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三人を乗せた列車は、千代浜の北にある小さな農村、鬼首村で止まった。
大河の支流に面した田舎村だった。米作が中心で、家屋は昔ながらの木造が多かった。鉄道は通っているが、駅は小さな無人駅だった。一方、小学校は赤レンガの立派な造りで、机や黒板も新品だった。
三人は立派な小学校の音楽室で、反乱艦隊からの使者を待った。教室には、「丸吉第十連隊 寄贈」と印されたグランドピアノが置かれていた。南の結城家との戦いで軍が分捕った品である。
使者を待つ間、お嬢様教育でピアノをバリバリ弾けるアシュリーが、ショパンのしっとりした曲を弾いてくれた。逆立った神経を落ち着かせる、柔らかい音が教室に満ちた。
A「アシュリーは小さい時どんな子だった?」
B「村一番の建物が小学校なのは、いい政治が行われている証拠だ」
C「白ギャルなのにお嬢様だ」
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A「習い事ばかりしていました。私と違ってお姉ちゃんは何でも出来ちゃうから、お稽古もすぐに終わらせて、公園で男の子とサッカー。羨ましかったなあ」
B 父を褒められたアシュリーは「ありがとうございます」とはにかんだ。
C「そんな事。第四王位継承者の方から見れば、取るに足らない家です。それに坊やさんだって、ピアノお上手でしょ?この間、船でモーツァルトを弾いていらした」
「君、いいとこの子オーラちょいちょい出してくるよね。いやらしい」
「いやらしい」
「お坊ちゃんだから、普通のモテ服がギャルに見えるのよ」
音楽室に、三人の子供が入ってきた。アシュリーは演奏を止めた。着物に坊主の男の子と、半ズボンの男の子と、三つ編み赤リボンにスカートの女の子だった。男の子二人は坊やにサインをせがんだ。女の子は気後れして、遠くから見ているだけだった。
「すげー!本物だ!新聞と一緒!おい坊や!サインくれよ!」
「俺もサインくれ!百枚だぞ、百枚!後で売るから名前は入れんな!」
「次郎君、健太君、止めなよう。坊やさん困ってるよ」
洋服姿の女性教師がやってきた。彼女は「こら!邪魔しないの!」と三人を叱った。半ズボンの子は「だってだってぇ!」と甘えて教師に抱き付いた。着物の子は「ユキ先生!ほらすげーぞ!リアルガチ坊や!」と教師の手を引っ張って、坊やを指差した。立烏帽子先生は「しょうがないなあ」と笑って、三人を外へ連れ出した。
「ほら、お坊ちゃまの邪魔するとおへそ取られちゃうから、外でサッカーしましょ」
優しい表情の立烏帽子先生にそう言われると、三人も「俺も坊やとお話したいー!」「男の面子を傷付けたな!責任取って結婚しろ!」そんな事を言いながら、結局彼女に付いて行った。「申し訳ありません」と教師は平謝りし、「いえいえ」と先生は笑った。
先生達と入れ替わりに、ピアースがやってきた。彼はパーカーのフードを目深に被っていて、如何にも怪しい雰囲気だった。
「第一艦隊筆頭軍監(参謀長)、デビッドピアースだ。田村秋水軍師の要請に従い、例のブツを持ってきた」
ピアースは秋水からの手紙と、中に入っていた赤ムカデの割符(二つに割った絵札。照合して本物か確認する)を見せた。アシュリーは自分が持っている割符と、彼の割符を合わせた。赤ムカデの絵札はピッタリ合った。「確かに」とアシュリー。作業の間中、ピアースは坊やとアシュリーの姿をまじまじと眺めていた。
「そのような振る舞いをなさらないでください。千代浜の名誉に傷が付きます」
「怒った綺麗な顔が姉ちゃんそっくり。そっちは本物だな。立石でまたアリサ皇女の偽物が出たらしい。悪いが、君が本物という証拠を見せてくれ。俺は情報畑出身だから疑い深いよ」
坊やはソハヤを抜いた。青く光る剣が現れた。教室は、その優しい光に包まれた。二人は息を飲んだ。坊やは自分の手をソハヤで切った。二人は声を上げた。光る剣は、実体がないかのように、彼の手をすり抜けた。魔物だけを殺す剣なので、人は切れなかった。坊やの手は全くの無傷だった。
「分かった、剣は本物だ。でも本物を持ってる君はどうなんだ?」
「私が命に賭けて保証します。間違っていたら、どうぞお好きになさってください」
「ハッタリの効かせ方は父ちゃん似だな。いいよ、信じる」
「ハッタリではありません」
「頑固なのは爺さんの血か。さっきの詐欺の話な。偽皇女は血吸の太刀の偽物を売り捌いていたらしい。正統な皇帝の証。そのソハヤと同じ、ヒヒイロカネの剣だ。そんな物欲しがる奴、今の皇帝と魔王しかいないと思うだろ?これが百人以上引っ掛かったって。帝国はもう終わりだよ」
校庭で、先生と子供達がサッカーで遊んでいた。ピアースは窓からその様子を眺めた。
「この国は変わる。それは止められないんだろう。ただ、何百万人も死んで変わるようなやり方は、俺は止めたい。君らは千代浜をどうする気だ?」
アシュリーは指を三本立てて、作戦内容を説明した。
「上、中、下の三策。下策は蓮沼の艦隊だけで千代浜を攻める。共倒れになるでしょう。中策は蓮沼と岩島の艦隊で千代浜を挟み撃ちにする。大勢の犠牲者が出ます。上策は私達だけで千代浜城を落とす」
「何人連れてきた?」
「三人です。坊やさんと、校庭でサッカーしている先生と、私」
ピアースは大笑いした。「おかしいですか?」とアシュリーは真顔で尋ねた。
「俺達軍人は、最新の兵器と最強の部隊を率いて未知の強敵と戦う時、最大限の喜びを感じる生き物だ。おかしいよ!もちろん連れていってくれるんだろ!?」




