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★第10話ー6



 魔獣契約研究所を出て早速、馬車乗り場を目指す。


 振り返ると、絶壁の向こう側にウルの巨木が見える。


 ずっと一緒に過ごしてきた、天音と契約出来て本当に嬉しかった。


「天音ありがとうね」


 胸元で、うとうと眠りかけてる天音に、小さな声で感謝を伝えると、僕に頭をスリスリとこすりつけて「うにゃ!」と答えてくれた。愛おしさが増して優しくギュッと抱きしめる。


 


 駅に着くと、商人風の熊の獣人と相棒の犬、その他に猫の獣人の女性2人組と相棒の小鳥と猿が並んでいた。


チリーン! チリーン! チリーン!


「王都ベナリス行き! 出発するよ! 乗る人は急いでぇ!」


 今日も鳥の獣人が、屋根に登って出発の声を上げている。並んでいた3人の獣人とその相棒たちと共に馬車に乗り込む。


 僕は窓際に座り天音は膝の上だ。商人風の熊の獣人は僕の隣に座り黙々と何やら羊皮紙に書いてる。向かい側にリュカが座り、その隣では猫の獣人のお姉さんたちが楽しげに話に夢中だ。


 窓からは気持ちのいい風が入り、緑いっぱいの風景が流れていく。


「王都ベナリスに着くよ! 降りる準備してなぁ!」


 1時間ほどで着いてしまった。ウルの街から、もの凄く近かったみたいだ。




 馬車を降りて辺りを見回すと、ウルの街と同じように王都ベナリスも、森に囲まれた場所に存在していた。


「リュカ、妙な噂がある割に普通に活気があると思うんだけど?」

「オレもそれは気になった。とても王が倒れたとは思えない雰囲気だからな」


 行き交う人々は王都と言うだけあって多いし、中央の広場まで歩いて行くと大きな木の周りに露店が並び店員の元気な声と、その周りに集まった客たちの賑やかな声が聞こえる。


「とりあえず王城に行って確かめるしかないだろう」

「うん! そうだね」


 キョロキョロ見ながら、中心部にある城を目指して歩く。路地は子供たちの遊び場になっているし、掃除も行き届き治安もとても良い街に思える。


 城門に着くと、武装した衛兵が左右に3人ずつ並んで守っている。

 

「こんにちは!」


 挨拶をしてクルガさんに貰った通行書を見せると、衛兵たちが顔色を変えて敬礼をした。


「クルガ様のお客人でしたか。ご案内致しますので、どうぞこちらへ」


 6人の中の1人、肩にネズミを乗せた黒い狼の獣人が僕たちの案内役をかってでた。


 彼の後をついて行くと、蔦植物が絡む緑が美しい城が見えて来た。けれど正面を通り越しグルリと城を回り込んで、城の裏手を目指している気がする。


「この奥にお進みください」


 衛兵が90度のお辞儀をして、金属製の扉を開けた。たぶんここは城の裏口にあたる場所だろう。


「行こう」

「うん」


 内部に入ると、石を積み重ね出来た通路になっていて一定間隔に蝋燭が灯されて仄明るい。長い廊下を突き当たりまで進んだ所で、木製のドアがひとつ現れた。


コンコンコン!


「入りたまえ」


 ノックをすると返事が返ってきた。ドアノブに手をかけ回し、ゆっくりドアを開いた。


 部屋の中は、まるで地下室のような石造りだけど魔法石で室内は明るく照らされ、床には毛足の長い赤い絨毯が敷かれベッドもテーブルセットもあり居心地は悪くなさそうだ。


 ベッド脇にある1人がけソファに、クルガさんそっくりなライオン紳士が足を組んで座っている。


「遠い所からよく来たな。歓迎する。ワシはベナリスの前王ルデラだ」

「アレティーシアです」


 名前を隠してもバレバレなので、そのままの名前を名乗る。


「リュカデリクと申します」

「にゃん!」

「ククク。知っておるよ。弟から手紙が届いたのでね。気楽にしてくれ」


 あれ? 意外と健康そう。と言うより元気そのものだよね? 顔色も良いし。


「ククク。不思議そうな顔だな。確かにワシは元気だよ。あのような噂を流さねばならん理由はあるのだがね」

「こんな地下室に隠れてる事にも関係あるの?」

「そう言う事だ。国と大陸を守る為、弟クルガにも噂を流して貰っておるのだ」


 何か問題がある事は本当みたいだ。


「事情を聞いても?」  

「あぁ。もちろんだ。真実を伝える為この部屋で会う事にしたのだからな」

「出来るだけ詳しく教えて欲しい」

「分かった」


 もしかしたらティルティポーが絡んでるかもしれないのだ。一言も聞き逃さないようにしないとね。


「王族は気軽に街に買い物には行けない。だから定期的に食料や生活に必要なものを売りに訪れる商人がいる。が半年前に、いつもと違う商人がやって来た。ここに出入りする者たちは皆、王公認手形を持っているはずだが、その商人は持っていなかった。話を聞くと、今まで来ていたのは父親だったのだが事故で亡くなって自分が来ることになったと言っておった。念の為に衛兵が持ち物を改めたが、売り物には不審な品物が無かった。だから信じた」


