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閑話 『マスク』。~木住野 崇視点~

 四人でチームを作ろう、とチカちゃんが言い出した。あややの仕事を手伝いやすくするためにも、敵さんにも強さを伝えるためにも、その方が便利やって。

 活動内容は今までと変わらんようやけど、チームの名前言うて、敵さんがウチらに勝てへんことを、分かってくれたら。仕返しをしなくなったら、あややの負担を減らせる。


「正式に組むのか? あたしは良いと思うぞ」

「やんな! 最近の若いもんは自分らのレベルも分かっとらんからな、メッチャ強そうなチーム名にして、『あ、詰んだわコレ』って思わす手伝いしたらんと!」

「······それやると、君達にも被害が出やすくなるよ」


 嫌そうな顔。でも、どうせ押し切られることは分かっているんやろう。「大丈夫だ、問題ない」との言葉に、不安げな顔をしただけで、反論はしなかった。


「チーム名何がええかな」

「『魔王』とか強そうじゃね?」

「そんなんあたしらが悪者みたいやん! せめて『勇者』にしようや」

「······君達、想像してみなよ。そのへんの雑魚と戦うときに、『くっ······誰だ、てめぇら!』『あたしはチーム勇者の一員、ユキや!』『勇者······ハッ、あの有名な⁉』『兄貴、逃げやしょう! 俺達に勝てる相手じゃありやせん!』······こんなのが、良いの?」

「ちゃう、そんなんちゃうねん! 自分から名乗るんやなくて、『ハッ······その仮面、まさか······勇者か⁉』みたいな感じでさぁ!」

「どっちもダサいよね。口に出してるあたりが、ものすっごくダサい」

「キャシー酷ない⁉」

「とりあえず、名前は決めとくに越したこたねぇよ。綾に仕事出す人らが、『今回の相手は数が多いから、あー、ほら、仮面仲間の。あの子たち呼んだ方がいいと思うよ』って言うんだぜ」

「仮面仲間は嫌やわ······。仮面オタクが集まっとるみたいやん」

「じゃあ『漆黒兵器』と書いて『ダークネスダークネス』とか中二病感MAXで良いと思う」

「······冗談だったとして、お前何でそんなのがパッと浮かんだんだよ」

「二つ名メーカーってのがあって、適当に文字打ったら中二病って分かりやすい名前生成してくれんの。こないだ見つけて遊んでたら出た」

「『漆黒』も『兵器』も『ダークネス』なんやな」

「それ思った。······いや、そこやなくて。中二病はあかんと思うわ、うん」

「やったらさ、仕事の時の名前を全部ローマ字にして、一部とって『キャロライン』」

「ふざけとんの?」

「キャシーの影響強すぎだわ。ってかキャロラインってつづりなんだっけ」

「あやや、紙とペンある?」

「はい」

「ありがとう。······たしか、こうやったと思う」

『Caroline』

「······『L』は誰も持ってねぇな」

「そこはもうローマ字でええやん!」

「人名って時点でアウトやない?」

「えーっ、じゃあ、何にするー?」

「あ、私ひらめいたかもしれん」

「あーちゃんすげぇ! 何なん?」

「『マスク』とかどう?」

「仮面じゃねぇかよ!」

「でも、一人一文字ずつ、上手いこと入ってんだよね」

「······マジで?」

「『M』はミオ、『A』はカレン、『S』はソラで『K』はユキって考えたら、いけないことはない」

「実際、もうあたしらのこと『仮面』とか呼んどる奴らもおるしなー」

「チーム名って言っても、そんな頻繁に出すわけじゃないし。考えるの面倒だし、これで良くね」

「絶対二個目がすべてだろ」

「いいじゃん別に~」

「······まぁ、構わねぇけども」

「なぁなぁ、名前決まったんやったら、ちょっと聞きたいことあるんやけど」


 いつも通りニコニコしながら、チカちゃんが話題を変えた。

 次に出される話題は何なのか、ウチとそらりんは知ってる。夏祭りの日、あややを家まで送ったあとに、話したから。

 少し眠たそうなあややは、先程よりほんの少し張り詰めた空気に気付かない。ただ、チカちゃんを見て、首を傾げた。


「聞きづらいこと?」

「聞きづらいってワケやないよ~。あんなー、あーちゃん好きな人会うたやろ。あ、恋愛感情の『好き』な」

「夏祭りの時のこと? 会ったねぇ」

「否定しねぇのかよ!」

「隠すようなことでもないからねぇ。それがどしたー?」

「いや、別に止めるつもりはないけど、あーちゃんがシクシク泣いとる姿を、進んで見る気はないからさぁ」


 あややが苦笑する。


「大丈夫、抑えられなくなりそうだったら、消すよ」

「んー、せやなぁ、こっちはあーちゃんが傷つかんかったら、それでええから。······もちろん、恋人なって、裏切られて、あーちゃんが自分の望みに従っても、別にかまへんで」

「ふふ、嬉しいね。遠慮なく、そうさせてもらうよ」


 濁した言葉の意味を、ハッキリと汲み取ったらしい。あややは、言葉の真意と裏腹に、無邪気な笑みを浮かべた。

 恋人に何らかの形で裏切られたあややが、するであろうこと。それは、この場にいる四人全員が、理解しとる。

 一言でいうならば、恋人の殺害だ。

 今まであややが恋人を作ったんは前世で一度だけらしいから、裏切られて殺したくなるって確信はできへん。自分に好意を向けなくなったら、一瞬で相手に向けていた好意が消えるというあややのスタイルから考えても、違和感を覚えるし。

