手札
冬休み?ナニソレオイシイノ?
「······乙さん、強い」
「柳瀬書記も、普通に勝つじゃないですか」
「でも、やっぱり、強いなぁって、思う」
「別にスピードは得意じゃないんですがねぇ」
机上に散らばったトランプを回収して、まぜる。一回のシャッフルは好まない人も多いから、複数回、違う方法を組み合わせて行う。
「乙さん」
「はい」
「カシノって知ってる?」
「カシノ? トランプの?」
「うん」
「ええ、知ってますよ。やりますか」
首を縦に振る。
カシノは、簡単に言えば、手札と前に出されているカードで同じ数字のものを探し、取っていくゲーム。とはいえ、実際はもう少しルールがある。知らない方は、偉大なるグー●ル先生にでも聞いてくれ。
「生徒会で、知ってる人、いなくて。説明も、面倒だから」
「マイナーではないと思いますが······。カード、私が配りますね」
「ありがとう。有名なのは、ババ抜き、ジジ抜き、大富豪······スピードも?」
「スピードは比較的有名ですけど、トランプをほとんどしない人は、知らない事も多いですね。大富豪も、名前だけ知ってるけど、ルールは面倒だからって人もいますし」
「ババ抜きと、ジジ抜きで、大体は、充分だもんね」
「スピードはともかく、大富豪は知っておいた方が良いとは思いますけどね~」
あ、ダイヤの10取られた。まぁいいか。
「スイープ!」
「え、初めて、見た」
「ただし、得点はダイヤの10取った方が多いっていうね。難易度と価値が一致してない、なんとも悲しい現実」
「ふふ、でも、スイープは、カードでの得点、取りやすいから」
「ああ、たしかに」
「······しかも、取ったの、全部エースだし」
「イカサマはしてませんよ? 完全なる偶然です」
「次の、勝負で、勝つ」
「もう勝負放棄!?」
「全力で、やるけどね」
「よかったー」
一ラウンドを終えて、得点を計算する。9対3。
案外差は小さいな。
「これなら、いけるかも」
「あと2ラウンドありそうですねぇ」
「カード運が、大きく出るよね、これ。コンピューター、は、カードが、悪いから、嫌い」
「アレ絶対こっちが勝てないようにしてますよ! もはや陰謀ですよ、あっちの勝率の高さは!」
「俺も、そう思う。やってて、イライラして、くる。でも、ルール知らない人、多いから」
「捨てたカードが多すぎて、机からはみ出る······」
「······大丈夫、俺が、取るから」
「それはそれで嫌な宣言ですね。······うわー、ホントに嫌な宣言だったわ」
柳瀬さんが、机上に並べられたカードから一気に5枚取った。元々机の上にあったカードが多かったから、スイープではないが······。
またサラッとダイヤの10取られた。
「······え、今何取りました?」
「スペードの、エースと2、クラブの3、ハートの4、ダイヤの10、手札の方は、クラブの10」
「スペードの2も取られたぁぁぁッ」
「このラウンドは、俺の勝ち、だね」
「こ、これは······第4ラウンドまで行きそうな予感が······!」
会話をしながらも、パタパタとカードを動かしていく。
結局、ゲームは4ラウンド目に21対20で、ギリギリ私の勝ち。
3ラウンド目で追い越された時は、結構焦った。運要素が大きすぎて、最後の方まで気が抜けないんだよなぁ。
「もう一回やります?」
再びカードをきりながら、柳瀬さんに尋ねる。いろんなトランプをしたことがあるから、多分柳瀬さんが知ってるやつは、私も知ってるんじゃないかな。
充分にきって、軽くカードの端を揃える。
そこでようやく、柳瀬さんが私を見ていたのに気付いた。
「······どうしました?」
私の問いに、彼は表情を変えることなく、言ってのけた。
「綺麗だな、って」
何がだろう。
褒め言葉であることは、彼の言い方から理解した。問題は、何に対してか、だ。
今私が背にしているのは壁。ただの白い壁。彼がただの白い壁を褒める趣味がなければ、彼の目線からして、私を褒めていることになる。
だが、今日私は特別な装飾をしているワケではない。
「何がですか」
「······全体的に?」
「疑問形で言われましても」
「······色?」
「壁の?」
「ふッ」
私の返答に柳瀬さんは小さく吹き出し、ピクピクしながら笑いをこらえている。
「ち、がう」
「ですよねぇ。いや、一瞬、壁に向かって言ってんのかと思って」
「ふ、何で、そうなるの」
「唐突に貴方が褒めるポイントが見当たらなかった」
「前から、思ってる」
「結局、何の色が綺麗なんですか」
「たくさん、あるけど······一番は、瞳」
「この色ですか? ふふ、私も気に入ってるんです。親と同じ色とか、そういうのじゃなくて······単純に、ダークブラウン以外の瞳の色、ですから」
