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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第5章 城巻き姫
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 第5章 城巻き姫


 千代浜市内は混乱していた。

 外出禁止令が出されたため、市民は家に引き籠っていた。軍は市の内外に展開していた。彼らは東から来る坊や軍、西から来る反乱軍、南から来る結城軍を防ぎつつ、市内の反乱をも抑えようとしていた。あらゆる方向に兵を出した結果、どこの戦線も手薄になった。


 千代浜城はテリーアーバイン率いるグレー軍服の親衛隊が守備していた。

 戦闘が始まる前、テリーは城内三の丸矢倉の座敷牢で父と面会した。父は少し頬がこけていたが、表情は朗らかで、笑みを絶やさなかった。


「規則正しい質素な生活。おかげで随分健康になった」

「分不相応な謀を巡らして、主家に損害を与えた罪です。私との関係で罪が軽くなると思わないでください」

「まるで本物のお侍様じゃないか。お義父様(提督)が見たら泣くよ」

「父さんには卑しい金儲けの才能はあっても、武人としての能力はなかった」

「お前は偉いよ。でもお前の主や周りはどうかな」


 父は軍の機密地図を取り出した。そこには部隊の配置図が書かれていた。


「こんな配置、ナポレオンだって上手く行きっこない。無能な主君に命を捧げる価値はあるのかな?お前の同僚は、皆この地図みたいに街を売ろうとしているよ」


 テリーは無言で立ち去ろうとした。「怒るとすぐプイっとなる。お前の悪い癖」とゆるパパ。テリーは看守に「今日から食事を減らしなさい。一日一食、ハッカ飴一個でいい」と命じた。ゆるパパ「ハッカは嫌ああああ!」


 テリーは本丸御殿の大広間で、譜代家老衆に首尾を報告した。この場にいるのは着物姿の老人ばかりで、スーツ姿の議会勢力は全て排除されていた。チンパンミイラの執政は、本来主君しか座れないはずの上座に胡坐を掻いていた。


「敵艦隊は蓮沼を抜錨して千代浜に向かっています。これに岩島の反乱軍も反応して、東西から挟撃する構えを見せています。南はまだ本格的な動きを見せていません」


 上層部は口々に意見を述べた。議論は全くまとまらなかった。


「見えない所で動いているのだ。市内にも相当数のスパイが紛れ込んでいるはずだ」

「坊やと岩島が最初から組んでいた可能性はある。それなら全てが繋がらないか」

「それより魔王だ!このまま引き下がるはずがない!」


 テリーは「恐れながら!」と意見した。


「南は動きません。西は東を見て動いています。まずは東に備えるべきです。どうか私に一軍をお与えください。一族の裏切りは、一族が清算します!」

「馬鹿か!ではこの城はどうなる!」

「お前も寝返るつもりか!?裏切り者一家だな!」

「戦はそう単純に割り切れるものではない。そろばんとは違うのだ」


 執政はアゴをしゃくった。茶坊主が大竹の一升瓶を持ってきて、テリーの前に置いた。


「それで坊やを殺せ。武士は忠義が一番だ。俺が死ねと言えば死ね」


 テリーは一升瓶を持って大広間を退出した。残った上層部は、廊下を歩く彼女に聞こえるように大声で嘲笑った。


「これだから女は!」

「所詮は成金の娘ですよ!」

「ところでご執政。(主君の亘理)伯爵様はどこに?」と一人が尋ねた。

「グズグズ言うから殺した。これまでと変わらん。表向きは自殺と公表する。バレたらお前達を殺す」


 上層部は必死に額を畳に擦り付けた。


「坊やかハゲワシ、最初に来た奴を一度叩いて、それから和平交渉だ。そいつと次に来た奴を戦わせて、勝った方を魔王と戦わせればいい。千代浜は俺のこの手で守り抜いてやる」

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