 でも、そこはやっぱり、『友達』と『恋人』の違いからだろう。あややが全力で好意を向けるのは同性の子ばっかやから、そういうのもあるんかな。

 何にせよ、そう人をポンポン消してられへん。だからあややは、最初の恋人と一生愛しあいたいと願ってる。人を消すこと自体は簡単でも、そのあとの処理が面倒やし、最近は足がつきやすいからだ。

 当たり前やけど、あややが『手伝って』言うたら、ウチらは迷わず手伝う。でも、法律は犯さんに越したことはない。


「綾、危なくなったら、ちゃんとすぐに消せよ?」

「分かってる。だけど、消すのはあんまり好きじゃないからさー。あの虚しさは、どうもねぇ」

「お望みとあらば、夜の相手もしますぜ主ィ☆」

「······それは、『チカに抱きしめてもらえたら、安心して眠れるだろうね』と答えるべきか、『下品』とバッサリ切るべきか」

「前者」

「「後者」」

「多数決で後者だね。チカ、下品」

「これは多数決で決めることやないと思う!」


 酷いわぁ、と言いながらベッドに倒れるチカちゃんを、そらりんがからかう。それを笑いながら見ていると、騒ぐ二人を余所に、あややがこちらに近寄ってきた。

 あややの長い指がこちらに伸びてきて、ウチは目を瞑った。

 ひんやりしたものが、目蓋越しに眼球を撫でる。でも、こちら側から熱を分けるだけで、奪われていくことはない。

 あややからしたら、逆に熱が一切移ってきてない気がするのかな。

 そう思ったところで、指が離れた。


「······どうしたの?」

「恋人、作ってほしくない?」


 彼女の問いに、少し悩む。

 本音を言ってもええんやろか。常識的に考えて、これは本人に言うべきことやない。あややも、言うことを強制はしてへんけど······。

 まぁ言っても、あややはウチを嫌わへんと思う。


「うん、本音はね。作るなとは言わへんけど。恋人ってことは、つまりウチらぐらい大切な存在ってことやろ? 下手したら、ウチらよりも。そいつとばっか一緒におったら、そら嫌やわ」

「ああ、なるほど。同棲とか始めたら、家で集まりづらくなるよね。でも······こういったらアレだけど、キャシーが恋人を作ることはないの? 空もチカも、当分無理そうだけど」

「当分じゃねぇ、一生だ」

「そらりん、急に入ってこないでよ」

「良いだろ別に。あのな、綾、あたしは前世からマシンが恋人ってやつなんだよ。それは今でも変わらねぇし、第一、お前とチカ、キャシー以外は、どうでもいい。あたしの親だって、何も悪いことしてねぇけど、昔からどうでもいい。もう地面歩いてるアリと同レベル」

「あたしら、どうでもよくないんや······! ってかさりげにアリさん馬鹿にしとるな」

「綾が一番だけどな。まぁ、お前らも大事だよ、そりゃあ。あとアリは馬鹿にしてねぇぞ」

「そーちゃんがデレた······だと······⁉」

「うるせぇ。······とにかく、分かったか?」

「あーちゃん、あたしら三人が恋人作っても、絶対長持ちせぇへんで。恋人作っても、やっぱりあーちゃん一番やろうから」

「いや、恋人作ったら、さすがに私だけ一番とはいかないだろう?」


 あややが困ったように笑うのを見て、ウチらは首を傾げた。


「「「何で?」」」


 二種類のイントネーションが混ざる。


「あややは、ウチらの生きる意味そのものやのに」

「ああ、綾はあたしらだけが一番じゃなくていいし、理解しなくてもいいからな」

「せやせや、否定せんでくれたら、それでええ」

「否定はしないさ。ただ、そこまで想ってもらえるとはねぇ」

「もしこっちが恋人作るとしたら、多分あーちゃんやで!」

「何? 君、私に恋してるの」

「ちゃうよー、でも、色んな気持ちが混じってるからさぁ、ただのフレンドじゃないんよ」

「『色んな』って、例えば?」

「愛してるし尊敬してるし思慕してるし服従してる!」

「よくパッと思いつくな、お前」

「最後の単語が気になったんやけど」

「あーちゃんの『友人』になったときから、こっちはあーちゃんに正式に服従しとんで☆」

「『正式に』という言葉が引っかかったのは私だけかな」

「······結局、キャシーは恋人を作る可能性、あんのか?」

「ん~······ないんちゃうかな。好きな人はできるかもしれないけど、さっきチカちゃんが言ったみたいに、ウチ、恋人よりあやや優先するだろうから」

「ふふ、ま、君達がいやいや私に縛られてるワケじゃなかったら、それでいいや。さ、ゲームしよ。前、知り合いにボードゲーム貰ったんだ」

「え、誰からなん?」

「グイさん」

「あの人? ホンマ仲ええなぁ。浅······なんとかってところの、親分? 若頭? とにかく偉い人やったよな」

「うん、そうだよ。やろ」


 あややに手招きされる。

 ウチらは、階段に向かった。

この小説はフィクションであり、実在の人物・団体などとは一切関係ありません。また、殺人・自殺など、反社会的行動を推奨するものではありません。

なんか怖くなったんで、一応。


ちなみにグイさんのイントネーションは、グ↓イ↑さん。

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