかなり快適だった。揺れも少なく、倉庫だと言う割に整理整頓もしてあるし掃除も行き届いている。なので木箱の上に布を敷けばベッドになった。
夜ごはんを食べてから、甲板で黒くうねる海を眺める。
凄く静かだ。
暫くぼんやりしていたら、リュカも甲板にやって来た。
「タキお前最近明るくなったな」
「そうかな? でもなんていうかさ。サリアたちが死んでまで道具として利用されてる、あんな姿を見たら色々と吹っ切れたんだよね」
「そうか」
「うん。たしかに最初は怖かったし恨んだり憎いと思ったりもしたんだ……」
「そうだろうな」
色々考えたし悩んだ。
最初は回りに、悩みを相談したり他愛ない話が出来る知り合いもいなくて、不意に孤独感と不安を感じる事もあった。
「でもさ! せっかく新しい命を”アレティーシア”から貰ったんだよ? だったら今を大切にして楽しく生きていきたいと思ったんだ!」
そこまで言うとリュカは床に膝をつき、僕を優しい力でギュッと抱きしめた。
「いつもリュカが傍にいるから安心できるし嬉しいんだ!」
リュカの肩に頭を乗せて、腕を精一杯伸ばし抱きついた。
それに優しい家族もいるし、かけがえのない友達もできた。
だから、もう今はさみしくない。
この世界で”アレティーシアの魂”と共に生きて行こうと覚悟が決まった。