「······俺の、瞳も、好き?」
「はい、大好きです。なんか、攻撃的な色で。別に『吸い込まれそう』とかは思いませんけど」
上手く表現できないが、『ふつくしい······』と言いたくなるんだ。
「変態丸出しで言っちゃいますと、柳瀬書記がこっちを睨んだら、興奮しそうです。目付き悪いプラス攻撃的な瞳の色って、最高じゃないですか!」
「······睨もうか?」
「んー、遠慮しときます。やるんなら、敵意剥き出しのガチ睨みが良いです。でも、それやられると、勝手な話ですが、柳瀬書記と関わる気が失せるので」
「······やらなくて、良かった······」
「そうですかー」
目を逸らした彼に、軽く笑って返す。なんとなく仕事をしようという流れになって、彼にトランプを返した。
いつも通り、静かだ。
全員で作業しているときは、賑やか······というか、騒がしくなる。全員とはいかずとも、日向や葵と一緒のときは、結構話す。
会長も、それなりに話すかなぁ。主に家族関連のことで。この前は、会長のご両親が、クラス二位&学年五位のお兄さんを褒めちぎっていて、クラス一位&学年二位を取った会長を貶したから、『お前ら(会長のご両親)は単純な計算もできないのか』と逆に見下してやった、と嬉しそうに報告してくれた。
副会長とも平穏な話をよくする。あの人は、話せば話すほど、腹黒要素が見当たらないんだよねぇ。一時的に『僕ほど知的な奴はいない』『愛想笑いを浮かべる僕は、周りのやつらよりも社会を理解している』と思い込んでいただけで、根っこは純粋だ。
彼と話すたびに、私と副会長は全然性格が違うなぁ、と思う。ホント、彼の思考がクリーンすぎて、自分がどれほど人間の屑なのか、再確認させられる。
性格直す気ないけどね!
藤崎先生は、担当が生物ってこともあって、温室のことをよく話す。元々、二人っきりで仕事をすることは、ほとんどないが。
そういうのを考えたら、ここまで静かなのは、柳瀬さんくらいかな。彼が落ち着いた雰囲気だから、私もはっちゃけないし。
「柳瀬書記」
「どうしたの?」
「文化祭の便りで、下書きが一種類足りなくて」
「え、ちょっと、待って。······ごめん、俺が、持ってた」
「いえ、私がなくした、とかじゃなくて良かったです。下書き、完成してるようなら、早速打ち込みますが······」
「うん、お願い。······あ、ごめん。一つ、頼んで、いい?」
「はい」
「枠部分、なんだけど······」
柳瀬さんが、こちらに身を乗り出す。両方座ったままでは、説明がしづらいからだ。
だが、そう細かく距離の調整が出来るわけもなく。自然、距離が近くなる。
作業中だと、よくあること。······だがな。
柳瀬さんは特別だ! 何故かって?
アンバーの瞳が近くで見られるからだ!
頼めば彼は嫌がることなく、好きなだけ見させてくれる。でもね、それとこれは別なんだよ! いや、一緒だけど!
とにかく私は嬉しいのさ!
「······聞いてる?」
「はい。枠組みのデザイン変更ですよね」
「······聞いてるなら、いいけど。······何、見てたの?」
「柳瀬書記の目です」
「それだけ?」
「え?」
「他の場所も、見てた」
す、凄ぇ······。視線外したの、ほんの少しの間なのに。
そもそも、柳瀬さんがこっちの視線の先に気付いてたことに驚きだよ。
「よく分かりましたねぇ······。柳瀬書記、こっち見てなかったのに」
「見てたよ?」
「······うそん」
「本当。さっき、何、見てたの?」
「ん~、柳瀬書記のヘアピン見てました~」
片側だけに留められている、二本のヘアピン。片方だけですべての前髪を抑えることはできず、というか、抑える気もないようで、反対側はそのままおろしている。そこまで長くないため、目は隠れていない。
ただ、ちょうど毛先が睫毛にかかるぐらいの長さで、目に入らないのだろうかと心配になる。
「前髪、目に入りませんか?」
「あんまり、気にしたこと、ないかな」
「じゃあ、何でヘアピンを?」
「······それは、ほら」
やや、言いづらそうにしたあと。
「せっかくの、この瞳、隠す必要、ないでしょ?」
照れながら、でも、ハッキリと断言する。
私は、その言い回しに違和感を覚えた。いや、違和感というか、なんというか。私のセンサーが、反応した、というか。
ゲームの『柳瀬 諒』には、ありえない言葉だからだろうか。
······まぁ、どうでも良いね、そんなこと。
「勿論!」
これだけは、反論の余地がない。
即答した私に何を思ったのか、彼は嬉しそうに、でも、少し残念そうに、笑った。
ここまで言っても思い出してもらえない諒くんカワイソス。




