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第4話:時のアーカイブへの鍵 —— 瑠璃色の記憶 ——

「マルちゃんには、まずプロトコルの説明をしたほうがいいかもね」

「プロトコル…『通信規約・手順・ルール』」のことですよね」

セーラが、僕に説明してくれようとしたので、僕はそう答えてみせました。これくらいの言葉の意味は、猫の僕だって知っているのです。

「う~ん、確かにその言葉通りだけどね…例えば、今、こうやって、私とマルちゃんが話してる…このことはプロトコルを必要としないコミュニケーションなの」

「ルールは必要じゃない会話ってこと?」

「どんな会話にもマナーは必要だから、ルール的なことはあるわよね」

「あ、うん…マナーがなっていないと口喧嘩や誹謗中傷になってしまうね」

「プロトコルというのは、ルールを守った上でたくさんのカギを一致させないと、お話ができなくなるということなのよ」

「そうなの?」

「私が配信して、マルちゃんがリスナーとして、私の話を聞くことができるのは、私が情報を発信するための仕組みを利用してるから…

そして、その仕組みを作って、それを使って、マルちゃんたちには生体認証のログイン手順だけでつながるように設計してあるの」

「僕の肉球でポンとスマホをタップすれば配信アプリで簡単につながるから、そんなことは考えてなかった」

「みんなが、簡単につながるようにしておかないと、私の言葉を届けるの難しいでしょ、だから、なるべく簡単につなげるようにしてあるの」


「双子座のロミオは、歴史の守り手とも呼ばれてる…知る人しか知らない図書館の番人だから…貴重な書籍が燃えてしまったら、いろんな人が困るでしょ」

「うん」

「燃えてしまったら困るから、彼はいろんな方法で…主にデータ化ね…それで、文化遺産を守ってるの…だから留守にすることはできない人…なぜか、彼、今は猫の姿だけどね」

「なんか、僕に似てた…僕の耳は折れてないけど」

「そうね…なんで似てるのかな?その説明は、まぁ、ちょっと置いておくね。

古代魚の映像も、ロミオの映像も、おろらく、なんらかのプロトコルを利用して、配信された映像だと思うの。

絶滅した古代魚のデータも、ロミオ自身の姿も、今は双子座の図書館にあるはずだから…意図的につながないと、ここに表示することはできない」

「コピーはないの?」

「コピーかもしれないかぁ…確かに、その可能性はあるわね」

「オリジナルデータ、コピー、実体…そのいずれかでも、誰かが受信しないと映像を見ることも見せることもできない…そして、受信するためには、必ず、鍵が必要になる」

「鍵?」

「そう…マルちゃんの肉球のような接続するための鍵…そもそもスマホがないと無理だしね…その鍵が、この水族館のどこかにあるはず…こんな現象…警察になんか任せられない…

自称シークレット・スペシャル・ゴージャス・ホワイト・ハッカーのセーラ様が優秀なアシさんたちと一緒に解き明かしてみたいということなのよ」

「めっちゃ面倒くさそうだけど」

「一回くらい言ってみたくない?『謎はすべて解けた!』って…」


「……面倒くさそう、なんて言わないでよマルちゃん。これが宇宙のロマンってやつなんだから」

セーラさんはいたずらっぽく笑うと、イエローに向かって指を鳴らしました。

「イエロー、さっきの『古代魚』がいた座標を特定して。そこにある『ゴミ』一つ見逃さないでスキャンしてちょうだい」


「了解、セーラ様。……深度500、水槽の底に不自然な波長を検出。……これは、デジタルデータではありません。物理的な『石』です」


イエローが指し示したモニターの先。暗い砂底に、一点だけポツリと、深く透き通った青い光を放つ小さな石が沈んでいました。

「……瑠璃ラピスラズリ?」

ラスカルさんが声を上げました。


「魚座の海には存在しないはずの鉱石ね。……ホワイト、あれを回収できる?」

「もちろんです、セーラ様。……はい、完了しました」

ホワイトが操作する小型アームが、その小さな石を拾い上げ、防護ガラス越しのケースに収めました。


その青い石がコックピットに持ち込まれた瞬間——。

僕の鼻先を、どこか懐かしい、古い紙とインクの匂いがかすめました。デジタルな空間のはずなのに、なぜか「時間」そのものが香っているような、不思議な感覚。


「これが『鍵』ね。……でも、ただの鍵じゃない。これは『記憶の断片』を物質化したものだわ」

セーラさんが石をスキャンすると、ホログラムとして浮かび上がったのは、膨大なテキストデータではなく、一編の**「楽譜」**でした。


「……あれ? このメロディ……」

ラスカルさんがその楽譜を覗き込み、顔を曇らせました。

「これ、私がずっと探していた……どうしても思い出せなかった、デビュー前の未発表曲のフレーズだわ。……どうして、こんな海の底に落ちているの?」


瑠璃色の石に刻まれていたのは、歌姫の失われた記憶。

「時のアーカイブ」の扉を開くための鍵は、どうやら僕たちが思っている以上に、個人的で、切ない感情に結びついているようでした。

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