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闇夜に紛れて、王国軍の奇襲艦隊四隻が大河を航行していた。旗を下ろし、灯火は消していた。船上には黒づくめの部隊が待機していた。
彼らの行く先には、街の南の港があった。埠頭には輸送艦隊の大部隊が集結していたが、港の守備部隊は少数だった。千代浜軍の生命線は、この南の港と輸送艦隊だった。秋水は敢えて港を無防備にする事で、王子の攻撃を誘発した。
王国軍の奇襲艦隊は単縦陣(縦一本の陣形)で西進していた。全て蒸気船で、先頭と最後尾が軍艦、二番と三番が輸送艦だった。彼らは逸る気持ちを抑えて、静かにゆっくり進んでいた。
艦隊の左右の水面が盛り上がって、千代浜軍の潜水艦八隻が浮上してきた。潜水艦隊は、左右から王国軍に大砲を発射した。
先頭の軍艦は、攻撃で炎上したが、速度を上げて窮地を脱した。
輸送艦の一隻は、両側面に大穴が開いて沈んだ。
輸送艦のもう一隻は炎上して動かなくなり、水に流されていった。やがて弾薬庫に誘爆して、盛大に吹き飛んだ。
最後尾の軍艦は、損害を受けながらも、果敢に反撃の大砲を打ち返した。
潜水艦隊は水中に沈んで姿を消した。敵の砲弾は、数秒前まで潜水艦がいた場所を空しく飛び去っていった。
輸送艦に乗っていた黒づくめの部隊は、水中へ沈んでいった。その中に、黒武者の姿もあった。黒武者はショックで気を失っていたが、やがて意識を取り戻した。上から瓦礫や死体が降ってくる中、黒武者は川底を歩いて港を目指した。
奇襲艦隊の南方から、千代浜艦隊八隻が雁行陣(逆V字の陣形)でやってきた。要のフリゲート艦には、坊やとピアースが乗っていた。
生き残った敵二隻は北に逃げた。千代浜艦隊は彼らを追った。
最後尾の軍艦は追い立てられて逃げ場がなくなり、最後は北の陸地に乗り上げた。
敵先頭艦の炎上が激しくなり、機関が壊れて動かなくなった。フリゲート艦は、炎上する先頭艦の背後から接近した。
黒武者は川底を走ってフリゲート艦に追い付いた。彼は真下から火球を打ち上げた。
水中からの攻撃を警戒して、フリゲート艦の船底には、鬼の目がフジツボのように張り付いていた。火球が打ち上がってくると、目は全て閉じられ、船底は水晶の肋骨シールドで覆われた。
火球が船底に命中した。その衝撃でフリゲート艦が大きく揺れた。船上の人々は物にしがみ付いて耐えた。すぐにもう一発大きな衝撃が来て、フリゲート艦はまた下から突き上げられた。船上の人々は立っていられなくなった。
川が静かになった。人々は三度の衝撃に備えた。坊やはかゆうまモードに変身して、近くにあった大砲を片手で掴んだ。
水中から、黒武者がトビウオのように飛び出してきた。坊やは大砲をハエ叩きのように振って、黒武者を川に叩き落した。
船上に大きな鬼の脳が現れた。脳と坊やの頭は、複数の黒い血管で繋がった。脳は黒武者の出現位置を予測して、坊やに伝えた。
坊やは、大砲をクジラ漁の銛のようにして、水面へ投げ付けた。
水中から黒武者が飛び出してきた。黒武者は飛び出た瞬間大砲銛に当たって、数十メートル吹っ飛ばされた。黒武者は水面を数度バウンドして、水上をカーリングのように滑ってようやく止まった。
黒武者は弱々しく水面に立って、遠ざかるフリゲート艦に両手を向けた。黒武者は龍の形をした青い炎を打ち出した。
坊やは脳とかゆうまスーツを消して、水上に水晶骨の上半身を出した。水晶骨は両腕で体をガードした。青い龍の炎は、水晶骨を一息に飲み込んで迫ってきた。
坊やは空中に黒い電撃曼荼羅シールドを出した。龍の炎は曼荼羅シールドに吸い込まれて消滅した。
曼荼羅シールドは黒い電撃法輪に変化した。法輪は激しく回転しながら、黒武者目がけて飛んでいった。力を使い果たした黒武者は、逃げ切れずに正面から受けて吹っ飛んだ。
フリゲート艦は炎上する先頭艦の右舷に横付けした。先頭艦はガトリング砲を打ってきたが、坊やは水晶ドクロの骨スーツでガードして、全弾弾き返した。ピアースはサーベルを抜いて、切り込み攻撃を指示した。
「アボルダージュ!」
骨坊やと部隊は敵艦に乗り込んだ。生き残りが刀で応戦してきたが、味方部隊は火炎瓶を投げ込んで分断し、多対一に持ち込んだ。
坊やは燃える船内に突入した。部屋の中から、廊下の角から、生き残りの敵が飛びかかってきた。坊やは長く伸びる巨大筋肉腕で殴り飛ばした。筋肉腕は船の外壁を突き破って、敵を川に突き落とした。
坊やは貴賓室のドアを開けた。燃える部屋の片隅に、瀕死の王子が横たわっていた。胸には木片が突き刺さっていた。火は彼の近くまで迫っていたが、本棚が下半身に倒れてきて動けなかった。
A 魔王を助ける
B 魔王を殺す
C その場を立ち去る
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