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A 坊やは本棚を除けた。瀕死の王子は途切れ途切れに呟いた。
「生かしてどうする……父親か?俺を裁判にかけて、家族の潔白を晴らすか」
坊やは頷いた。王子は死にかけの顔で笑った。
「俺も、お前のような子供が欲しかったよ……」
坊やは黒い血を王子に降りかけた。王子は拒絶反応を起こして、全身を痙攣させた。一方で、体の傷は黒い血に洗い流されたかのように消滅していった。坊やは胸の木片を抜いて、その穴に黒い血をかけた。穴は瞬く間に塞がれていった。
部屋の中央に、例の「蟠龍起萬天」の旗が飾られていた。坊やは気絶した王子を旗で包むと、肩に担いで部屋を出た。
ピアースはフリゲート艦から戦況を見守っていた。部隊も敵艦から撤収して、こちらに戻ってきていた。
船から、ミイラのような物を担いで坊やが出てきた。「早くしろ!」とピアースは叫んだ。坊やはダッシュでフリゲート艦に飛び移った。敵艦は激しく燃え上がって、水中に沈んでいった。
船上の人々は、その様子を呆けたように見つめていた。ピアースは坊やに尋ねた。
「で、魔王は?ちゃんと仕留めたんだろうね?ああ、あっちの(最後尾の)船だったか?」
フリゲート艦の一室は、武装した水兵によって厳重にガードされた。王子はその部屋のベッドに寝かされた。怪我は回復したが、意識は戻らず、こん睡状態が続いていた。ピアースは頭を抱えた。
「何てもん拾ってきたんだよ……とりあえず、これは二人だけの秘密だ。政事総裁にバレたら、取り上げられて何かのカードに使われる。そういう事で助けたんじゃないんだろ?」
坊やは頷いた。
「父の無実を晴らす、か。この際はっきり言うが、そんな事誰も気にしちゃいないぞ。皆が君に付いていくのは、君なら国を守れるからだ。君が勝てば、出世して金が儲かるからだ。君の家族の名誉のために戦ってる奴なんて、誰一人だっていないんだ。
それでもか?それでも君は、自分の誇りのために戦うのか。君は、俺達のためには戦ってはくれないのか?」
坊やはある作戦をピアースに話した。
時計の針が進んだ。ピアースは最後まで疑いの表情を崩さなかったが、最後に「納得は出来ないが、理解はする」と言ってくれた。
「考えるだけなら誰も出来る。それを実現させるのが大戦略家だ。時期が来れば協力しよう。それが最も千代浜市民のためになると、俺はそう信じている」
坊やは頷いた。ピアースはぼやいた。
「ったく、身勝手な野郎だよ。かぐや姫かって。君のような奴は一番始末に困る。だが、だからこそ成し遂げられるのかもな」




