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★第8話ー1、悲しみは戦いを連れてくる。そして再会の日。

 黄の大陸の玄関口、港町クレナに着く頃には、日が落ちて辺りは薄暗くなっていた。船着き場から町に入ると、宿が一軒と、一つだけある井戸の回りに露店が3軒と、布製のテントをはって焚き火を囲む冒険者の一団がいるだけの何ともさみしいものだ。町の中も周囲も砂漠地帯らしく、砂埃が舞い上がり草花も少ないから、荒廃した雰囲気が漂っている。天音は砂埃が苦手なのか、ボクの胸元から服の中にスルリと入ってしまった。ふわふわの毛が肌に触れ、ちょっとくすぐったい。


「本当に此処に兄さんたちがいるのかな」

「とりあえず宿に行ってみよう」

「うん」


 宿と言っても、民家を増築して客室を増やしただけと分かる、ツギハギだらけの今にも崩れ落ちそうな木造平屋だ。

 オンボロだろうが平屋建だ。階段が無いのは今の僕は嬉しい。入口のドアも、普通の民家そのもので飾り気も無い。


ギギギッ!


 油の切れた蝶番の苦しそうな音を響かせドアを開く。玄関を入ると受付は無く、椅子に腰掛け、テーブルの上にある酒をグラスに注ぐ事なく飲んでいる老婆が、僕たちが入って来たのに気がつきニヤッと笑う。


「ようこそ。名もなき宿へ」

「部屋は空いてるか?」

「2番だよ。1人銅貨2枚だ」

「ではコレで頼む。情報が欲しい」


 金貨2枚を渡し、更にギィ婆の手形を見せる。すると老婆は「ヒッヒッヒッ」と引き攣ったように笑い、姿勢を正し鋭い目つきで僕たちをみる。


「何が知りたい」

「フィラシャーリのヴァレリーが何処に向かったか分かるか?」

「もちろん知っておる。昨夜まで此処におった。そしてガルダの渓谷に向かって行ったわ」

「ガルダの渓谷?」

「そんなに昔では無い昔に魔王城があった場所だ。昔は深い森に囲まれた自然豊かな土地と、芸術的な美しさの城は観光地にもなっておったし、城下町も栄えて賑やかな国だった。ガルダ王は魔王などと言われておったが、それはそれは良い王様だったそうだ」

「今は違うの?」


 僕が思わず疑問を投げると、悲しげな表情で溜息を吐く。


「今は黄の大陸には王が不在だからの。この町と同じで、ただの荒地だ。白の大陸が……今で言うティルティポーが、ありもしない罪を魔王に着せ正義の名の下に悪に鉄槌をと言って殺し、ガルダの渓谷に住み着いてから、瞬く間に土地が痩せていき、今では水も森もなくなって、残っていた人も魔族も散り散りになっていった。しかも奴ら奴隷を定期的に連れてきて一体何をしておるのか……」


 もしかしたら、このお婆さんは当時その場に居たのかもしれない。そしてリュカも同じように感じたみたいだ。


「その話、ヴァレリーにも話した?」

「あぁ。だがツレの方が必死だった気がする」

「ツレってハルルって名前?」

「確か、そんな名前だったな」

「お前たちもガルダの渓谷に行くのか?」

「うん! 明日には向かいたいって思ってるよ」

「では気をつけて行け! 数日前、この港にティルティポーの奴らがゾロゾロ入りこんで、いつもと違う奴隷を連れておった。アレは禍々しい悍ましさが漂っておった。あと晩飯は黒パンとスープしか無いが勝手に持って行け」

「分かったよ。ありがと!」

「ありがとう婆さん」


 聞き出せるだけの情報を貰い、リュカにパンとスープを持って貰い、今日の寝床に向かう。平家建ては素晴らしい。自分で歩いて行ける。ちなみに古い建物なので、僕が歩くだけも板張りのミシミシ床が鳴るし、リュカが歩くとギッシギシと床が悲鳴をあげる。客室のドアなんか、2つある蝶番が一つ壊れてガタガタで、いつ壊れてもおかしくない。嵌め込まれた窓も砂埃が入らないだけマシくらいに、考えた方が良さそうなオンボロだ。当然カーテンも絨毯も無い。ベッドが2つと、小さなテーブルが1つだけの部屋だ。


「リュカ。ちょっと気になったんだけど聞いて良いかな?」

「なんだ?」

「王が不在だと荒地になるみたいな事を言ってたけど、どう言う意味なの?」

「あまり国民に知られてはいないが、王と大陸は契約で繋がっているんだ。王に即位すると同時に儀式が行われる。王が元気であれば大陸も住む人々も健やかでいられる。だが王が病に倒れれば大陸にも病が広がるし、王が寿命を全うしないまま亡くなれば大陸も死ぬ」

「王と大陸は思ったより深い繋がりなんだ。あ! もしかして大陸が生きてるって、そう言う意味だったの!」

「あぁ。そうだ。だが今回は100年程の異常な速さで荒廃してる。何かが起きてると考えていいだろう」


 テーブルに、パンとスープを置いて、ベッドに座って喋りながら食べる。固い黒パンを、殆ど具の入って無いスープに浸しながら食べた。天音も、僕の服の中から飛び出してスープをピチャピチャと飲み始めた。


「リデアーナ様からの手紙と、宿の婆さんの話を合わせると間違いなく、あの2人も黄の大陸に来てると思うが……」

「リュカが居るから大丈夫だよ」

「分かった。では明日の早朝出発しよう」

「うん!」

 


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