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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第5章 城巻き姫
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5-5

 夜、村外れの船着場に、坊やと先生が立っていた。先生は例のスーツに着替えていた。

 暗くて寂しい場所だった。村の方は真っ暗だった。空には細い三日月が浮かんでいて、草むらからは涼しい虫の音が聞こえてきた。船着場には古い漁船ばかり泊っていた。

 船着き場に、「遅れてすいません」とアシュリーがやってきた。彼女は着物+短袴+ブーツに着替えていた。勇ましい坂本龍馬にも、清純な大正時代の女学生にも見えた。

 アシュリーは「じゃあこれ、豚に食べさせてやるハンバーガーです」と二人にランチボックスを手渡した。中を開けると、出来立てのハンバーガーと、子供の字で「ぼうやがんばれ」「先せいまたきてね またあそぼうね」と書かれた手紙が入っていた。

 大きな水音を立てて、川面が盛り上がってきた。水中から、八人乗りの小型潜水艦が浮上してきた。「すごい・・・」とアシュリー。

 三人は潜水艦に乗り込んだ。ハッチ(入り口の穴)は五十センチ。中は縦が一メートル半、横が十五メートル。乗員は八名で、動力は手回しクランク。土管の中にベンチを突っ込んだような艦内だった。既にピアースが乗り込んでいた。

 三人は身を屈めて座席に座った。「すごいです!こんな不思議な物があるなんて!」と機械好きのアシュリーのテンションは上がった。彼女の真横で、痴女スーツの先生は親指を切って黒血の兎を数匹作り、それにクランクを回させた。ピアースが突っ込んだ。


「隣(先生)の方が不思議だろ!どんだけ天然だよ、ラドン温泉か」


 先生は満足げに頷いた。


「私が君の加入を一番喜んでる。名倉がいないネプチューン、どうなると思う?震えが来るでしょ?これでやっと正統派のベシャリが出来るわ。私の好物は関東風のキレキレの例え突っ込み。関西のベタなノリ突っ込みは止めて」

「突っ込みの層薄すぎでしょ!ふぐ刺しか!」

「グッボーイ。これからもその調子で」


 村の船着場から漕ぎ出して、支流を南下していくと、千代浜の北に出る。

 千代浜軍は東、南、西に対する防備は固めていたが、北の構えは薄かった。北の入り口ゲートは一個小隊三十人程度が守っていた。水上入り口には鉄鎖が張られていて、船の往来は不可能だった。

 潜水艦は鉄鎖の下を潜って千代浜市内に侵入した。

 市内には多くの部隊が配備されていた。主要な通りには騎兵隊が示威的に展開していた。市民は家に引き籠っていた。街の誰一人として、水面下に潜む敵に気付いていなかった。潜水艦は厳重警戒の街を悠々と進んだ。

 千代浜城の堀は外部と繋がっていて、海の生き物が泳いでいた。

  堀の水面が盛り上がって、潜水艦が浮上してきた。ハッチが開いて、中から四人が降りてきた。

 四人は伸び縮みする黒血の蛇ロープを使い、石垣を登って、城の本丸に侵入した。本丸には白く美しい天守閣が聳えていて、その麓には立派な本丸御殿が建っていた。辺りに人はいなかった。ピアースは疑問を呈した。


「この配置にこの流れ。上手く行き過ぎていると思わないか」


 A「想定の範囲内だ」

 B「テリーがそう思っているならこちらの勝ちだ」

 C「気(木)になるテリーをツリー出せたな」

 ↓

 A「それ言ってマジで想定の範囲内だった奴、一人も知らないんだが?」


 B「最大の障害との一対一を作り出せた。そこでもう満足してないか?肝心のタイマンで負けたら終わりだぞ」


 C「ボケが絡まりすぎ!こだわりの縮れ麺か!」


 アシュリーは蝋で封した「田村家軍師 田村秋水」の手紙を開けて、内容を読んだ。


「ご執政は本丸御殿。お姉ちゃんは時間稼ぎの捨石、で天守閣。まず三の丸のパパを助けてください、だそうです。パパのために、命を危険に晒す事は……」


 ピアースがたしなめた。


「別に可哀相だからじゃないだろ?助けるのは、これから必要になるからだ。君もあの人の娘なら、最も得になる行動を取れよ。優先順位は参与とテリー。ご執政は三番目だ」


 アシュリーは頷いた。ピアースは三の丸へ、他三人は天守閣へ向かった。

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