23話 夜波ほたる
夜の街路は、思っている以上に別世界だった。
同じ道でも、よく通っているはずの場所でさえも。照らす光が豊かな陽光から街灯の光と月明かりに変わっただけで、見えるものも色も空気も、全てが様変わりする。
普段過ごしている場所とは、全くの別世界。普段は外出できない時間帯に出ているという不思議な感覚も手伝って、その雰囲気にはどこか冒険心をくすぐられた。
そんな中、燎とほたるは一夜限りのデートに向かう。
自転車は一つ、二人乗り。互いの体温を感じながらの二人旅だ。
とにかく夜明けに向かって、自転車で行けなくなるところまで真っ直ぐ。まぁそれでも行き先を間違えれば普通に危険というか絶対一晩では終わらないので、向かう先を考慮に入れてちょうど良さそうな方向だけは決めさせてもらったが。
ただ、それ以外のことは何も決めず。方向を決めた後は敢えて『まっすぐ進む』以外のことを考えずに、景色を見ながらペダルを漕ぐ。
「……」
春の深夜。季節特有の陽気と夜の澄んだ冷気が丁度良い塩梅に合わさっており、過ごしやすく快適な風を切りながらひた走る。
時折冷えた夜風が吹き込んできて身を震わせるが、それと同時に後ろのほたるが『さむい』と言いたげにきゅっと身を寄せてきて。その温度感で暖まりつつ、そのいじらしい距離感に何ともむずむずしたものを感じたりもしつつ。
まずは二人とも無言で、ただ自転車の進むまま夜の旅に身を任せる。
不思議な旅路だった。
とても単純な道程。ペダルを踏むだけで前に進んで、目的もはっきりしていて、向かう先も一本道。
人生もこうだったらいいのにと、今は割と本気で思うくらいにはシンプルで。
普段自分達を眩いほどに照らしている太陽は文字通り影を潜め、優しい月光と晴夜の静かな暗闇だけが彼らを包み込んでいる。
周囲にいつも見かけるような人影は一切なく、まるで世界に二人だけでいるよう。
とても、とても穏やかで、緩やかで。このまま別世界に迷い込んでも全く不思議でないような、何もかもが赦されるような、夜闇が全てを覆い隠してくれるような。
――このままずっと旅をして、どこにだって行けるような。
そんなことを考えられるくらいの、何も怖くない時間だった。
でも、残念ながらそういうわけにもいかない。
この旅は一夜限り、自分達が生きているのはどうしようもない現実で。何もかもをかなぐり捨てて逃げるには残したものがありすぎて、身の回りにはあまりにも多くのものが絡みつきすぎている。
だから、だからこそ。
「……えっと」
旅を楽しんでいるばかりではいられない。
全てを星空が受け入れてくれる、この特別な時間に。がんじがらめになった彼女が、ちゃんと荷物を下ろすために。絡まったものを解きほぐして夜闇に溶かして、身軽になって、その奥底に残ったものとちゃんと向き合うために。
きちんと、自分の中に抱えたものを。どれだけ怖くても辛くても、ちゃんと吐き出さなければいけない。そのための、ほたるが提案したこの『デート』なのだから。
当然彼女もそれはよく分かっていた。だから今まで特別な時間に身を任せて、心の準備を済ませるためのこれまでの沈黙だったと燎も理解している。
今、それが終わって。話す用意が終了したと、沈黙を破る声色で分かった。
「じゃあ、かがり君。……聞いてもらっても、いいかな?」
予想通りの提案。少しだけ燎につかまる手の力が強張るのを感じつつ、それを落ち着かせるように静かな声で。
「ええ。うまく話せなくても構いません、ゆっくりでも大丈夫です。話す時間は、たくさんありますので」
言葉を受けて、「ありがと」と囁くようにほたるは告げ。最後に一つ、勇気をもらうように背中に手を添えた後。
「あのね――」
ほたるは話し始めた。
自分の抱えたもの。そして、これまで聞いてこなかった彼女の過去を。
