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大河の川沿いに、千代浜市役所が建っていた。日銀大阪支店似の、石造りの広壮な建物だった。今、この市役所前に、沢山の市民が集まっていた。
辺りは足の踏み場もない状態だった。橋の上、船の上も市民で一杯だった。子供は肩車してもらっていた。誰もが千代浜の小旗を持っていた。
「坊やさんまだかな~」
「超かっこいいよね、坊や!」
「何が犯罪者だよ。ヒーローがそんな事する訳ねーじゃん」
「濡れ衣着せられてマジ可哀相。犯人絶対許さんわ」
「坊や様~!愛してます~!」
「坊や!坊や!」
市役所二階の小ホールに、千代浜の主だった面々が緊張した顔で集まっていた。全員スーツか黒軍服で、ちょんまげ袴はいなかった。この小ホールの先は、バルコニーに続いていた。
坊やと秋水が小ホールにやってきた。一同は深く頭を下げて、新君主に忠誠を示した。
主だった面々はバルコニーに移動した。外から歓声が聞こえた。自然に坊やコールが始まった。
「坊や!」「坊や!」「坊や!」「坊や!」
坊やと秋水は、まだ小ホールに留まっていた。同じく小ホールに残ったゆるパパは、「伯爵様」と坊やに呼びかけた。
「おめでとうございます。しかし国は、作るよりも治める方が難しいものです」
三人の後ろを、軍服の提督とピアースが通り過ぎていった。
「この人の言ってる事九割嘘だぞ」とピアース。
「迷ったら家康の真似すりゃいい。武徳大成記(徳川家康の歴史書)読め」と提督。
二人はバルコニーへ移動した。外の歓声は一層大きくなった。
「このリオアーバイン。政治を預かる者として、誠心誠意、伯爵様を支えていく事をお約束致します」
二人の後ろを、軍服のテリーと、着慣れていないスーツ姿のアシュリーが通り過ぎていった。
「中ばかりでなく外も見て。東と北の動きが気になる」とテリー。
「夢のようです!最高の一日になりそう!」とアシュリー。
二人の登場で、外の歓声は更に大きくなった。
「それでは伯爵様、我らの国に参りましょう!」
坊やとゆるパパはバルコニーへ移動していった。秋水はその場に残った。
鈴木の隠し子の襲撃は、秋水の頭に冷や水を浴びせた。赫々たる勝利に誰もが酔いしれ、浮かれる中、頬に包帯を巻いた軍師だけは冷静でいられた。
家族の名誉を取り戻す事が目的だった。誇りのために戦ってきた。しかし勝ち続けた結果、周りに人が集まり、囃し立てられ、神輿に乗せられて、一国の王にさせられた。断われば、周りから人がいなくなり、目的達成から遠ざかる。受け入れても、周りに人が集まりすぎて、目的達成から遠ざかる。
海の向こうの偉大な大統領はこう言った。
―「大抵の人は災難を乗り越えられる。本当に人を試したかったら権力を与えてみる事だ」
もう一人の兄は、不意に権力を与えられて狂った。彼は狂わずにいられるだろうか。自分の見通しの甘さのせいで、「また」破滅に追いやってしまったのではないか?
「坊ちゃま!」と秋水は泣きそうな顔で呼びかけた。「大丈夫ですよ軍師殿、全て上手く行きます」とゆるパパは分かっているような、分かっていないような顔で答えた。坊やは秋水の頭を優しく撫でた。
A「心配するな、お兄ちゃんはどこにも行かない」
B「千代浜の未来はこの(秋水の頭の)中にある」
C「最初に作る法律は女の子の涙禁止法だな」
二人がバルコニーへ出て行く。彼らの背中を、秋水は不安げな表情で見送った。
歓声が地鳴りのように轟いて、建物全体が重低音で揺れた。




