基準がなければ
「言い忘れていた。私の意見はその時の気分によって若干変わる。それも頭に入れておいてくれ」
真剣に頷く日向。葵もこちらに興味を示している。
──────だがすまんね。
「と、いう訳でこの話は後回しだ」
「「どういう訳で!?」」
目を見開いてつっこむ二人。そういうノリ好きだよ~。
でも、先に残りのものを何とかしときたいんだよね。
「他の事を整理してからの方が余計な混乱を防げるかもしんないでしょ」
にっこり笑ってみせるが、二人は呆けたままだ。ねぇ、もう話を進めていい?
「とりあえず別の話をしよう。とは言っても後はパパッと終わっちゃうんだよね。『僕は葵も会長達も好きなつもりだ』ってのはさっきの問題の答えがわかれば自然と解けるものだし。『自分が考えていることの意味がわからない』ってのは混乱しただけだし。······おや。では答えを求めるのは先程の問題だけになったね」
彼らを見れば、彼らは既に覚醒していて、私の話についてきていた。
それじゃあ一緒に考えましょうか。
「この問題についてだけど。コレ、本当に意見が割れるんだよ。執着心が人並みの者以外にも、執着心が強いと自覚している人で、自分の執着は愛ではないと判断する者もいる。結論だけでなく、その結論に至る過程も実にバラバラだ」
執着の仕方・理由は人それぞれだ。面白いほどにたくさんのパターンがある。
「私の答えに納得しようがしまいが、ちゃんと後で自分で考えてみてほしい。そしてその結論と理由を私に教えてほしい」
「僕達が正しい答えを出せているかどうか確かめるために?」
「んな訳ねぇだろ。正しい答えなんざ知ってる者はいない。強いて言うなら、そいつが心の底から満足出来る答えがそいつにとって"正しい答え"だ」
······あれ?『本当の愛』かどうか答えるだけなら、私の考えの汚い所は言う必要ないんじゃないか?あの部分は私の執着に関しての部分だし······。
なーんだ。特に心配する必要なかったのか。あー非難されるかもとか色々心配して損した。
うっわ心配事無くなったら頭痛が酷くなった気がする。明日収まってると良いなぁ。
「勿体振るだけの価値もないし、とっとと話そっか。先に言っとくと、君達の執着はれっきとした愛情だ。だって、相手のことが好きだから執着するのでしょう?それを『愛情』と呼ばずに何と呼ぶんだい?」
葵は自分の感情は一種の愛情だと理解して、納得している。が、日向は違う。だからこの確認は必要なのだ。
「夏草庶務、混乱してないね?」
「うん。なんかね、凄く安心した」
「そっか。じゃあ、本題に入ろう。君達の執着は愛情ではあるが、『本当の愛』でもあるのか否か。私の答えは『わからない』だよ」
「「え?」」
またもや呆けた様子の二人。
面白いねぇ。
きっと、『本当の愛である』か『本当の愛ではない』のどちらかの答えが出ていると思っていたのだろう。だがね、私は今の手持ちの情報だけでこの問題に明確な答えを出したくないんだよ。
肝心な情報を、私はまだ手にいれていない。
まぁ手にいれようともしてないけどね。
「『本当の愛』の基準を知らないから、何とも言えないんだよね~。それに私、依存が『本当の愛』と言えるかなんて、真剣に考えるつもりないし」
「え、え、えええええええ!?」
「夏草庶務、五月蝿い。叫ばないで」
「ご、ごめん······」
そんな驚く部分なんてあったか?私は普通の事を言ったまでだぞ?