◆
「小さい頃のあたしはね。自分で言うのも何だけど……すごくつまらない子だったの」
ほたるの話は、まずそんな独白から始まった。
曰く幼少期の彼女は、その年にしては驚くほどに感情の起伏が少ない子だったそうだ。
それは生来の性質もあるかもしれないし、小さな頃は子育てに慣れていなかったほたるの両親が良い子に育てたいと思いすぎるあまり過剰に彼女を束縛してしまった影響もあるかもしれない。
今はやりたいことをちゃんと応援してくれるし恨んではないんだけどね、と一言断った後彼女は続ける。
「泣くことも笑うことも、ぜんぜん無くて。周りの子たちが騒いだりはしゃいだりしてるのを、なんでかなーってどこか絵本の中の出来事みたいに見てたのを覚えてる」
その頃の彼女は、まさしく周りに一切の興味を持たなかったらしい。感情が揺さぶられることもなく、ただただ親や教師等周りの大人たちが『これをやりなさい』と言ってくるものを素直に受け入れて実践するだけの、無味乾燥な『良い子』で。
このまま何事もなく、何も見出せず日々が過ぎていくと思っていたのだが……そこで。
「漫画に、出会ったの」
初めは、パッケージの絵が可愛いから手に取ってみた。
そこから試し読みの部分を読んでみて、何故かとても惹かれて。初めて両親におねだりをして、全十巻のその作品を全て買ってもらい、家に帰ったその日からすぐ読み進めて。
――生まれて初めて、感動して泣いた。
こんなに自分は笑えたんだって思うくらい笑った、本当に胸が締めつけられるような切なさを味わった、永遠にこの世界の中に居たいと感じるほどにわくわくした。
喜怒哀楽の全てが、その十冊の中に詰まっていた。モノクロの紙面なのに、彼女にとってはその中身だけが何よりも鮮やかに色を持っているように思えた。
何度も何度も読んで、その度に笑って、また泣いて。擦り切れるくらいに読んで、感情と楽しさと幸せを浴びるように貰って……
その果てに、思ったのだ。
「……自分もこういうお話を描いてみたい、描けるようになりたい。それが、先輩が漫画を描き始めたきっかけだったんですよね」
それが、ほたるの原点。
彼女が漫画家を志したきっかけだけは以前聞いていた燎は、ほたるの話に相槌を打つ意味も込めてそう告げる――が。
「ううん」
ほたるから返ってきたのはまさかの否定の言葉。驚く燎に、彼女は少し慌てた声色で。
「あ、えっと、それ自体は間違いじゃないよ。あのお話を読んで漫画を描きたいって思ったのも、あたしの原点なのもほんと。……でもね」
「でも?」
「……もう一つ、あったんだ。『こういうお話を描けるようになりたい』、それ以外にあのお話を読んで、あたしの中に生まれた思いがもう一つ」
そこからの、初めての話。
そして……きっと彼女が隠していたことの始まりを、告げる。
「『自分も、この物語の中の子たちみたいになりたい』って、思ったの」
「……え」
「きらきらした存在になりたい。これまでのつまらないあたしじゃない、あの子たちみたいな眩しい人になって。素敵な時間を過ごしたい、綺麗な物語を現実でも紡ぎたい。
――友達とお話をしたい、楽しく笑い合いたい」
それは。
言われてみれば当たり前で……幼少期の彼女を変えたもう一つの契機。
「そう思ってからは、世界の見方が変わった。これまでただの他人としてしか見てこなかった身の回りの子たちが、笑って誰かと過ごしてる子たちが、すごく羨ましくなった。ああいうのが、とても楽しいことなんだって思えて……できるならあたしも、あの子たちと同じ場所に行きたいって強く、思った」
物語を読んで感動して、現実でもと思う。それは当然の心の動きで、ここまで彼女は何も悪くなく、だから。
「……でもっ」
ここからが、彼女の懺悔だ。
「それは、ひょっとすると漫画を描く以上に。あたしにとっては難しかったの……っ」
