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想いと許可

ああああ予約掲載予約すんの忘れてたああああ


うわあああああサブタイトルウウウウウウウウウ

 予想外に早く、その機会は訪れた。というより、作られた。それも朝っぱらから。


「おはよう、乙さん」


 下駄箱のところにある、女の子の山。それを見た瞬間に、イケメンさんがいるんだろうなぁと覚悟はしていたのさ。気にしないふりで靴を履き替えたら、山ごとこちらに近付いてきて、その真ん中から私と同じぐらいの背の彼が何とか出てきた。


「おはようございます、柳瀬書記。一年の下駄箱にいるなんて、珍しいですねぇ」


 彼の周囲にいるファンらしき女の子達からの視線を浴びて、居心地は非常によろしくない。わざわざ下駄箱で待っていなくても、連絡先は交換しているのだから、そちらの方で呼び出せばいいのに。

 適当に誤魔化して二人になったところでそれを言うと、彼は全く思いつかなかった、というように目を見開いた。

 何のために連絡先を交換したんだか······。


「······えっと······今、時間、大丈夫?」


 琥珀色の瞳を忙しなく動かして、柳瀬さんが言った。

 彼のおっとりとした顔に反して攻撃的な、瞳の色。周りにくるりとかかっている髪や、健康的な肌が、それを一層引き立てる。誰が何と言おうとも、綺麗な瞳だ。昔彼の周りにいた人は、どうしてこの色を貶せたのだろう。これほどまでに、綺麗な色なのに。


「俺の目、そんなに、好き?」

「ええ、勿論です」

「······うん、そっか」


 彼が安堵したように口元を緩ませるのを見て、ふいに疑問に思う。

 昨夜、前世の恋人は、私のどこが好きだったのだろうかと考えた。なら、私自身は、どうなのだろう。

 ······まぁこれは、考える価値もないか。今私に必要な情報ではないのだし。とりあえず、アンバーくんのことについては······伝えた方が、良いのかな。


「あー、その、アンバーくんの、ことなんですけど······」


 そこまで言うと、安堵した様子の柳瀬さんが、すぐに緊張した表情になってこちらを見た。


「昨夜、教えてもらいました」


 『思い出した』と言っても良かったのだろうけれど、ちゃんと本当のことを言う。誰に教えてもらったのかは彼にも見当がついたようで、それについては聞かれなかった。ただ、「憶えてたんだ」と、恥ずかしそうに言った。

 空の記憶力は凄かったが、彼も彼でよく憶えているらしい。私一人記憶に欠片も残っていなくて、何だかなー。

 私は思い出せないのか確認するように彼がこちらを見たから、すみません、と短く謝る。どれほど頭を探ろうとも、興味がない、大切でないと判断した過去が姿を現すことは、ほとんどない。


「どこまで、教えてもらったの?」

「一応、あの日のことは全部教えてもらいました」

「全部······」


 私の表情から察したらしい。一瞬だけ、何かを恐れるような目で、私を見た後。

 それまでのあわあわとした態度が嘘みたいに、落ち着いた笑みを浮かべた。


「······俺は、あの日からずっと、乙さんが、好きなんだ」


 打ち明けるというよりは、はっきりさせるためにといったような言い方だった。

 何年も想ってくれていたなんて、乙女ゲームなら凄く興奮するシチュエーションなのだけれど、この時ばかりは、一番嫌な答えだ。

 あの日はただのきっかけだったとか、そもそも私のことが好きじゃないとか、そういう答えであってほしかった。十年も前の、私の汚い部分を全く知らない時にできた感情を伝えられたところで、素直に何か受け取れやしない。

 そんな私の思考を読んだかのように、柳瀬さんは小さく笑う。


「俺の目を綺麗って、言ってくれたから、だけじゃ、ないよ。乙さんが、中等部に来た時に、ようやく、君を見つけて、そのときに、改めて、好きになったんだ」


 最後の方は照れながら、でもしっかりと私を見て言った。それに対して真っ先に出てきたのは、昨夜から頭に残っていた、疑問だった。


「私の、どこに好きになれる要素がありますか」


 謙遜とかじゃない。ただただ疑問に思った。


「人当たりの良いところ、とか、友達に対して、優しいところ、とか。それから、自分に自信を、持っているところ、とか。いっぱい、ある」

「そうでしょうか。最後以外、全部違う気がしますけどねー」

「違わないよ。でも、そういうのは、あんまり、明確じゃないと、思う。どこが好き、だとか」


 言われてみれば、確かにそんな気もする。『優しいところが好き』ってんなら、他に優しい人はいなかったのかって話になるし。そういう意味じゃ、顔がドストライクとかの方が安心できるかもしれない。