 確かに父が事故で、その息子だって言われたら、この世界じゃ信じるしかないよね。証明出来るものは無さそうだし。


「ところが2ヶ月が過ぎ、お互いが慣れてきた頃から、異国のお茶だと言ってはワシに赤い飲み物を飲ませるようになった。味は悪くは無かったのだが……。次第に体調が悪くなったので商人にお茶はいらぬ! と言って断った。が今度は城の料理人に栄養があるからと言って、お茶を料理に混ぜて出すように言ったそうだ」

「それ、凄く怪しい気がするんだけど……」

「そうなのだ。だから近衞に命じて、商人を探らせたんだが、1度目は事故に見せかけて消された」

「!?」


 リュカの嫌な予感が当たっている気がする。


「だから2度目は隠密に長けた者に探らせた。すると他国と繋がっている事までは分かったが、大元にまでは辿りつけなかったのだ。裏で探っている間も商人は城に来て、今度はワシの妻ナディに、近づくと怪しげな首飾りを売りつけた。その首飾りを身につけてから性格が激変してしまった」


 ルデラは、頭を抱えて疲れた様な溜息を漏らした。

 

「それまではワシの至らぬ所を補う良き妻であったのだがな……。子の面倒も見なくなってしまった」


 なるほどそれで、贅沢三昧の爆買い奥さんになってしまったんだなぁ……。このままだと国が傾くよね。間違いなく首飾りがヤバイ品物だと思う。


「それで赤ん坊はどうなったの?」

「万が一の事を考えて、我が子ルナディラはワシの部屋の隣で乳母とおる」


 ルデラの指差す方を見ると、奥に向かうドアがあるのがわかった。


「もう一つ聞いていいか?」

「かまわん。なんでも聞いてくれ」

「赤ん坊に王の儀式を受けさせたと言うのは本当か?」

「本当だ。我が子ルナディラも、アレティーシア様と同じく魔力が莫大だったのでな。あの子が生きていく為に継承の儀をおこなったのだ」

「なるほど。ルナディラ様の事は心配無さそうだな。となると、やっぱり問題は商人だな。まず商人を王家から引き離さないと駄目だろうな」

「あと奥さんの首飾りも外させた方がいいよ!」


 なんだかヤバイ気がするんだよね。今は爆買いだけですんでるけど、もしもリュカの言うようにティルティポーが裏で何か企んでいるなら危険すぎる。


「そうだな。ルデラ様、奥様が首飾りを外す時は無いですか?」


 リュカが聞くと、ルデラさんは「うぅ〜ん?」と考え込んでから立ち上がる。


「ナディの侍女ならば、どうにか出来るかもしれませんな」

「出来るかぎり早く対処した方が良いと思います」

「分かった。乳母に伝えてくるので暫く待っていてくれ」


 そう言ってルデラさんは、奥の部屋へ向かっていった。


「今度は犠牲者が出ないと良いね」

「あぁ」


 天音とネズミのおもちゃで遊んで待つ事にした。



 結局1時間くらいしてから、ようやくルデラさんが戻って来た。


「ナディは湯浴みの時は必ず首飾りを外すそうだ」

「なら同じデザインの首飾りを作って、すり替えるとかどうかな?ナディさんにも商人にも気がつかれないように」

「それは良い考えだな。細工職人に作らせよう」

「うん!」


 これが上手くいけば、赤の大陸は大丈夫かもしれない。


「ところで、貴女方が遠方から赤の大陸に来た理由を聞いてもいいですかな?」

「うん! 分かった」


 ティルティポーに関しての、これまでの事と、これから起こそうとしているティルティポーのラウルとシャイナの捕縛と、ミュルアークの王アラディス救出に関しての全てをリュカが話した。そして次は青の大陸に向かい協力を仰ぐ事も伝えた。


「大陸が死んでいく……か……。事は深刻と言う訳だな。うむ。分かった。時が来たら我々、赤の大陸も手を貸すと約束しよう」

「ありがとうございます」

「ありがと! ならこの鴉をルデラさんにも渡しておくね」


 もう今は指に光を灯し呼び出したいものを、頭の中で思い描くだけで呼び出せるようになったのが嬉しい。


「ガァ!」


 飛び出した鴉は僕の腕に止まる。


「何かあったら、この鴉に手紙を持たせれば連絡出来るよ」

「ほぅ! これは素晴らしいな」


 鴉が僕の腕から、ルデラさんの腕に飛び移ると嬉しそうに、ニッと笑み鴉を撫でた。


「それで先程、聞いた感じだと次は青の大陸に渡るとか言っておったが?」

「うん!」

「あぁ。今からでも行くつもりだ」

 

 大陸が死んでしまわないように、ティルティポーより先回りしなくてはならない。


「なら気をつけて行け。青の大陸はエルフと精霊の住まう地。よそ者には冷たく厳しいと聞く」

「うん。気をつけるね!」

「分かった。ありがとう」

「ワシらこそ助かった。礼と言ってはなんだが、ドラゴンと魔獣契約を交わした近衞に港町ムルまで送らせよう」

「ありがと!」

「助かります」


 

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