素敵な物語に触れて、当たり前の心を取り戻して。それまで興味を持っていなかった周りと関わろうと一歩踏み出した女の子。
ああ、とても綺麗なストーリー。そのまま周囲の温かい人たちに触れて交流を深めていければ、それはそれは美しいお話になっただろう。
――だが。
それを穏当にするには、彼女の抱えていたハンデはあまりに重く。
そして何より……それを穏当にするには、彼女はあまりに容姿が優れすぎていた。
少し考えれば分かる。
これまで周囲と関わろうとしてこなかった……しかもとびきりの美しい容姿を持ったまさしく高嶺の花。それが、自分達と同じところまで降りてきて不器用な交流をはじめようとしたら。
……何かしらの軋轢は、生じない方が難しくて。加えて彼女の場合、少しばかりそれが顕著にすぎたらしい。
そこから彼女が語ったことは、どれも耳を塞ぎたくなるような出来事ばかりだった。
シンプルに『気持ち悪い』と言われて排斥された。
彼女が関わることによってグループが壊れる、グループの中心が彼女にすげ変わることを危惧した人間によって距離感が掴めない部分を過度に強調して追い出された。
それでも仲良くしてくれた異性の友達と過ごしていると、その男の子が同性から敵視され、女子からはその人が好きな女の子が中心となって『色目を使うな』と責められ、最終的にはその男子と好きな女子との仲を引き裂く悪者であり当て馬にさせられた。
同じようなことが何度も続いて、仲良くしてくれた子も大体最終的には悪意を向けてくるようになって、その豹変を見るのが何よりも辛かった。
誰かの悪口を聞かされて素直に『あの子はそういう人じゃないと思う』と言ったら思いっきり逆上され罵倒され、最終的には『人でなし』と言われた。
何も反撃できないのを良いことに自分以外に都合の良い噂を好き放題流された。
ノートに書いたネームを取り上げて下手くそと騒ぎ立てる連中がいた。
『それだけ可愛いんだから多少の理不尽くらい我慢するべきでしょ?』と言われた。
ただ、みんなと仲良くしたかっただけだった。
物語のように素敵に、そうでなくとも普通に友達と笑い合っていたかった。
なのに、それとはかけ離れた辛く苦しい感情ばかりを向けられ、向けられ、向けられ続けて。クラスが変わってもずっと同じで、それに耐え切れなかった。
「だから、だからね」
その果てに、彼女は潤んだ声で。
懺悔の核心を、絞り出すように告げる。
「あたしは……自分を誤魔化したの」
彼女が胸を押さえるのが、気配で伝わってきた。
「――『他人に興味を持たない方が楽だ』って。仲良くしてくれるって期待しない方が、最初から矢印を向けない方が、苦しくない。あたしは一人で良いって思い込んだ、思い込もうとした」
「……」
「あの日に持った願いの両方を取るなんて贅沢だから、描くことだけに絞ってそれだけに打ち込むのが正しいんだって――!」
それも、一つの正解ではあったのだろう。
優れた漫画を描くことだけに全てを捧げ、それ以外の全てを捨てて突き進む。そうやって突き詰め突き通し、通し切れたのならば間違いなく一つの極まった強さだ。
彼女も、それを目指して。頑張って描いて描いて描き続けて――
「……でも、それもだめだった」
――その結果が、先日の全ボツ。連載会議落選に、致命的な酷評だった。
「ともちゃんから聞いた編集部の評価。ショックだったしすごく傷ついたよ、内容もそうだけど、何よりあたし自身が納得しちゃったんだもん。……だって、当たり前だよね」
きゅっ、と背中に添えられた手が強く握られる。
「自分の心すら偽っちゃう人が、他人の心を動かすお話なんて描けるわけがないよね……っ!」
それが、彼女の漫画家としての『弱点』の正体。
