釣り
昼食にヤドの釣った魚を焼き、梅干しを付けて食べた。
魚を口にいれ、頷く。
「これは、美味いな。魚を揚げることができればもっと美味いだろうな」
「マジックバッグに油もあっただろ?」
「あるけど、揚げ物なんかしたら一回で終わる」
塩に関しての心配はない。なんせ海があるのだから。だが、他の調味料はもう底をつき始めている。走れるようになれば、森になっている部分に足を踏み入れる予定だ。そのためにはとりあえず痩せないと……。
◇◇◇
この無人島で目覚めてから二十日目の朝を迎える。
「ルーレット、今日は梅干しを頼むぞ!」
ルーレットを唱える。梅干しが新登場してから、一度しか当てていない。代わりに粗品タオルは日々増えて行くだけだ。今日こそ梅干し来い!
『パッパラパー、タオルが当たりました~』
「またタオルか!」
『また明日も遊んでね!』
憎たらしい幼女の機械音だ。
俺は毎日、植物操作が使えるようになってからは練習をした。始めは操作ができずに蔓が多方に飛んで行った。だが、一度コツを掴むとそこからは意外と簡単だった。
「ヤド、見ろ。蛇使いだ」
にょろにょろと蔓を蛇のように躍らせると、ヤドが感心する。
「ずいぶん上達したな。これだった他の植物操作もできるんじゃないか?」
「自分の蔓以外もできるのか?」
「俺が海の水を操れるのと同じ原理なら可能だろうな」
近くにある草に手を翳し、蔓を操作する要領と同じように念じてみる。すると、ほんの気持ち程度に草が動いたような気がした。だが、俺の植物操作なのか風なのか曖昧なレベルだった。
蔓生成は今では五十五本まで出せるようになり、最初と比べれば均等に太く長い蔓を生成できるようになっていた。蔓は十本分までの力で一本を作ることもできるようになり、長さも太さも二、五、十倍と調節できようになってきた。
運動に関しては、今は毎日二、三時間ほどやっている。少し動けるようになった時に調子に乗って急激に運動をしたら、足首を痛めて二日くらい運動ができなかった。ゆっくりと、だが着実に痩せられるように努力をしている。
水中トレッドミルは一日一時間ほど、ストレッチや腹筋などをして、午後からは島の回りを散歩するのが俺の日課になっている。
体重計がないため、自分が何キロなのかは把握できないが……この二十日間で少なくとも十キロは痩せたと思いたい。元が百、いや百三十はあっただあろうから、それからの十キロは食生活と少しの運動で達成したことになる。以前のアルスがどんな食生活を送っていたのか気になるが、この二十日間で食欲はかなり抑えられるようなった。
食生活はほぼ魚と貝だけなので、そろそろちゃんとした野菜が食いたい。後、十キロ落ちれば、森を散策したい。少しは走れるだろう……だよな?
ヤドが蔓を指差しながら言う。
「アルス、今日は釣りに行くぞ」
「今日こそ釣りたいな」
植物操作の練習をかねて、蔓で魚釣りをするのがあれの楽しみなっている。まだ全く釣れていないが……。
岩場に座り、五本分の蔓を生成する。
「さてさて、今日は釣れるのか?」
「タイミングだ。タイミング。昨日は焦りすぎたぞ」
ヤドが肩の上から助言をくれる。
昨日は、魚をもう少しで捕まえられそうだったが、焦って蔓を早く動かしたせいで逃げられてしまったのだ。
蔓を海に投げ、葉を小さく水面で揺らす。遠目でも魚が寄ってきているのが分かる。
「今だ!」
蔓を操作して、一気に魚に絡める。
「よっしゃ! やったぞ!」
蔓を引き寄せると、小ぶりだが魚がしっかりと釣れていた。
魚の尻尾を引き寄せ、観察する。初めて見る魚だ。
肩の上で静かになるヤドに尋ねる。
「やけに黒い魚だが、これは食えんのか?」
「……いや、毒魚だ」
「嘘だろ!」
せっかく釣ったのに!
ため息を吐き、魚を海に捨てた。
「もう一度やるぞ。今日は絶対釣ってやる」