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第1話「双魚駅の喧騒と、歌姫のシークレット・レセプション」

魚座の中心母星…水の惑星ピース…星全体が水、氷、雪、海水、その水域と海域を区切るように連なる氷山が両極を占めているのが、遠目に見えました。

赤道部には、モーゼが起こした奇跡のように、広く大きく長い横幅を持つ滝が延々と続いている様子も徐々に見えてきます。

大気圏を抜けて、氷の白や、海藻や水草の緑もちらほらと見え始めたけれど、星全体の色は圧倒的な面積を誇る青の世界でした。

僕とセーラを乗せた列車は、その青の世界の赤道部分の大きな滝を通り過ぎて、水の中の駅…双魚駅に到着したのです。


駅の周辺には、色とりどりの潜水艇と、ノーチラス号のような巨大な潜水艦がいくつもあって、

さらに、その多数の潜水艇や潜水艦を収容することが可能な都市型の超巨大要塞も駅からほど近いところに見えました。

「ここには、水上都市も、もちろんあるけど、ラスカルは、あの水中要塞を拠点にしてるの。

今夜のレセプションまで、少し時間があるから、レストランで新鮮なお寿司でも食べましょ…あ、マルちゃんは、お刺身のほうが好きだったっけ」

「うん、お刺身大好き」

小型のシャトル型潜水艇に乗って水中要塞都市の入場ゲートを潜り抜け、最寄りのレストランでセーラと一緒にお刺身をたっぷりと食べた僕は、レセプション会場のあるホテルへ移動しました。

「疲れたでしょ、シャワーを浴びてから少し眠るといいわ。私はレッドたちと仕事の続きをしたあとでお風呂に入ることにするから」

「うん、そうする」

目が覚めた時には、セーラのほうはもうメイクもドレスもばっちりと決めていて、僕を抱きかかえるとティーカップサイズのホワイトだけを肩に載せます。

レッド、ブルー、イエローは仕事が残っているということで留守番なのです。


シークレット・レセプション…その会場にいたのは、セーラの親友のラスカル一人と、オンライン参加で招待されたメンバーシップメンバーの中でもさらに特別なリスナーだけでした。

「ようこそ、セーラ。相変わらずの地味~~なデザインの最高級ブランドドレスね」

「あなたは、アイドル衣装なのね。レセプションと言ってたから、食事ができるパーティーかと思って、何も食べて来なかったけど…」

「今日は、シークレットだから、ここにいるのは3人だけ…歌は歌いたいから、特別なメンバーだけオンラインで招待してる。二人も良く知ってる人たちだから怖くないでしょ」

魚座のラスカル…目の前で微笑む彼女の姿は、フィギュアとはイメージが全然違ってました。

衣装が紺色のコーディネイトなのは、セーラとマル被りだけど、ゴールドのゴシック調の装飾がたくさん施されていて、ワンピースの裾は膝上でふわふわと翻って揺れていて、華やかさがセーラとはまったく違っているのです。

「ラスカルさん…めっちゃ可愛い!!」

「ありがとう!あなたも可愛いわよ、マルコくん」


「……バレてる」

ラスカルさんに「マルコくん」と呼ばれ、僕は思わずセーラさんの影に隠れました。でも、ラスカルさんはいたずらっぽくウインクをして、僕の耳元で小さく囁きました。

「安心なさい、マルちゃん。女の子同士の秘密は、この海の底では真珠よりも硬く守られるから」


セーラさんの肩に乗ったホワイトが、小さく咳払いをしました。

「ラスカル様、再会の挨拶もそこそこに、そろそろオンラインの『特別なメンバー』たちが待ちきれないようです。ASPSの同期シンクロ設定は完了しています」


「了解よ、ホワイト!……さあ、世界で一番静かな、そして一番熱いライブを始めましょうか」


ラスカルさんがステージの中央に立つと、会場の照明が落ち、代わりに無数の発光クラゲのようなホログラムが空間を埋め尽くしました。ASPSが起動し、彼女の歌声が「音」としてではなく、直接、細胞を震わせる「波動」として響き渡ります。


イントロが流れた瞬間、僕は息を呑みました。……それは、僕がクイズ大会で答えたあの曲。

でも、何かが違います。ラスカルさんの歌声の背景に、見たこともないセピア色の街並みや、遠い時代の子供たちの笑い声が、ノイズのように一瞬だけ混じったのです。


(……いまの、何?)


僕が耳をそばだてた瞬間、モニターの端に、セーラさんが作ったはずのない古い『書庫』のようなアイコンが点滅し、すぐに消えました。

ラスカルさんの圧倒的な歌声に酔いしれるオンラインリスナーたちの歓声チャットの影で、何かが、もっとずっと古い何かが、この水の惑星の底で目を覚まそうとしている。そんな予感に、僕の短い毛が逆立ちました。

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