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交渉

 私達が先程使用していた対話室におけるルールは4つ。

 1つ目。使用する際は生徒会顧問に許可を貰い、鍵を借りること。この際申請書等、特殊な書類を必要としない。

 2つ目。使用する側は用途を説明する義務はない。

 3つ目。鍵は借りた日の間に使用、返却すること。

 4つ目。なお、生徒会の役員及び顧問は、使用者に断りなく入室することが可能である。

 彼らも4つ目のルールを知っていたのだろう。腹立たしい。千尋とのお喋りを邪魔しやがって。


「ご存知のようだけど、一応。はじめまして、乙 綾と申します。今はお見知りおきを」

「「はじめましてぇ~」」

「僕の名前は夏草なつくさ 日向ひなただよ。知ってるでしょ?」


 知ってて当然だと言ってきた彼は『夏草 日向』。『君想』の攻略対象で、双子の兄。生徒会庶務を務めている。

 私と同い年だから、この双子は高1のはず。

 彼の特徴は弟に比べ幼い雰囲気だろうか。

 双子揃ってスキンシップが多いが、日向の方は幼稚園児がじゃれるような感覚なのだ。

 一人称は僕。


「俺は夏草 あおい。君の事は変人って聞いてたけど、本当みたいだね。それについてんの何?狼の耳?」

「いや狐の耳」


 狐の耳を狼の耳と勘違いした彼は『夏草 葵』。『君想』の攻略対象で、双子の弟。生徒会会計を務めている。

 チャラ男役で、女子に対してスキンシップが多い。イケメンじゃなきゃ通報されちゃうタイプの人だ。

 彼は日向に対してそんなにベタベタしていない。その為か、ゲームでは葵に対してもスキンシップの多い日向の方が、より依存している印象が強かった。

 一人称は俺。

 彼らは互いに依存しているが、自分達だけの世界に閉じこもっているわけではない。他の人にもそれなりに執着している。

 だからこそ、自分達にとって居心地の良い空間に異分子が入るのを嫌がり、ヒロインを脅しにくるのだ。

 決して脅しの対象は『乙 綾()』ではない。


「あのねぇ?会長が、君を生徒会に入れようとしてるんだ」


 なのに。


「俺らはそれが嫌なんだよ。だからさぁ······誘われても断れ」


 ダンッと葵が私の背後の壁に片手をつく。睨んでくる彼ら。

 これでは、私が脅されているみたいだ。いや、実際脅されているのか。


「動じないねぇ?」

「動じる要素がないからね」


 日向に答えれば、二人揃って目を細める。

 ごめんね。この件に関しては先約があるんだ。


「結局、答えは?断んの?」

「場合による。ついでにその時の気分にもよる」

「······何でぇ?断る可能性があるってことは、そこまで生徒会に執着している訳じゃないんでしょ?じゃあ良いじゃん、絶対断るようにするだけだよ?」

「悪いね。ある条件を満たせば断らないって決めてるんだ。まぁその時よっぽど生徒会に入りたくなければ断るけど、多分そんなことにはならないんじゃないかな」


 私の返答に日向は目を見開き、葵は困惑している。

 嘘ではないさ。藤崎先生には『生徒会役員が嫌がれば入らない』と言っているのだから。

 ってかいい加減離れてくれないかな。葵が壁に片手をついているせいで影が出来て少し暗いんだ。日向の表情も見えづらいし。


「夏草会計。その体勢、辛くないかい?主に腕」

「は?」

「大丈夫。逃げないよ。だからさっさと話を終わらせよう」


 やんわりオススメすれば、葵は腕をどける。

 物分かりが良くて助かるぜ。

 よし、早いとこ決着をつけよう。

 ここで話してて授業に遅れました、なんて嫌だからな。


「じゃあ結論!私は条件を満たした上で誘われたら、よっぽど嫌じゃない限り生徒会に入る。以上!」


 面倒臭くなって適当に決める。

 前々から生徒会には入ってみたかった。ゲームではあまり仕事の描写はなかったからな。実際はどうなのか知りたいのだ。

 条件については誘う前に顧問の許可を取らなければならないから、その時に先生からいろんな条件を聞くだろう。

 それでもなお、入れようと判断したならば。

 私が入っても彼らに迷惑はかからない、ということだろう。

 まぁ双子が嫌がる限り、条件は満たされんがね。


「なんなんだよっ······ふざけんなよ······」


 唐突に日向が顔を歪めてしゃがみこむ。言葉遣いが荒い。

 一体どうしたんだ?