 顔が好みなんて理由で好きになられても喜べないがね。


「······本当は、卒業式の日にでも、言おうと思ってた、けど。ようやく乙さんが、俺を認識してくれたって、思ったら、半年も、もたなかった」


 私が『アンバーくんの意味を教えてもらった』と言った時から既に覚悟を決めていたのか、彼は躊躇を一切見せなかった。こうなることは、昨日のうちに可能性の一つとしては理解していたのに。

 『目の色を褒めてくれた子』だから好きなんじゃないと、言ったせいで。


「乙さん、俺と、付き合ってください」


 意志が、ぐらついた。

 そのせいですぐに答えられず、特に意味のない言葉だけが漏れる。


「信用できない、だけなら······俺は絶対、乙さんを、裏切らないよ」


 彼らしくないヒーローのような言葉。一瞬混乱した頭が落ち着いてくる。

 良かった。柳瀬さんがここまで言ってくれたおかげで、僅かな可能性に賭けようなんてしないで済む。


「じゃあ柳瀬書記、貴方が私から離れた時は、私に殺されてくれますか」


 私を顔やその辺のつまらないもので判断して、私の本性を知れば嫌いになるくせしてしつこく近寄ってくる輩に、毎度投げかける言葉。

 いつもは冗談だと誤魔化すけれど、今回は誤魔化さない。


「うん、いいよ」


 すぐに返ってきた答えに、口角を上げた。私ごときに、どうしてそこまで執着するのかは分からないが、私を絶対裏切らないと言った彼なら、そう答えると思った。

 たとえ柳瀬さんがこれを冗談だと捉えていようと、今私が求めているのは、『もしも』の時の、許可だけだ。


「ふふ、約束ですよ」


 口元が歪みそうになるのを隠して、薄く笑う。


「柳瀬書記、私も、貴方のことが好きです。これから、よろしくお願いします」


 そう言うと、彼は目を見開いた後、嬉しそうに目じりを下げた。

 彼を信じたワケじゃない。でも、もしかすれば、彼が私から離れても、私は彼を殺したいと思わないかもしれないし。

 何にせよ、彼が許可をくれた以上、遠慮する必要はなくなった。

 こんな付き合い方じゃムードも何もないが仕方ない。こういうおかしな方法でしか、私は安心できない。

 私を好きだと言ってくれる彼に、後ろめたさのようなものを感じる。


「······でも、まさか、乙さんが、付き合ってくれるとは、思わなかった」

「え、玉砕覚悟だったんですか」

「うん、乙さんが誰を、好きなのかとか、全然分からなかったし。それに······信じてくれないと、思った」

「あーいや、別に、ね。信じたワケでは、ないんですけど。柳瀬書記が、『もしも』の時の許可をくれましたから」

「それでも良いよ」

「どうしてですか?」

「だって、もし信じて、なかったとしても、俺が乙さんを、好きな限り、乙さんも、俺を好きで、いてくれるんでしょ」

「勿論」


 即答してから、彼の言いたいことを理解する。それに気付いたのか、彼はどこか楽しそうに微笑んだ。


「俺は、それが凄く、嬉しい。去年まで有り得ないこと、だったから。俺を信じてくれたか、なんて、関係ない」


 ゆっくりと、でも気分が高揚しているのか、普段よりは幾分かはやく喋る。そこには、『ずっと欲しかったものが、自分だけのものになった』という、綺麗とはいえないけれど、ある意味純粋な喜びも混じっていて。

 二回目の人生で、もう何度も実感したことを、また、思う。

 ──────ここはゲームの世界じゃなくて、現実の世界だ。

 攻略対象達(彼ら)は、もはや作られた人格じゃない。当然彼らの思考も、ゲームのように綺麗事だけで構成されているわけでは、ないのだろう。

 ぞわり、と何かを感じた。熱くて不快で、それに反して、どこか気分が良い。

 それが一体何なのかを理解するより早く、突然校内に聞き慣れた音が鳴り響く。


「······あれ、もう予鈴の時間ですか?」


 何事もなかったかのように言えば、柳瀬さんが自分の腕時計に目を遣った。


「ううん、十五分前の、チャイム」

「ああ、よかった。でも、結構時間が経っちゃいましたね。まぁ私が来るのが元から遅かったのもありますけど」

「乙さんは、生徒会室、寄ってく?」

「いえ、もうこのまま教室直行します。用意なんてほとんどありませんけど、一応。朝会が終わってから生徒会室に向かいますね。何かあったらメールか電話してください」

「うん、分かった」


 色気も何もない、普段通りの会話をして別れようとすると、柳瀬さんに名前を呼ばれて、振り返る。

 すぐそこに、琥珀色の瞳があった。その位置で、彼の方がほんの少しだけ、身長が高いことを知る。


「······好きだよ」


 ありふれた言葉を、絞り出すように言った。他人にそれを言うことなんて、滅多にないのだろう。ついさっきもしたやり取りなのに、頬を染める彼を見て、私はいつもの薄笑いを浮かべながら返した。