幼少期に他者に共感する経験が極端に欠如していたことに加えて、漫画に出会ってからも誰かとの交流がうまくいかなかったことから心に壁を作ってしまい、結果として尚更に感情描写力が欠如した。心情解像度の低いお話しか書けなくなった。
そうしてできたのが、『ミステリアス』なんて耳触りの良い言葉で彩られただけの人見知りの女の子。荒療治として担当の灯が考えたのが燎との業務デートだったが、到底その程度では弱点を克服するには至らず。
結果、彼女の原点。あの時に抱いた二つの願い。
素敵なお話を描くことも、現実で素敵な時間を過ごすことも。どちらも叶うことなく、この場でうずくまってしまっている。
「……才能がない分。誰よりも頑張れる人に、ならなきゃって思ったの」
その果てに、ほたるは燎の背中にこぼす。
「人の何倍も、誰よりも頑張って頑張って。辛くて普通なら諦めるようなところでもなにをって思って立ち上がれて、良いお話を描くためならなんだってできるような、そんな人にならなくちゃって思って……」
以前、連載会議に落ちた日に聞いた言葉。
燎が目指した理想像。そしてほたるはそう在れるのだろうと思い、敬意を払った理想像。
でも、それは。
「でもね、違うの。それは脇目も振らずに進んでるんじゃない、向き合うべきことから目を逸らして逃げてただけ。『あたしは才能がないから、良い漫画を描くためには友達とどうこうしている時間なんて無い』なんて、素敵で立派で誰もが納得する、自分ですら誤魔化せるような言い訳に縋って閉じこもっていただけ」
繰り返すが、きっとその在り方も正解だ。
……ただ、それは。『本当にそれを突き通して進めるなら』という条件付きであり。
そして――
「……本当は、さぁ」
彼女は、そうは在れなかったという話。
「嫌だよ。辛いよ、苦しいよ。こんな状況で、そんなにずっと、いつでもいつまでも頑張るなんてできなかったよぉ……」
背中に、ほたるの頭が押しつけられる気配。そこから、震え声と共に湿った熱が伝わっていく。
「学校でみんなに遠巻きにされてるのも辛い。あたしについて話しているのを、無視するなんてできない。本当はもっと踏み込みたい、仲良くしたい、笑い合いたい! それで、そう思ってるのに、そのくせ――本当に大事な時になったら昔を思い出して、臆病になって怖くなって、今まで通り『興味がないふり』をして仮面を被って逃げちゃうあたしが、いちばん嫌だっ!」
「……先輩」
あの告白をあんな台詞で断った経緯も、繋がった。
納得が胸中に広がる燎に対して、ほたるは続けて。
「ねぇ、かがり君。素敵なお話を描きたい、周りの人とも仲良くしたい。……どっちか、捨てないといけないのかなぁ。捨てるのが正しいことなのかなぁ」
「……」
「あたしは、嫌なの。どっちも全然できていないくせにどっちも捨てたくないの、捨てられないの。それがあたしなのっ!」
そこで耐えられなくなったように、縋るように。ぎゅっと強く、けれど何処か躊躇うように手と額だけで、燎の背中にしがみついてくる。
「ごめんね。かがり君が望んでたのは、きっと漫画のためにそれ以外を捨てて進む方のあたしだったよね……でも、無理だったよ。できなかった、あたしはそんなに強くなかった、こんなこと言ってまだ誰にも、きみにも嫌われたくないって思ってる……だから……ッ!」
それ以上は、言葉にすることすら傲慢だと思ったのか。
ただ、無言で。嗚咽を漏らしながら燎の背中を握り締める。何処か怯えているような小さな震えすら、額越しに伝わってきて。
「………………」
嫌いになりそうだった。自分が。
以前話を聞いた時から薄々勘づいていた、彼女の在り方。『良い漫画を描くこと』を全てに置いていた裏に隠れた、十六歳の女の子として当たり前の願い。
改めてその全容を聞いて。いくら、彼女自身もそれを隠していたとは言え。