「綾ちゃん、その、何で考える気がないの?」
「いや考える気が全くないわけじゃないんだけど、この問題解いてて面白そうじゃないし。別に依存が『本当の愛』じゃなくても、私にとってどうでもいいというか」
無責任に聞こえるかもしれないが、コレはすぐに結論が出てしまって、面白くも何ともないんだ。花咲さんが彼らの気をひくために言った言葉だから、何か深い意味があるわけじゃないし。
「もし君達の執着が『本当の愛』ではなかったとして、それが君達のこれからの人生に関係するのかい?君達の執着心がなくなるのかい?」
「······ううん、関係しないし、なくならない。でも、僕達が誰かに執着しちゃうのを隠さなきゃいけなくなるかもしれないじゃん」
「んなモン知るか。自分の執着心を隠すか隠さないかは自分自身で決めりゃあ良い。ただ、君は考えすぎだ。考えるのはいいが、取り乱すほど悩んじゃいけない。本当の愛ではないイコール悪いって訳じゃないんだから、もう開き直ってしまえばいい」
今のご時世『本当の愛』だの『真実の愛』だの言う方が白い目で見られんのよ。執着心が強い人間なんてザラにいる。彼らが気に病む必要はない。
「君にとって重要なのは、君の執着は愛情かどうか。『本当の愛』かどうかじゃないんだよ。だから君は『僕は葵も会長達も好きなつもりだ』とか言ってたんでしょ」
「······あ、本当だ」
「『本当の愛』かどうかを気にしてるんだったら、自分が相手を好きなことは確定してるんだから、『好きなつもりだ』なんて言わないのよ。君が気にしていたのは、自分の執着が愛情かどうかだったの。だから相手を好きかどうか自信がないような発言をしたんだよ」
葵が目を見開いてこちらを見る。
何だ、気付いていなかったのか?意外だな。全てをわかった上で日向に何も言ってなかったのだと思っていた。
「夏草庶務、もう君の執着が愛情かどうかは分かったよな?」
「うん、綾ちゃんの答えに、納得したから」
「じゃ、三つ目の答えも出ただろう。『僕は葵も会長達も好きなつもりだ』。さて問題です。君は彼らを好きでしょーか?」
「はい。好きです」
「ん、きっとそれで正解だろうよ。······君達はマトモな人間だ。多少執着心が強いからといって、それは特に問題にならない。年を重ねるにつれて、自分の執着心の扱い方も分かっていくさ」
相手に構ってほしい。
相手に嫌われたくない。
ただ、それだけなのだ。彼らの執着の根本にあるものは。幼くも、多くの者が持つ欲求。
その欲求だって、相手への好意から生まれたものだ。
大丈夫。その順番が逆にならない限り。
「──────私よりは、ずっとマトモさ」
時計を見れば、7時少し前。話は終わったのだし、もう残る必要もない。
「用は済んだし、私は帰るよ。君達はまだ用はあるのかい?」
「葵がここの鍵閉めて、それを元の場所に持って行くだけ」
「そ。どうする?校門まで一緒に帰る?」
「俺、綾ちゃんを家まで送るよ?」
「いいよ要らない。元の場所ってどこ?」
「第一職員室だよ~」
「よし行こっか」
部屋を出れば、廊下にはまだ電気がついていた。暗いのは好きじゃないから助かる。
「じゃあ綾ちゃん、ちょっと待ってて」
「いってらっしゃ~い」
シャラ、と鍵の束を振って葵が職員室に入る。
「やっぱり、君達もいつも一緒って訳じゃないんだね」
「当たり前じゃん」
「だろうね」
いつも一緒にってのは生きづらいだろうしね。
日向と話しながら葵を待っていると、ドアがガラリと音をたてて開く。
「······乙、さん?」
うげ。柳瀬さん。まだいらしてたんすか。ってか私をご存知なんですね。わぁうっれすぃ~☆
······うんまぁとりあえず。
「はじめまして?」
「あれ、綾ちゃんどうしたの?」
「君の前に柳瀬書記が出てきたのだよ夏草会計」
「やなりんが?······うわぁ」
いや特に何もなかったよ?焦っただけで。
彼には軽く自己紹介をして、『今私がここにいること、他の人には内緒にしてください』と約束をして別れた。凄く穏便に終わった。この双子とは大違いだ。
おそらく彼は私に興味がないからどうだっていいのだろう。
「じゃね~」
校門を出たところで彼らと別れようとする。が、日向に右腕を、葵には左腕を掴まれる。
「待ってよ」
「俺、送るって言ったよね?」
私、要らないって言ったよね?
「······本当に近かったね」
「だから言ったじゃないか。一分だと」
「それでも女の子なんだし、気を付けないと」
「こんな格好の奴を襲おうなんて誰も思わないさ。でもまぁ送ってくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
「またね、綾ちゃん」
「またいつかね。······御休みなさい、夏草庶務、夏草会計」
彼らに手を振って家に入る。ただいま、と告げても返ってくる声はない。
机の上の携帯電話に目を向ければ、時々光が点滅している。
誰かから連絡がきているようだ。
「お、仕事だ」
内容に目を通し、台所へ向かう。
今日の夜ご飯は何にしようか。
やっと双子のターン終わったー!なんと糖度の低い話なんだっ!甘ぁい展開を書きたいのに!
中学生に哲学は書けないwww




