観察
アロエに似たヴァノミアの雄を水に沈めて半日、ようやくアロエの元気がなくなり萎み始めた。
ヤドの魔法は俺のそれとは根本的に違うようで、水関係は制限なく使えるようだ。ただ、水玉を出し続ける弊害はあった。
ヤドが不機嫌に愚痴る。
「また、腹が空いた」
「完全に数週間前の俺だな」
「仕方ないだろ」
少し前の俺と立場が逆転したかのように、魔法を使い続けるヤドは食欲旺盛になっていた。
「魚をまた焼くから、待ってくれ」
「貝も焼いてくれ」
「たくさん焼いてやるよ」
次の日、水玉にずっと包まれていたヴァノミアの雄は、半分の大きさになって先端が枯れていた。
触れてみても動きはほぼない。
魚を貪り食うヤドに声をかける。
「丸一日かかったな」
「しぶとかったな」
「ヤド、体調は大丈夫か?」
「問題はない。だが、雌のほうは身体も大きいからな。一日では済まないはずだ」
「あの凶暴な棘や蔓もあるしな」
蔓に関しては考えがある。問題は、あの危険な棘だ。
昨日は焦って逃げたが、あの棘の追撃はなかった。思えば、ヴァノミアの棘はすぐには再生していなかったような気がする。もしかしたら、連発できないのか? それなら勝率は上がりそうだが……。
魚を食い終わったヤドが、はさみを綺麗にしながら尋ねる。
「何か考えがあるのか?」
「準備が必要だな。あと、ヴァノミアをもう少し観察したい」
備えあれば憂いなし。とりあえず、ヤドの食料確保が必要だ。
それに、ヴァノミアが別の奥の手を持っているかもしれない。慎重に倒さなければならない。失敗でもして、こんな無人島でサボテンの餌だけにはなりたくない。
次の日、緊張しながらヴァノミアの観察に向かう。昨日より遠い位置だが、奴の姿を捉える。できるだけ足音を立てないように、ゆっくりと歩いたおかげで奴には気づかれていない。
赤い花のみで丸いサボテン部分が見えない。サボテン部分を露わにするため、ヤドの水魔法に乗せて小石をヴァノミアの赤い花にぶつける。
小石が花弁に当たると、すぐに本体のサボテンが現れた。ツルツルのサボテンだ。
小声でヤドに言う。
「棘の再生はまだできていないようだな」
「見えないだけで、まだ撃てたらどうするんだ?」
確かにそうだ。
木に隠れながら、昨日と同じ要領で無数の小石を四方に投げ、ヴァノミアの注意を分散させると雄のアロエを一つ奪った。
昨日と同じようにブチ切れたヴァノミアだったが、棘を放つことはなかった。期待通り、再生には最低一日以上時間がかかるようだ。
ヤドが焦った声で言う。
「アルス、奴に見つかった!」
「うわっ」
迫ってくるヴァノミアの蔓を操り、地面へと縛り付ける。昨日よりも冷静に対処できている。
伸びてくる蔓を確実に操る。十、二十、三十、四十……五十を過ぎるくらいで限界を感じる。
「ヤド、これ以上は無理だ。逃げるぞ!」
「追跡の蔓は俺に任せろ!」
ヤドが水魔法でヴァノミアの蔓を撃ち落とす間、俺は全速力で走った。
ヤドが以前、バツ印をつけた木を通り過ぎる。ここまで来れば大丈夫だろう。
息切れしながら肩にいるヤドに尋ねる。
「はぁ、はぁ。撒けたか?」
「ああ、だが見てみろ」
振り返れば、切れたヴァノミアの蔓が地面で蠢いていた。それは、ヤドの付けた印のある木よりも確実に進んだ場所に落ちていた。
この成長の速さなら、数週間もすれば浜辺まで蔓が届く……。
「時間がないな……」