ヌルヌル
最初にした感触は、足に何か滑りのある植物があたったのかと思うほど微かな接触だった。
「アルス! 足元!」
ヤドの焦った声が森に響くと、すぐに滑りのある植物の蔓が足に絡み引っ張られる。バランスを崩し腹を地面に打つと、その衝撃でヤドがどこかへと飛んでいった。
痛覚鈍化を掛けていたから腹打撲はさほど痛くないが、痛覚鈍化のせいで足を取られたことに気づくのが遅れた。
力を込めひっくり返り起き上がると、足元には太いヌルヌルした蔓が何重にも巻きついていた。
「これ、なんだよ!」
足元の蔓を掴み、取り外そうとするが……滑りのせいで手が滑る。
このヌルヌルした液体の感触は納豆のようなベタつき感もあり、とにかく気持ち悪かった。
ヤドが猛スピードのヤドカリ歩きで駆けながら叫ぶ!
「アルス! 大丈夫か!」
「ああ、だがこの蔓、滑りあって全く取れない」
「なんだぁ、こいつは。気持ち悪いな」
ヤドが水で蔓を攻撃してみるが、逆効果だったらしく次々に新しい蔓が生え一層俺の足元に纏わりついた。
そのうちに蔓が俺を引っ張り始め……止まる。
その行動が何度か繰り返されると、諦めたのかのように俺の足は解放され、蔓はどこかへと消えていった。
「なんだったんだ、あれ」
「植物の魔物かもしれないな。そのせいでこの島には動物がいないのかもしれない」
「人喰い植物ってことか?」
「だろうな」
最悪だ。人喰い植物なんて冗談じゃない。
「だが、諦めたぞ。なんでだ?」
ヤドが俺の腹を見ながら言う。
「そりゃ、まぁ……引きずれなかったからだろうな」
「……助かったな」
難を逃れたのは嬉しいが、その理由は悲しいものである。人喰い植物にも重量オーバーのこのわがままボディ。痩せてやるから待ってろよ!
ヤドが肩に乗り、人喰い植物の蔓が引いた方角にはさみを向ける。
「じゃあ、どんな魔物なのか確認しに行くか」
「そんなことしなくていいだろ」
「いや、今後のためにも確認したほうがいい」
蔓が伸びてき浜辺で寝ている時に首を絞められたらどうするのかとヤドに問われる。
そんな恐ろしいこと考えたくないが、それなら確かに確かめたほうがいい。
「確かめたら、今日はもう帰るからな」
「意外と食えるやつかもしれないぞ」
「野菜……いや、確かめるだけだ」
ゆっくりとできるだけ静かに歩き、蔓の戻った方角を進むとアロエの群生と真っ赤なハイビスカスのような巨大な花が一輪佇んでいた。
「あれが人喰い植物か?」
「俺も初めてみるが、たぶんな」
ハイビスカスの花は綺麗だが、どこから食うんだ?
ヴォンと頭の中で音がすると、ハイビスカスの上に文字が現れた。
【ヴァノミアの大食い花(雌)】
レア度★★★★★
動物を食らい成長する魔物
赤い花は誘導であり、本体はその下に潜んでいる
雄は火傷の薬になる