 怒るかつっこむかのどちらかだと思っていたのに、何故か泣きそうになってしゃがみこまれてしまった。


「日向?」

「夏草庶務、どうしたんだい?私の発言がショック過ぎた?泣くほど私に生徒会に入ってほしくない?」


 そんなに嫌か?ん~、なら生徒会入りは無理だな。

 でも泣かれたのには驚く、というよりは傷付く、という方が近いかな。そこまで全力で拒まれたらお姉さん豆腐メンタルだから落ち込むぞ。


「泣いてないよ。勝手に泣かせないで」


 鬱陶しそうに顔を上げる日向。

 確かに泣いてないな。良かった良かった。


「質問。なんで君はご乱心なんだい?さすがに私の言葉だけとは思えないんだよね。君達ワガママだけど、桐生会長ほど末期じゃないから自分の望みどおりにならないって理由で泣くとは考えづらい」

「君達って、え、俺も?」

「当たり前じゃないか。私を脅しにきてる時点でアウトだよ。まぁ別に構わないけどね。ワガママっていっても、あの人と違って一応は常識が通じる範囲だし」

「······一応ってなんなの。ってか僕がどうなろうが君には関係ないじゃん」

「いや大有りだよ?交渉してた相手が急にご乱心になったんだし」

「そのご乱心って言い方やめてくれない?僕が発狂したみたいだ」

「私からすれば似たようなもんだよ。で?理由は?目の前で取り乱されたら気にしない訳にはいかないんだが······あぁもう時間切れか」


 理由を聞こうとすると、予鈴が鳴る。

 どうしよう。


「仕方ない。交渉はまた今度にしよう。あぁでも君達時間は取れそうかい?生徒会が忙しいだろう」

「······なんとか頑張ってみる」

「やっぱり忙しいのか。ん~、放課後とかはどうだい?君達の仕事が終わってからになるから遅い時間になるだろうが、君達さえよければ」

「君は大丈夫なの?僕らを待ってたら6時とか、遅い時は7時になるよ?」

「構わないさ。許可証の方も問題ない」

「······わかった。じゃあ今日の放課後に」

「了解」

「ねぇ、スマホ持ってる?綾ちゃん女の子だし、あんまり遅くなったら家族とか心配するんじゃない?俺らが遅くなりそうなら連絡するから、番号とか教えて」

「オイ夏草会計、何故急に下の名前で呼ぶんだ」

「呼ばれたくない?」

「······いや、君の呼びやすいもので構わない。別に拒む理由はないしね。後、一人暮らしだから家族の方は心配しなくていい」

「そう?でも連絡はするから教えて?」

「······まぁ交渉相手だしな」


 携帯を取り出して連絡先を交換する。こんな予定じゃなかったんだがな。


「綾ちゃん、僕とも」


 お前も名前呼びか。

 なんだ名前呼びが普通なのか?そうなのか?


「じゃあね、また後で」

「えぇ、一緒に帰ろうよ」

「どうせ同じ方向なんだしさ」

「君達、よく考えてくれ。私は本来君達と関わるはずのない人間なんだよ?もし一緒に帰ったら面倒な事になる可能性が高い。だから私は遠回りして帰る。じゃあね」


 返事を聞くつもりはない。

 授業に遅れないため、すぐに歩き出す。

 結局、教室に入った直後にチャイムが鳴った。よっしゃギリギリセーフ。

 彼らも間に合ってるといいけれど。




 授業が終わり、千尋と話していたら花咲さんが近付いてきた。

 日程が決まったのかな。


「ちょっと用があるんだけど」

「うん、わかった。廊下に出よう。ごめんね、千尋」

「綾ちゃん、授業前には戻ってね?」

「ふふ、ちゃんと戻るよ」


 千尋に断りを入れて、花咲さんと廊下に出る。

 先生といい、双子といい、今日は廊下でよく話してる気がする。


「アンタ、今日の放課後空いてる?」

「完全にではないけど、長話でなければ問題ないよ」

「なら放課後教室で」

「いや、案外残ってる人がいるかもしれないから、別の部屋を使おう」

「だったら談話室使いましょ。あそこって何時まで開いてるの?」

「五時半までだね。今日は六時間目までだし、充分間に合うだろう」

「じゃあまた後で」

「うん、放課後に」


 今日の放課後か。彼らが来るまでかなり時間はあるだろうし、丁度良かった。

 花咲さん、君が何らかの行動を起こしてくれることを願っているよ。明らかな敵意を向けてきて宣戦布告してくれても構わない。逆にこそこそ動いてくれても構わない。

 君は一体どう動く?

二人同時に絡ませると片方が空気に(笑)

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