Liar
短めの、閑話のような、閑話ではないような、そんなお話です。
『順番が逆って事?』
そう聞いた彼に、私は『正解』だと答えた。
いや、そもそもここから始めるべきじゃない。ううん、そんなこと、関係ない。だけど、ただ、私が、もやもやしてしまうのだ。
ベッドに転がり、左手に持っていた携帯の、電話帳を開く。
······彼に言ったことは、間違いじゃない。彼は、私のたとえを正しく理解したのだから。
でも、でも。間違っては、ないんだけど。
そういう意味だけではないんだ。
『もしもし』
「······空、暇?」
空。今では、私の大切な友人。愛しい親友。
三人の友人達の中で、最初に友達になった人で、唯一、『正直に誘った』人。
『綾の頼みよりも優先させるほどの用はない』
「じゃあ、そこまではいかずとも、こなさないと後が面倒だなぁって用は?」
『······仕事もねぇし······生徒会の方も、まだあたしが休んだだけで成り立たなくなりはしない』
「そっか。ね、うちに来てよ」
『用事なんて聞かなくても、お前が望むなら絶対に行くのに』
「絶対に来てほしいほど、弱り切ってはいないさ」
空に限らず、友人達は、私に甘い。自惚れではない。彼女らが以前、断言していた。
私に尽くすのは、そうしたいからだと。
······私達はよく、漫画のセリフのような言葉を言う。厨二病だとか、気持ち悪いとか、色々言われたことがあるけど、仕方のない事なのだ。すべて、本心なのだから。
前世からは想像できないほど、幸せな生活。
二度目だからこそ手に入れることの出来たこれらを伝えるには、どうしてもクサい言葉を吐くしかないんだ。
『チカとキャシーは?』
「呼んでほしい?」
『どっちでもいい。四人でも、二人でも、楽しいからな』
「なら、呼ばないね。こんな時間だし、大人数で騒ぐのは、ちょっと」
『了解。バイクで行く。じゃあな』
「ん、待ってる」
彼女を家に呼ぼうと思ったのは、ついさっき。部屋は片付いていないし、特別な用意もしていない。
だが、構わない。他の二人も含め、私達はすべてを隠さずに付き合っているのだ。そりゃ、何もかもを話すわけじゃない。でも、隠すのは小さな事だけ。たとえば、ゆうべ見た夢の内容とか。
当然、普通に築いた関係で、何もかも隠さないなんて、出来るわけがない。
そんな細かいところでも、私達の関係が奇妙なものであることを表している。
そして、その築き方が原因で、今私はもやもやしてるのだ。
······ある意味、的を射た発言をした彼に、あの場の高揚にのせて、話してしまいたくなった。
たしかに、順番が逆なのだと。
でも、逆なのは『そこ』からではないのだと。
「······来た」
微かに聞こえた音に縋るように、窓へと向かう。
じっと下を見ていれば、やがて、一台のバイクが姿を見せた。
空のバイクだ。
彼女は上を向いて私を見ると、バイクを道路の邪魔にならないようにとめてから、家の鍵を開けた。
「綾。手、洗った。風呂は入ったか?」
「うん」
「んじゃ、シャワー借りる」
「いってらっしゃーい」
空がシャワーを浴びている間に、ベッドにもう一つ枕を持ってくる。
GWにチカからもらったアロマを焚いてたら、空が寝巻に着替えて部屋に入ってきた。
どうしたのか、と尋ねる空に抱きついて、寝よう、とだけ返す。空は私の頭を撫でて、重いであろう私を抱き上げた。
高校生にもなって、だなんて、顔を顰める人がいるかもしれない。
······だけど、そんなことは気にせず、私は甘える。ただ、甘える。幼い子供のように。
「好き」
「あたしも好き」
「空、ありがとう、誘いにのってくれて」
「······綾、ありがとう、あたしを見付けてくれて」
私の言葉も、空の言葉も、はたから見れば、意味の分からないもの。
でも、ちゃんと、意味を成しているもの。
「おやすみ」
三白眼を細めて笑う空に何か返すことなく、目を閉じる。
口に出すだけなら、一人で呟いていればいい。
理論上は、そうだ。
······気持ちの面でそうじゃないから、空に来てもらってるんだけど。
「違うんだ。······話し切れていないんだ」
一方的に吐き出した言葉を、空は黙って聞いている。
怒ることなく、静かに私の髪を梳いている。
「逆なんだけど、そうじゃなくて。そうじゃなくてさ。······私は、愛されたかったんだ」
二度目を始める前から、気付いていた。
別に、親に愛されたかったとかじゃなくて。
「空達がしてるみたいに、全力で」
醜い欲望だ。
自然と出来た友達と仲良くしても、ダメなんだ。
もっと、もっと、重い愛を。
「私が、空達を、友達にしようと思ったのは」
それを、与えてほしかったからなんだ。
空は、私が最初に頼んだ人間。
嫌だと、断って当たり前だ。
でも空は、受け入れた。
『お前を探してたんだ』、と。
正直に頼んだのは、空だけだ。チカとキャシーは、空に『ビビッときたんなら、あたしみたいにハッキリ言わなくても大丈夫だろ』って感じですすめられて、普通に声をかけた。
「どう説明すればいいのかな」
上手く説明できないけど。
相手が好きだから、愛してほしくなったんじゃなくて。
「──────愛してほしいから、好きになったんだ」
懺悔ではない。責められたいわけじゃない。
ただ、話したくなったのだ。彼の問いを、誤魔化してしまったから。
「分かってる。全部、分かってる。それでも、あたしは、あたし達は、お前を愛して、お前に愛されて。幸せだから、いまだにお前に纏わりついてるんだ」
綾のそばにいるのは、あたし達の意志だ。
そう言う空に、私は一言だけ返した。
「おやすみ」
物語を進めるお話ではないので、様々なものがあやふや。
グダるのを防止するためにも、異例の連続投稿。今後する予定はないです(見切り発車なので)。




