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F 坊やは祭り真っ只中の街を一人で歩いた。住民は、護衛も付けずに歩く坊やを見て見ぬ振りした。北岸の人々は大阪のおばちゃんのように遠慮なく触ってくるが、南岸の人々は東京人のように気を使ってくれた。
大きな神社の境内に、様々な屋台が立っていた。その片隅で、天使のような青い瞳の美少女が一人寂しく遊んでいた。
長いまつげの可憐な顔立ちだった。綺麗な金髪をツーサイドアップに結って、リボンで飾っていた。彼女は可愛らしいピンクのミニ浴衣を着て、ローラーシューズを履き、石畳をボトムズのようにローラーダッシュしていた。仕草は放課後の女子小学生そのもので愛らしいが、雰囲気は気品漂うお姫様だった。
坊やは美少女と目が合った。その瞬間、彼女は全身に殺意を漲らせた。
坊やの後ろを、肩車した親子連れが元気に通り過ぎていった。美少女は殺気を解いて下を向いた。青い瞳は赤く変色していた。
巡回中の警察が、ただならぬ空気を察して、二人に声をかけてきた。
「どうしました?トラブルでもありました?」
美少女は首を振った。坊やは何でもありませんと説明したが、警察は簡単に引き下がってはくれなかった。警察は彼女に尋ねた。
「今日は家族と一緒に来たのかな?お父さんお母さんは?」
「ママはいます。パパは、いません」
「小学生?」
「はい」
「ママの名前と、家の住所を教えてくれますか。お巡りさん、怖い顔してるけど君の味方だよ?何も怖くないからね」
美少女JSは下を向いて黙った。妹です、と坊やは説明した。JSはローラーダッシュで坊やの後ろに回り込んで、警察から隠れた。
警察はじっと坊やの目を見つめた。それから、腰を屈めてJSに話しかけた。
「お兄ちゃんと仲良くね。何かあったら連絡してね」
警察は地面に名刺を置いて立ち去った。JSは泣きそうな顔で小さく頷いた。
坊やとJSは夜店を回って、白いキツネのお面と、綿アメと、焼きそばを買った。二人はお堂の縁に腰掛けて、買ってきた物を食べた。
「・・・お兄ちゃんを名乗る不審者にご馳走される事案発生です。お兄さん、偉い人ですよね?一人で歩いてていいんですか。襲われますよ」
A「そんな卑怯な事をする敵じゃない」
B「殺されるほど弱くない」
C「襲われたい」
↓
A「卑怯ですよ、すごく……」
B「遠距離が強いだけって誰かが言ってました。街中で接近されたら終わりなんだから、これからは注意してください」
C「うーん。?ピンチを楽しむ、って事?すごいなあ、本当のヒーローみたい」
JSは焼きそばを食べ終えた。坊やはまだ手を付けていない自分の分を差し出した。彼女は坊やの分を食べながら、自分の身の上を語り出した。
「今、プチ家出中なんです。なのに、ママの事ばっかり考えちゃう。これママに食べさせたいなとか、ママと一緒に見たかったなって。家にいた時は辛くて、誰にも話せなかった。年の離れた友達もいるけど、色々あって、多分二度と会えないから……
お兄さんは辛くないですか? 色んな人が周りに集まってくるじゃないですか。名前も知らない、会った事もない人達が、助けてください、力を貸してくださいって。皆が私を頼ってくるけど、じゃあ私は誰を頼ればいいの?」
A「自分」
B「勝ち続ければ離れない」
C「お兄さんを頼れ」
JSは箸を置いて、「りんご飴食べたいです、今すぐ」と坊やにねだった。坊やは近くの夜店に買いに行った。
JSは「焼きそばとわたあめおいしかったです。お面大事にします」とメモに書くと、お面を被ってその場を立ち去った。