――今までどれほど、残酷で身勝手極まる押しつけをしていたのかと。
一瞬、自らの心臓を抉り出して握り潰したいくらいの衝動に駆られる。
だがそんなことは不可能だし、やったとしても誰のためにもならない。彼女のためにも。
だから、まずは。真っ先に浮かんだ、真っ先に彼女に伝えるべきことを。歯を食いしばって、真っ直ぐに告げる。
「捨てる必要は、ないです」
「……かがり君?」
「すみません、何の根拠も保証もないですけど……それでも。きっとそれは、どっちも捨てる必要のないものです。先輩が捨てたいと思わない限り、絶対に捨てちゃ駄目なものです。捨てないで欲しいと、今は思います」
普段は使わない、強い断定の口調。彼女に怒っていないことも、ましてや嫌ってもいないことを伝えるように真摯な言葉を受けて。
「……うん。ありがとう」
囁くようにほたるがそう告げて、手の力が安堵で緩む。
合わせて燎も肩の力を抜きつつ考える。
そうして思い出すのは、夕方に言われた星歌の言葉。
『これは完全に直感だけど、燎にも、ひょっとすると夜波先輩にも。今みたいにちゃんと言葉にしきれてない気持ちがまだある気がする』
全くもってその通りだった。鋭すぎである。
『じゃあまずは、そういうのを全部探って話をするところから始めるべきだと思うよ』
そして続く言葉を思い返し。それにも、ぐうの音も出ないほどに同意で。
(……話す、のか)
こわい、と素直に思った。
ああ、そうだ。自分の抱えたものを曝け出すのは、内心の奥の奥まで素直に話すのは、本来とても怖いこと。抱えたものが暗ければ暗いほど、尚更に。
――だから、彼は。
「先輩。謝るべきことが、たくさんありますが……その前に」
彼女が、自らの懺悔のためにこの特別な場を用意したように。
彼も、少しだけ自らの背中を押すための言い訳を作る。
「俺の話を、聞いてくれますか……いえ。聞きたいと、思ってくれますか?」
「え?」
少し不思議な言い回しに疑問の声を上げるほたるだったが。真摯な問いだったこと、そして彼女自身の答えに迷う必要はなかったことから、程なくして頷く。
「それは、もちろんだよ。これまで話してくれなかったきみのことなら、すごく知りたい。あたしの方からお願いしたかったくらい」
「そうですか……では」
それを聞いて安堵すると、続けて。
「先輩、今はデート中ですよね」
「え、あ、うん。そうだけど……」
「では、いつもの取り決めを。もう一度言ってくれますか」
そこまで聞くと、彼女も悟ったのだろう。
くすりと小さく笑うと、落ち込んだ中にも少しだけからかいの色を滲ませて。
「条件。――デート中は?」
「……絶対にデレること」
この、奇妙な縁の始まり。二人だけの決め事を復唱する。
今はデート中であり、デート中はほたるの要請に応じて内心を全て開示しなければならない。
……ならば、今。ほたるが燎の過去を知りたいと願うのであれば、燎に最初から断る選択肢は存在し得ない。
きっと、これまでも同じ手を使えば聞き出すことはできたのだろう。
でもほたるはしなかった。それだけはやってはいけないと彼女なりに理解していたのだろう。
それに感謝しつつ、今回は燎がその理屈を使わせてもらおう。
「デート中なら、仕方ないですね」
「うん、仕方ないの。……だから聞かせて、きみのことも。時間はたくさんあるから」
普段は変な意地を張って、自らのことを話すなどほとんどない彼だけれど。
ここまで彼女が内心を曝け出してくれたなら、優しい言い訳を用意してくれたなら。この特別な、夜空と彼女だけが聞く場であれば。
そして……明かすことで、確かに見えてくるものがあるのなら。
今だけは、踏み出してみるべきだろう。
そう決心して、燎も。静かに口を開き、彼の抱えたものを夜闇に吐き出し始めたのだった。




