第八話
魔王によって放射された魔力が衝撃波となる。
タンネはそのあまりの風圧に、立っていることもできずに悲鳴を上げて吹き飛ばされ、分厚い城壁に背中を強かに打ちつけてしまった。
「がはッ」
それだけのこと。
たったそれだけのことで。
開いた口から血が飛び散った。
わき腹。
激痛。
肋骨が折れ、肺にささっているのかもしれない。
勇者ユウト。
勇者ユウヤ。
勇者クリス。
勇者アヤセ。
従者コルト。
リュービにヴァミ、そしてシルクも。
周囲を見渡すと、 全ての仲間も同じように壁にもたれかかっている。
人間も魔に属するものも等しく。
魔法の扱いに長けているタンネは魔王のあまりにも圧倒的な禍々しい魔力を敏感に受け取り、恐れおののいた。
この魔力。
明らかに魔に属する邪悪なものだった。
瀕死のダメージ。
ずるり。
意図に反して壁を背に身体が倒れようとする。
それを、必死に震える足で壁を使って支えた。
まだ始まったばかり。
始まったばかりなのにっ!
焦燥。
しかし彼女は一人の勇者によって救われた。
「オールヒール!」
心拍機能停止の危険性を脳に警鐘するシグナルは、勇者アヤセの回復魔法によって完全回復した。肋骨の辺りをさすっても全く痛みも違和感もない。
この短期間で!
勇者アヤセの成長に感謝した。
「ありがとうございます!」
「まだです……、来ますッ!」
第二波。
突如、タンネの前面に水の壁が現れた。
「ウォーターシールド!」
勇者クリスによる魔法の盾。
大きく水が弾けた。
水が衝撃を上手く吸収し、衝撃波と相殺したのだ。
タンネは感激した。
「クリス様ッ!」
「やられてばっかりは嫌よネ?」
「油断するなぁ!」
第三波。
金属が軋む音。
だがしかし、これはヴァミによる魔力の衝撃波によって防がれたのだった。
「まだ来るぞぉ!? 早すぎて俺様には対処できんッ!」
「波紋の響きィッ!」
だが。
第四波を防ぐ者がいた。
タンネが驚いて発生源を探した。
リュービだった。
反り返るような見事な立ちポーズを決めて魔王に指を刺している。
魔王の目が見開く。
「そしてタケシ様。あなたの次の台詞はこうです。『乱れ飛ぶ魔力の残滓をかき集め、魔力による波を作り上げて衝撃波にぶつけたというのかっ!?』」
「乱れ飛ぶ魔力の残滓をかき集め、魔力による波を作り上げて衝撃波にぶつけたというのかっ!? ……なんだとォ!?」
魔王の驚愕!?
タンネの背中を『ドドドォォォン!!!』という文字が覆う!
「くそっ。この展開ではハリセンが使えない……ッ」
なぜか悔しそうにうつむくウィンと名乗ったイタチを背景に、戦いはさらに激化していく。
再度発生する、魔王による衝撃波。
けれどもこれもリュービが腕を振るって防御した。
「オーハードライブッ! みなさん! タケシ様から教わった技である『波紋』の力によって、私が衝撃波を食い止めます! その間に、どうかッ!」
「わかった! だが、どうする!?」
勇者ユウトの返答。
そこで、突然、魔王が苦しそうに白い仮面を両手で押さえた。
「ぐおおぉぉぉッ」
「そうかッ!」
その姿を見て、勇者ユウヤが閃いたようだった。
タンネは叫んだ。
「どうしましたっ!?」
「あの白い仮面だ! アレが武を操っているんだっ!」
「そういえば、昔、タケシ様から聞いたことがあります!」
リュービが警戒しながらも言葉をつむいだ。
「過去に石の仮面によって悲劇が繰り返された家系があると! ジョ……、確かなんとかの奇妙な冒険とお聞きしましたッ!」
「それだ!」
司令塔は仲間に向かって指示を飛ばした。
「クリスとヴァミとリュービは連携して衝撃波を警戒! 残りは俺と仮面の破壊だ! 全力で行くぞ!」
「了解!」
「タンネ!」
コルトだった。
「コルト!?」
「アレを使うぞ!」
「わかった!」
タンネはコルトの提案に応じ、魔力を素早く練った。
球体を持つように開いた両手の間から炎が産まれる。
炎は、けれどもコルトの剣へと向かっていき、そして、コルトの剣を包み込んだ。
「魔法剣ファイアーソード! うおおおおお!」
「魔王の属性は私と同じ炎。私の魔力では魔王には到底かないません。ですが、私の魔法とコルトの剣術が合わされば……ッ!」
だが。
突如、魔王城の柱から現れた影によって、コルトとの合体剣を受け止められた。
つば競り合い。
白い仮面を付けた男だった。
「この剣筋は……、まさか、クライス隊長!? ……いや、シュイダシャプランコ!」
コルトの驚きに白い仮面の男ではなく、魔王が応えた。
「ふっふっふ。首位打者プランコ? 違うな。コイツは首位打者の他にもさらに打点王のタイトルをも獲得した頼れる主砲。その名も、『二冠王プランコ』だ!」
「なん……、だとぉッ!?」
コルトの絶叫が魔王城に反響した。




