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能力

 マジックバッグには食べ物があるが……どれくらいこの袋に入っていたのか分からないから食いたくない。水は二日分あるかないかの量しか入っていない。先ほどヤドが起こした波で砂浜に上がった魚の尻尾を掴み観察する。鯛に似ているが黄緑と鮮やかな黄色の縞々模様で見たことのない魚だ。


「これ、食えるのか?」

「ああ、それはウキウキって魚で美味いぞ」

「ご機嫌な名前だ」


 思わず笑ってしまう。この魚はヤドが前世でよく食べていたという。


「焼いても煮ても美味いやつだ」

「生は?」

「食えるぞ」


 これで食い物はなんとかなるだろう。問題は今後の水だが……。


「ヤド、飲み水は出せるのか?」

「そんなの余裕だぜ」


 ヤドがはさみを上げると小さな水玉が目の前に現れる。水玉を飲んでみろとヤドに急かされたので恐る恐る口を付けて吸ってみる。


「普通に美味い水だな」

「だろ」


 ヤドがはさみを腰当たりに添え、胸を張りながら自慢げに言う。

 これでこの状態でもなんとか凌げそうだが――


「ヤド、火は出せるのか?」

「水の魔法以外出せねぇが……お前なら出せるはずだぞ」

「は? 俺が?」


 ああ、そうだ。208にあのルーレットで能力を授かっていたのだった。でもあれで火が起こせるのか……。


「ルーレットか?」

「違う。その体が元々持っている能力だ」

「アルスの能力か……」


 ヤドがフムフムと言いながら小走りで俺の足元を回る。なんだ?


「208もセンスがいい。身体はぶよぶよの豚だが、潜在能力は高いぞ」

「豚……いや、それより俺の能力が分かるのか?」

「お前も念じれば、使える能力が詳しく視えるはずだ」

「念じるとはなんだ?」

「ああ、そこからか。仕方ねぇな」


 ヤドに『念じ』の方法を教えてもらう。身体のエネルギーを眉間に集中するといわれたのだが……十数分やってみているが上手くできない。


「頭を空にしろ。何も考えず眉間に集中したら文字が頭に入ってくるはずだ」

「簡単にそう言うが、難しくないか?」

「それなら、俺を触ってみろ」


 そうヤドに言われたが、躊躇する。


「どこに触ればいいのだ?」

「どこでもいいぞ」


 人差し指でそっとヤドの殻に触れると、ビリッとした電流が流れるのを感じた。電流の温もりは指先から徐々に全身へと広がっていった。


「温かいな」

「分かるか? アルスの中にもあるだろ?」


 確かに身体の中に同じ温かさを感じる。この感覚か。今ならいけそうだ。

 集中して眉間に体内に宿る温かさを集めると、頭の中に濃い黒文字が浮かび上がってきた。


【心身強化】

【基本魔法】

【植物魔法】

【ルーレット】


 続いて消えそうな灰色の文字が後に並ぶ。


『召喚魔法』

『縮小魔法』

『占い』


【心身強化】に意識を集中すれば無数の枝分かれした文字が浮かんできた。その中で黒文字はひとつ【痛覚鈍化】だけだ。灰色の文字に集中しても何も感じなかった。

灰色文字の中には『熱耐性』『硬化』『水中呼吸』……など多く枝分かれしていた。

 枝分かれした灰色の文字に気になる項目がひとつあった。


『不老不死』


 これは……。

 しばらく呆然と灰色の文字を眺める。これは何かの間違いなのか?

 ヤドが急かすように尋ねる。 


「それで? 視えたか?」

「ああ。視えたが、文字の視え具合が違う。濃く浮かび上がっている文字と消えそうなくらい薄い灰色の文字がある」

「……そこまで視えているのか。濃く浮かんでいるのは今現在使える能力だ。儚い文字は潜在能力だが、今後使えるかはアルスの鍛え次第だ」


 それはつまり心身強化を鍛えれば不老不死になるということか? そんな能力は正直希望していないのだが……。


「鍛えるにはどうしたらいいのだ?」

「その原理はな、俺にも分からない。ただ俺が人だった時は、身体を酷使して使える能力の性質を上げることで新しく使用できる潜在能力が芽生えた」

「曖昧だな。とにかく能力を使えばいいのか?」

「俺はそうしたが……とりあえず心身強化ので今使える能力はなんだ?」

「痛覚鈍化だ」

「悪くないな。痛覚鈍化するように念じてみろ」


 先ほどの要領で意識を集中しているとヤドが手の甲を強く挟んだ。


「痛って! おい! いきなり何をする!」

「痛覚鈍化していないな、もっと集中しろ」

「せめてはさむ前に一言、声を掛けてくれ」

「分かった、分かった。挟むぞー」


 痛いのは嫌だ、と手の甲に意識を集中させヤドの攻撃を受ける――


「痛くないな……」

「成功だな」


 ヤドが手の甲を挟んでいる感覚はあるが、先ほどとは比べものにならない痛さだ。赤くなった手を見つめる。


「これは凄いが、痛覚が鈍くなるだけで怪我はするのだな」

「痛みを鈍化させるだけだな」


 耐えられない痛さの時は使えるが、通常生活で使っていたら怪我をしたのを気付かないので厄介だな。


「気を付けて使用するべき能力だな」



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