「私も、好きですよ」


 好きな相手に好きだと伝えるのが当たり前の私にとっては、緊張するような言葉ではない。彼よりも、ずっと軽く出した言葉に、彼は安堵のような、想いの通じた喜びとはまた別の感情を見せた。

 瞬間、あのぞわりとした感覚が蘇る。今度はちゃんと、それが何かを理解した。私は普通の、綺麗な感情だけでは嫌なんだ。もっと、他人(ひと)に言うのが(はばか)られるような、人間らしい醜い感情を、向けてほしいんだ。

 彼は、好意と、所有欲か、独占欲の混じる目を私に向ける。それに、微かな満足感を覚えた。

 ──────私と同等まで、堕ちてほしい。貴方とつりあっているのだと、安心できるように。

 一瞬頭をよぎった醜い願望とは裏腹に、私は『綺麗』に微笑んで見せた。


「じゃあ、また後で」


 柳瀬さんに手を振って、今度こそ別れる。

 彼がそんな何年も前から私を探していたとは、知らなかったな。言われてみれば、中学生のとき、たまにあの人の姿を教室近くで見かけてた気もする。興味がなかったから、気にしてなかった。

 ……何だか、彼と恋人になったという実感が湧かない。嬉しい気持ちはあるけれど、さっきもそんな甘い空気ではなかったし。私と彼の、性格の問題かな。柳瀬さん、あんまそういうイチャイチャラブラブするような性格ではなさそうだし。

 多くの人が登校する時間になってにわかに騒々しくなった廊下を、つい先程のことを考えながら歩く。

 私は一体、柳瀬さんのどこが好きなんだろう。彼も言ったように、明確にする必要はないが……。


「あら」


 後方から聞こえてきた穏やかな声に、足を止めた。


「わ、おはようございます、椿先輩」

「珍しいわね。いつもなら何だかんだで気付いてるのに。どうしたの?」

「あー……くだらないこと考えてて」

「何を考えてたの?」

「相手のどこが好きなんだろうと」

「相手? お友達?」

「いや、恋人?です」

「……ぇ」


 断言していいのかわからず半ば疑問形で答えると、椿先輩は、喉の奥から絞り出したような、掠れた声を出して、ゆっくりと目を見開いた。

 ノンフレームの眼鏡の奥で、髪と同じ黒の瞳が揺れる。


「……そう、恋人が、できたの」

「はい、最近」


 というか五分ぐらい前。


「でも貴女、一生愛してくれるか信じられないから、恋人なんてできないって、言ってたじゃない?」

「あぁ、そうなんですけど……もし離れたら、殺しても良いよって許可を貰えたので」

「……ふふ、何それ。許可を貰えたら、それでいいの?」


 椿先輩が、何故か泣きそうな声で言うものだから、慌てて首を横に振る。やっぱり、許可を貰ったから付き合うなんておかしいからだろう。そう思って相手のことが好きですし、と弁解すると、さらに泣きそうに顔を歪ませる。

 必死に隠そうとしているけど、私がはっきりと読み取れるほどに、分かりやすい。


「椿先輩、大丈夫ですか?」

「ええ。それより、早く教室に行かなきゃね? ごめんなさい、引き留めちゃって」


 ようやく不自然ながらも、彼はいつもの表情を取り繕った。

 一人にしておいてほしいのかな。……椿先輩は、空達や柳瀬さんとは違う存在だが、大切な人ではある。だから、そう悲しそうな顔をしないでほしいのだが。慰めようにも理由が分からないから、何と言えばいいのか分かんないんだよねぇ。


「うーん、理由は分かりませんけど、まぁ……無理はしないでくださいね」


 彼がそうやって誤魔化す以上、深追いはしない。それが許されるほどの関係じゃない。彼がそれをどこかで吐き出すのか、ずっと抱え込むのかは分からないし、口出しすることもできない。

 何もできないが、こうやって頼むぐらいなら、許されるだろう。

 投げやりにも聞こえる私の言葉に、彼はまた泣きそうになりながら、微笑んだ。

 彼の手がのびてきて、ゆっくりと私の頭を撫でる。


「……貴女は本当に、優しいわ」


 彼の呟きに、それは違う、と思ったけれど。

 その声がいつもより僅かに高くて、微かに震えていたから、私は何も言わないことにした。

タイトル、椿先輩の失恋とかにしたかった……椿先輩(´;ω;`)

いやもうほんとこれ諒くんと付き合えたことより、椿先輩が失恋したことの方が重要だよ……。


(そしてこんだけ投稿してなかったくせに次話半分も完成していないという)

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