帰る陸
電話が終わると、陸はいう。
「僕、帰るね」
「…あ、ああ」
桜子は優しい声でいう。
「陸くん。気をつけて帰ってね」
陸は頭を下げる。
「はい。失礼します」
かいとはいう。
「…また明日、陸」
桜子もこくりとうなずく。
陸は柔らかく笑顔で答える。
「またね。かいと」
玄関まで陸を二人は送った。
手を振る。
あるアパート
陸は部屋へと入る。
「ただいま。お母さん」
そこには陸の母がいる。
いつもは遅いが今日はいるようだ。
なら、敬造も帰っているのかもしれない。
母は茶の色をした髪を後ろで一つまとめている。
優しい顔で笑う。
陸はお団子に女子制服を着ていた。
「おかえりなさい。里多。里多!?けがしたの!?」
母は心配をする。
陸は笑顔を作る。
「ただいま…大丈夫だよ…あと、僕は」
でも、陸は自分の名前を伝える。
陸は姉と似た姿をしているのは姉のようになりたかったというのと…この姿の方が母はうれしそうにしていたからだというのもある。
でも、それは…よくないから。
自分が誰かは伝えるようにするようになった。
「…お母さん。僕は陸だよ」
「陸。そう。陸なの」
陸の母は興味をなくしたようにそっぽを向く。
陸の母は里多が出ていってからは陸を代わりにするように接していた。
陸もこれでいいと思っていた。
でも。
代わりにされるとは辛いことだ。
とても。
それでも、この関係で二人ともいるのだ。
もしこの関係が変わるには歩みよりが必要なんだろう。
けど、そんなのは簡単じゃない。
里多は、出ていくとき、母には何も言わなかったが陸には声をかけていった。
数年前。 あるアパート 玄関
陸は焦るようにいう。
「本当に出ていくの?どうやって、住むとことか、お金とかどうするの?」
「…自分でどうにかする」
「…どうにかって、無理だよ!一人で生活しようとするのなんてできないよ!」
里多はきつく目を鋭くさせる。
「…私、お母さんにほめられてばかりだった…今もそう。でも、陸に対しては冷たいとか気づかないふりしてたし…私はひどいやつだ…きっと、ずっとそういうやつのまま」
陸はたしかにそれで里多のことは嫌いだったが。
でも。
「無理だよ…里多」
「私はここにいたらだめになる」
言い放つ。
「…」
陸は姉のその言葉に何も言えない。
「…私も陸も自由になっていいんだよ?」
自由なんて。
そんなの。
「陸はどうする?」
_どうする?
_なんだ、それ?
_僕、は
「僕は生きていけない」
それが陸の答え。
里多はどこか目線を落とすが陸をまっすぐに見る。
「私は私で生きていく。無理?行くよ、私は」
手を振り、どこか震えながらも扉を開ける。
扉の外はただの外なのに。
陸には輝くような光が見えた。
自分の後ろは真っ暗闇に感じた。
「じゃあ、陸。私は行くから。さようなら」
陸は何も言えない。ただ、自分は残る方を選んだ。
たまに思う。
自分も勇気を持ってあのとき、選んでいたら。
また違う…せかいだったかもしれない。
唇をかむ。
でも、なんとか生活は…できている。
それは、守られているからだ。
守られている。
自分は。
陸は一度、外へと出る。
あの時
_「陸はどうする?」_
僕は選べばよかった。
僕は、心の中で逃げたく、でも…何も力がなかった。
逃げることさえ、選べなかった。
僕も、行けばよかった。
僕も…たとえ、どんな絶望が自分を襲うかわからなくても。
選べばよかった。
でも過去はやり直せない。
_彼は進んでいくだろう_
それでも。
陸はつぶやく。
「でも………わかんないな。これでよかったのかな…」
_でもここにいるのは僕だ。
_ここにいたのは僕だ。
_それでも、
_ここにいたのは僕だ。
_それは変わらない、と思う。




