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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第6章 革命のヒーロー
51/136

6-9

 坊やは本丸に接近した。二の丸~本丸間に架かる暗い橋に、二人の人物がいた。

 立派な軍服を着た男が、橋の上で大の字になっていた。敵軍の司令官である。

 黒い鎧を着た侍が、司令官の前に立っていた。背中を向けているので、黒武者の顔は見えなかった。黒武者の右手には炎が宿っていた。

 黒武者は右手の炎で司令官を焼き殺した。辺りが瞬間的に明るくなった。黒武者はゆっくりと振り返った。顔は烏天狗の面頬で覆われていた。炎に照らし出されたその目は、鬼のように赤く光っていた。坊やは全力ダッシュで逃げ出した。

 炎上する建物から、黒鎧の敵兵が次々出てきて、坊やに飛びかかってきた。坊やは全身を水晶製の鬼の骨で覆った。敵兵が次々切りかかってきたが、彼らの刃はポッキーよりも簡単にへし折れた。

 黒武者はダンプカーほど大きな青い火の玉を打ってきた。坊やは両腕クロスでガードしたが、受けた衝撃で二の丸東端まで吹っ飛ばされた。

 ピアースは船上で様子を見守っていた。城から、赤い信号弾が打ち上がった。


「マジかよおい……先生!出番だぞ!」


 船内から先生の声がした。


「今駄目。素爪で表出れない」

「いきなり女ぶるなよ!土佐日記か!(手袋で)見えないだろ!」

「見えない所だからこそ。笑わない?」

「笑わねえよ!あー、日米通商条約ぐらい譲歩したな俺!」


 船室から先生が出てきた。「嫌なんだけどなあ……」と呟いて、先生は軽く助走を付けてジャンプした。その体は黒い稲妻に化けて、城内に飛んでいった。

 坊やは瓦礫から立ち上がった。水晶ドクロの体は所々ひび割れ、黒ずんでいた。本丸の橋に、黒武者と黒づくめの敵兵が立っていた。

 坊やの真横に黒稲妻が落ちて、それが先生に変化した。


「チヤホヤされて腕が鈍った?自分の目的、覚えてるよね?」


 A「鬼を倒す」

 B「オニオンスライス」

 C「何でしたっけ?」

 ↓

 A「世の全ての人から褒められても自惚れず、世の全ての人からけなされても落ち込まず。忘れないで」


 B「生のタマネギ嫌いな方って多いですよねー。頑張って切っても『からーい!』なんて言われてガッカリ。今日はそんな皆さんのために簡単!美味しい!オニオンスライスの仕方を教えちゃいます!っておい!鬼を、倒す。オニオン、スライス。四文字違う」


 C 先生は適当に睨んで、棒読みで言った。「ほらごほうびだぞー。ぶひぃとなきなー」


 黒武者の右手に青い炎が宿った。「ガード!」先生は叫んだ。

 黒武者は青い炎のビームを打ってきた。射線上の敵兵や建物は蒸発した。

 坊や達の前に、天守閣ほど大きな水晶骨の上半身が現れた。骨は両手をクロスさせて身を守った。ビームは交差された骨の腕を打ち抜き、その下の胸骨をじりじりと溶かしていった。

 二人は骨の背後に隠れていた。胸骨が溶けていく間に、先生の剣三本は空中で直列繋ぎに連なり、強く放電して、一本の長大な黒い稲妻剣に変化した。

 ビームは胸骨を半分溶かした所で消滅した。

 先生は黒稲妻剣を真横に薙いだ。黒い斬撃が走って、溶け残りの水晶骨、敵兵、炎、建物、前方数百メートル以内にある全てを上下二つに切断した。が、黒武者はジャンプでかわした。先生は稲妻剣を振り下ろした。黒い斬撃が天守閣を左右真っ二つに切り裂いた。が、黒武者は背中から黒い炎の羽を生やして逃げていった。天守閣は二つに割れて崩れ落ちた。

 先生は空を見上げた。炎で赤く染まった夜空を、羽の生えた黒武者が北東へ飛び去っていった。


「あいつも鬼に憑依されている。やる事は変わらないよ?ソハヤで刺して浄化するだけ」


 A「仲間に出来れば楽になるな」

 B「犬の次は雉か。お供のし甲斐がありそうだ」

 C「女武者だったらいいなあ!女武者だったらいいなあ!」


 先生は呆れた顔で周囲を見回した。地面には、城の残骸や、敵兵の鎧が散乱していた。しかし死体はなかった。

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