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夕方、ホテルの大広間で、財団主催の婚約記念パーティが開かれた。
会場は大理石の床と鏡の壁を持つ、ホテルで一番のフロアだった。ここに夜会服姿の大貴族が集まって、道長とナポレオン三世を合体させた怪人の機嫌を取っていた。山崎は大変な上機嫌で、子爵の肩を叩いたり、社長のお酌を受けたりしていた。殿下と女官の姿はなかった。
ホテルの女子トイレの前に、シルバと刑事数名が立っていた。シルバはトイレの中の秋水に、長谷川の素性を言い聞かせた。
「本名、セルゲイモストボイ。尊王院大学史料編纂所の元所員。九年前に入国して以降、所在が掴めませんでした。今礼状を用意してますが、思った以上にバックが強くて、上がビビりまくってます。最悪、長谷川だけを逮捕して終わり、って事にもなりかねません」
秋水はトイレの鏡台で化粧をチェックしていた。
「なら自首させればいい。三十分以内に護送車を用意してください」
「水神さん。あなた違うと言うかもしれないが、今のあなた冷静じゃないよ。犯人をサンドバック代わりに殴ってスッキリするのは止めてくれ。刑事のする事じゃない」
「常に余裕と緊張を保ち、最良の選択をしています」
「一人で突っ走るなって事です!サポートさせてください。嫌って言っても無理矢理手助けしますよ。困った人の助けるのは、お巡りさんの仕事でしょ?」
女子トイレから、ドレス姿の秋水が出てきた。刑事は全員後ずさって道を開けた。誰も彼に付いていこうとしなかった。秋水は立ち止まり、背中を向けたまま命じた。
「サポート!」
刑事は思い切り頭を下げて叫んだ。
「はいっ!喜んでえええ!」




