とりあえずなんか食いたい
時計、財布、身分証、服セット1、服セット2、寝袋、タオル、袋1、袋2、短剣1、短剣2
表示されるのは見知った文字だった。
「日本語だ」
「それは208が生活に必要な言葉や文字の理解を追加したのだな。これは、インブラン帝国語だ。そうか、ここは帝国なのか……」
俺には日本語に見えているこの文字はインブラン帝国という国の文字らしい。
「インブラン帝国?」
「ああ、俺が人間の時に戦っていた敵国だが、元は俺の祖国だ」
「そうなのか……」
これは踏み込んでいいか分からない話題だ。迷っていると、ヤドがはさみでチャームから現れた画面を指しながら言う。
「しかしこの金色の飾りはなんだ。覚えがないな」
ヤドがはさみでチャームの画面を突くと、当たった【時計】が目の前に現れた。
「おはっ」
地面に落ちそうになった時計を急いでキャッチする。
時計は懐中時計で、中を開くとアルスの名前が刻印されてあった。
――アルス・エル・ファングリフト
それがアルス少年のフルネームのようだ。
試しに【身分証】を押してみると、ノートのようなものが現れた。
「これはタッチ式で押した欲しい物が出てくるようだな」
「触れたものが出てくるのか、帝国にそんなものあったのか?」
ヤドが首を傾げながらチャームと睨み合いする間、身分証を開く。
最初のページにはアルス少年の写真の隣に出身地や年齢などが記載されていた。次のページをめくれば検問などの記述があった。
アルス少年はファングリフト領を出発、いくつかの街を経由して最後はマティラルという街から乗船のスタンプが押してあった。それならば、船の上で暗殺されて海に落とされたのだろうか?
身分証の上に乗って何かを確かめるヤドに声を掛ける。
「何をそんなに必死に見ているんだ?」
「ここだ。帝国545年……俺が死んでから200年近く経っている」
「そんなにか?」
「ああ、道理でアイテムバッグがはるかに高性能になっているわけだ」
ヤドの時代、アイテムバッグは手を入れて弄り感覚で必要なものを取り出していたという。
「ナイフとか入れていたら刺さらないのか?」
「ああ、何度か刺さったな」
「怖いな。それ」
マジックバッグに入っていた他の物も確認する。財布には小中の銅貨と銀貨、それに金貨が数枚入っており、アルスの名前が刻んである青い金属製のカードらしきものも入っていた。カードの裏には商人ギルドの文字が刻んであった。ギルドがあるのか……。
服セットは季節の服が十数枚あったので、適当に着替える。
「靴もあって助かった」
袋1にはアルス少年の日記などの私物が入っていた。
日記か……なんだか他人のプライバシーを覗くのもなぁ。だが、確認は必要だ。ちらりと最初のページを捲ると隅から隅までびっしりと文字で埋まっていた。
この確認は後でするか……。
袋2には乾燥した干し肉、パン、レモンの蜂蜜漬けのようなもの、見たこともないような果物……? それから水と酒にちょっとした調理具と調味料が入っていた。
袋1の中にあったペンダントを開くと、アルスに似た女性と幼い女の子の写真が埋め込まれていた。アルス少年の家族だろうか?
アルス少年は家督争いに負けたと208は言っていたが、後で日記を確認すればなにか分かるかもしれない。
短剣も確認する。一つは護身用、もう片方はシンプルな調理ナイフのようだ。
取り出したものをすべてアイテムバッグに戻す。
「あー、濡れた服はどうすっかな。このまま袋の中に入れたら臭くなりそうだな」
「それなら俺に任せろ」
ヤドが服に浸みた海水を水の魔法で吸い上げると、服は綺麗に乾燥した。凄いな、このヤドカリ。
「完全に乾いているな」
「それくらいなら余裕だ。それより、これからどうするのだ?」
肩に乗ったヤドがため息混じりに言う。ヤドカリってため息を吐けるのか……。
「さて、どうするかな」
左右前後に広がる海を見ながら苦笑いをする。
俺たちのいる場所は小さな島のようだ。後ろには生い茂った森があるが、辺りを見る限り人がいるような様子はなく無人島の可能性が高い。どこまでも続く一面の海だ。
これ、終わってないか?
二度目の人生、無人島スタートって結構な罰ゲームじゃないか?
「アルスは、こんな状況なのに落ち着いているな」
「そんなことはない。内心は焦っているさ。でも、まずは水と飯だろ?」
飯と口に出すと急に腹が空いていることに気付く。
今までに感じたことないくらいかなり腹が減っている。このデブボディはのせいか、食べ物が食いたくて仕方ない。




