★第8話ー2
オンボロ宿は、風に晒されガタガタと夜中もうるさいし砂漠と言う事もあって冷えるしで、なかなか寝付けなかったけど、暖かい天音を抱きしめている内にぐっすり眠れた。
朝、起きて昨日と同じ黒パンを具の無いスープに浸けながら食べて宿を後にした。宿を出ると、今日もまた天音は、僕の服の中にスルリと避難してしまった。やっぱり砂が舞い上がっているのは苦手なようだ。
ガルダの渓谷に向かう前に、3軒だけの露店を訪れた。その中の一つ、色とりどりの布を広げて売っている店に立ち寄る。店主は、茶色い砂避けの布で全身を覆っているので目しか見えない。
「オヤジ。この黒い日除け布と……タキはどれがいい?」
今から砂嵐の中、歩くので日差しと砂から身体を守る布を買うようだ。リュカはシンプルな黒い布を選んでいる。僕は、鮮やかなオレンジ色に赤い波の模様が美しい布が妙に気になった。
「この布がいいかなぁ……」
「お目が高いね。これは先日、綺麗な兄ちゃんから、買い取ったもんだよ」
「え? 先日? それってもしかして黒髪で青い目の人じゃなかった?」
「知り合いか? よく見ると、お前さんに、よう似とるな」
「僕の探してる兄さんなんだ」
「そうか。そうか。じゃ会えるといいな」
「うん!」
「オヤジいくらになる?」
「黒い方は銅貨50枚、オレンジのは銀貨5枚だ」
リュカが支払うと、オヤジがニッと笑い僕の手を取り、小さな短刀を渡してきた。
「これはオマケだ」
「こんな凄そうなの貰えないよ」
渡された短刀は、柄の部分は金で出来て角が立派なシカが彫り込まれ、目の部分には鈍く輝く赤い宝石まで嵌め込まれ、鞘にも様々な草食動物が描かれている美しいものだ。
「兄ちゃんから、買い取ったものだが、こんな大層なもん、辺境の地で売れる訳がねぇから、持っていくといい」
「これも兄さんのなんだ! 嬉しいありがと!」
「あぁ。気をつけて行けよ」
「うん!」
早速、頭から被る様にして布を自分に巻き付ける。元が兄さんの持ち物だから裾が長くて、しっかりと日差しと砂から守ってくれる。
「これはフィラシャーリ王家の短刀だな」
僕が受け取った短刀を、リュカが鞘から抜いて刃の部分に光に当ててみたり観察している。
「そうなの?」
「あぁ。この刃の部分に紋章が入っている」
刃の根元と言うのかな? そこに角の大きな2頭のシカが、重なり合う様なイラストが描かれている。
「なんで、こんな大切なもの手放しだんだろう?」
「本人に聞いてみたらいい」
「うん! そうする」
兄さんの所まで、もう少しな気がする。会って色々聞きたいと思う。
すぐ隣にある露店で、必要不可欠な干し肉と水を買い込むと、町とは名ばかりのクレナを出発した。
歩き出すと黄の大陸が、死んでいっているのがよく分かる。たまに見かける草木も茶色く今にも枯れそうだし、昔は大きな川か湖だった地面はヒビ割れ生き物の気配すら無い。当然、人がいる気配もない。けれど気になる事がある。
「リュカ、この跡ってなんだろ?」
しゃがみ込んで線状に凹んだ部分を触る。
「馬車のものではないな。かなり重量のあるモノを運んだようだ」
車のタイヤ程の太さの2本の線が、町の中からと言うか、港から町の外まで続いて、更に僕たちが今から向かおうとする方角に長く伸びているのだ。
「何だか嫌な予感がするんだけど……」
「あぁ。出来るだけ早くヴァレリーたちと合流した方が良いだろうな」
「うん」




